第297話 レグナリア航路
第一防衛圏の外周拘束を抜けた。
その報告が艦内に流れた時、ルクス・ヴァルキュリアの中に大きな歓声は起きなかった。
誰もが分かっていたからだ。
突破したのは、第一防衛圏の一部。
開いたのは、帝国本国圏の奥へ向かうための細い進路。
背後にはタナトスとモルスが残り、前方には帝都ネメシア、帝国中央軍港『レグナリア』、巨大建造ブロック『カルディア・ベイ』、そしてPT研究中枢が待っている。
戦いが終わったわけではない。
ただ、次の戦場へ向かう道が開いただけだった。
それでも、艦内の空気は確かに変わっていた。
第一防衛圏の圧迫感。
認証網に見られ、分類され、返事を求められる空域。
その外周拘束を抜けたことで、少しだけ呼吸が戻った。
だが、呼吸が戻ったからこそ、戦闘の後始末が一斉に押し寄せてきた。
格納区画は、静かではなかった。
アルタイル・ノヴァ・ブレイス。
GF-03 ヴェルディア。
GF-07 リーフガード。
フェンリオン・リサイト。
ロス・セレネ。
ヴァイス・リッパー・リビルド。
ヴァルクレイド・セレス。
ノクス・レクイエム。
第一防衛圏で酷使された機体が、順番に整備ベイへ送られていく。
整備班の端末には、異常値と点検項目が山のように並んでいた。
誰かが大声で怒鳴る余裕すらない。
整備員達は無言で端末を見つめ、無言で工具を取り、無言で次の作業へ移っている。
その中で、グリッドだけが代表して文句を言っていた。
「ノクス限定起動。セレス防壁過負荷。リーフガード初実戦。ホライゾン・サイト急造二射。ロス・セレネ残響波長時間使用。フェンリオン照準補助AI高負荷。おまけにエデン系流路ユニット追加使用」
グリッドは端末を睨みながら、深く息を吐いた。
「一回の防衛圏突破で、整備班を何回殺す気だ」
隣で記録端末を抱えていたコウタが、疲れた顔で手を上げた。
「グリッドさん、一応まだ生きてます」
「死んでないだけだ」
タツヤ・グレンが、アルタイル・ノヴァ・ブレイスの外装を確認しながら低く言った。
「カイト機もブレイスユニットの負荷がでかい。こっちはこっちで笑えねえぞ」
「笑ってる場合じゃないですね……」
コウタは次に、GF-07 リーフガードの損傷ログを見て顔を引きつらせた。
「リーフガード、外縁部が焼けてます。防護層でビーコン接触を受けすぎです。これ、また出すんですか?」
「出せるようにするんだよ」
グリッドが即答した。
「直るかどうかじゃねえ。直すんだよ」
コウタは数秒黙ってから、端末を抱え直した。
「整備班って、たまに戦闘班より無茶言われますよね」
「今さら気づいたか」
タツヤが短く返した。
少し離れた場所では、エルが《ホライゾン・サイト》の射線ログを確認していた。
仮設の長距離狙撃支援ユニット。
フォージ由来の工廠制御サンプルと、エデン由来の術式流路ユニットを組み合わせた急造装備。
モルスの誘導節点を撃ち抜くために使われたそれは、見た目以上に繊細な代物だった。
「理屈としては通っています。でも、これを実戦で二射したのはかなり無茶です」
エルは端末を拡大しながら言った。
「フォージ系の制御で射線を固定して、エデン系の流路で一瞬だけ伸ばす。構造としては面白いですけど、安定性は低いです」
「面白がるな」
グリッドが言う。
「面白いものは面白いです。ただし、三射目を撃っていたら壊れていたと思います」
コウタが顔を上げた。
「壊れるのは装備だけですか?」
エルは少し間を置いた。
「……フェンリオン側の照準補助AIにも負荷が残ります」
「ですよね」
コウタは小さく呻いた。
タツヤが工具を置き、グリッドを見る。
「次に使うなら、整備班と解析班の両方で承認を噛ませろ。黒瀬の手続きに追加だ」
「分かってる。面倒だが、今はその面倒で助かってる」
グリッドはそう言って、焼けた流路部品を外した。
そこへ、ラスト・オーダーの回収班が外部中継点の残骸を運び込んできた。
戦闘に出ていない者達も、戦場の外にいたわけではない。
外装の焦げた支援中継端末。
砲撃の余波で歪んだ固定フレーム。
監察局ビーコンの破片。
リーフガードの防護層に付着した認証網由来の干渉片。
回収班はそれらを分類し、整備班へ引き渡していく。
その後ろから、リノヴァ・セイルが作業記録を持って入ってきた。
「外部中継点三番、残骸回収完了。五番は半壊、七番は基部だけ残っています。使えるものと廃棄するものは分けてあります」
「助かる」
グリッドが短く答えた。
「ただし、使えるものは使う。使えないものは記録して捨てろ。間違ってもユイの倉庫に戻すな」
近くで聞いていたユイが、少しだけ視線を逸らした。
「戻しません」
「本当だな」
「今回は本当です」
「今回は、って言ったな」
コウタが小さく笑い、タツヤもわずかに肩を揺らした。
その笑いは短かった。
だが、第一防衛圏を抜けてから初めて、格納区画に少しだけ人間らしい空気が戻った。
医療区画では、ナユが検査を受けていた。
ロス・セレネの《セレネ・リップル》を長時間使った影響で、頭痛と視界の揺れが残っている。
大きな異常はない。
だが、無理をしていい状態でもない。
カナデが端末を見ながら言った。
「ナユちゃん、次に同じ使い方をする時は、必ず休憩を挟んでね」
「はい」
ナユは素直に頷いた。
「ただ、砲撃が来るなら……」
「その時はカイルさんやリンさんが判断するわ。ナユちゃんが全部拾おうとしなくていいの」
隣で診察補助に入っていたモルド・クフェンが、別の端末を確認する。
「身体的な損傷はありません。ただ、神経負荷は軽くない。残響波の長時間展開は、記憶の揺れにも影響する可能性があります」
ナユは少しだけ視線を落とした。
「記憶……」
「脅しているわけではありません」
モルドは落ち着いた声で続けた。
「だからこそ、休ませる必要があるという話です。次に必要な時に動けるように」
その横で、リンが壁に背を預けている。
「拾うのはあなたの役目。でも、使うタイミングを決めるのは一人ではない」
「はい」
ナユはリンを見た。
「リンさんは、ずっと守ってくれていました」
「護衛だから」
「それだけですか」
「それだけ」
リンは短く答えた。
だが、その声に冷たさはなかった。
そこへ、アイナが水の入った容器と軽い補給食を持って入ってきた。
「すみません、検査中に失礼します。ナユさん、少しでも食べられそうですか?」
ナユは少し驚いた顔をした。
「食事、ですか」
「はい。頭を使いすぎた後は、何か入れた方がいいです。カナデさんにも確認済みです」
カナデが頷く。
「許可しています」
ナユは補給食を受け取った。
「ありがとうございます」
アイナは少し笑う。
「戦闘には出られませんけど、こういう時に何もできないわけじゃないので」
その言葉に、ナユは少しだけ視線を落とした。
「私も、少し前まで何ができるのか分かりませんでした」
「でも、見つかったんですよね?」
「はい」
ナユは小さく頷く。
「撃たれる前の残響を、拾えました」
「なら、今はそのために休んでください」
アイナは穏やかに言った。
「次に拾うために、今は休むんです」
リンが短く言う。
「同じことを言った」
「そうなんですか?」
「言った」
ナユは二人を見て、少しだけ笑った。
「では、休みます」
別の保護区画では、アミィの状態確認が続いていた。
第一防衛圏を抜けたことで、外周からの再同期波は一時的に弱まっている。
だが、代わりに帝国中枢側からの命令層反応が濃くなっていた。
アミィはレータの隣に座り、膝の上で手を握っていた。
「奥から、呼ばれる感じがします」
カナデの補助端末を見ていたエルマが、静かに頷く。
「第一防衛圏の認証波とは違います。もっと深い命令層反応です。まだ直接命令ではありませんが、アミィの反応に触れようとしています」
モルドも端末を確認する。
「身体反応は安定しています。ただ、呼吸が浅くなっています。無理に我慢しないでください」
アミィは小さく頷く。
「はい」
レータはアミィの手を握る。
「返事は」
「しません」
アミィはすぐに答えた。
その返事は、以前よりもはっきりしている。
「でも……怖いです」
言い終えてから、アミィは少し不安そうにレータを見た。
「怖いって、言っていいんですよね」
「いい」
レータは迷わず答えた。
その近くにいたアイナも、静かに頷いた。
「怖いなら、怖いって言っていいと思います。返事をしないって決める前に、まず怖いって言ってもいいんです」
アミィはアイナを見る。
「怖いと言うのも、返事ですか」
「命令への返事ではないです」
アイナは少し考えてから言った。
「自分の気持ちを、誰かに伝える言葉だと思います」
アミィはその言葉を、ゆっくり受け取るように黙った。
「自分の気持ち……」
レータが言う。
「怖いなら、怖い。嫌なら、嫌。戻りたくないなら、戻りたくない。全部、あなたの言葉」
アミィは小さく頷いた。
「怖いです。でも、戻りたくないです」
ヴァルクレイド・セレスの防壁反応が、わずかに安定した。
エルマが端末を見て、少しだけ表情を緩める。
「自己応答、安定」
レータはアミィの隣に座ったまま、静かに言った。
「なら、そのままでいい」
ノクス・レクイエム封印区画。
ユイは、限定起動後の検査を受けていた。
ノクス本体は再封印済み。
前回より短い起動だったため、負荷は抑えられている。
それでも、完全に無傷とは言えない。
グリッドが端末を見ながら言った。
「ユイ、次の限定起動は少し間隔を開けたい」
「分かっています」
「分かってる顔はしてるが、必要なら出るって顔もしてる」
「必要なら出ます」
「ほらな」
グリッドはため息をついた。
「出るなとは言わん。だが、今回みたいに承認を待て。こっちも止めるためじゃなく、使うために準備する」
タツヤが横から補足する。
「ノクスの封印系統も、毎回余裕があるわけじゃない。短時間起動でも、第一防衛圏内だと認証網に引っ張られる。次は、起動前の検査を一段増やす」
「はい」
ユイは少しだけ目を伏せる。
そこへカイトが来た。
「ユイ、大丈夫?」
「はい。前回よりは楽です」
「それ、本当に大丈夫な時の言い方?」
ユイは少し困ったように笑った。
「カナデさんにも同じことを言われました」
「じゃあ、大丈夫じゃない寄りだね」
カイトの言葉に、ユイは小さく息を吐いた。
「完全ではありません。でも、前より一人で抱えていない分、少し楽です」
グリッドが端末を閉じる。
「なら、なおさら一人で勝手に起動するなよ。黒瀬の手続きが面倒でも、あれで助かってる」
「はい」
ユイは頷いた。
「承認を待ちます」
その言葉は、以前より自然だった。
艦橋では、第一防衛圏突破後の戦術整理が進められていた。
中央画面には、第一防衛圏で使用された対策が一覧表示されている。
ノクス・レクイエム限定切断。
ヴァルクレイド・セレス防壁。
ロス・セレネ残響索敵。
ヴァイス・リッパー・リビルド護衛。
フェンリオン・リサイトと《ホライゾン・サイト》による誘導節点狙撃。
ルナ・スケイル・リフレクトの狭域支援網。
イリスの位相誤差補正。
GF-07 リーフガードの支援網外層防護。
黒瀬による承認手順整理。
ジンは画面を見ながら言った。
「第一防衛圏で得たものは多い。だが、監察局も同じだけ記録している」
黒瀬が頷く。
「はい。次回以降、同じ手順は妨害されると見ていいでしょう」
ミオが言う。
「支援網の形は毎回変えます。同じ線を使うと読まれます」
イリスも続ける。
「位相補正も、固定パターンは避けます。偽の残響を混ぜられる可能性があります」
カイルの通信が入る。
『ナユの索敵も休ませながらだ。あれを常時展開するのは無理だ』
リンが短く付け加える。
『護衛位置も変える。ビーコンが学習している』
セラは《ホライゾン・サイト》の再調整状況を確認しながら言った。
「狙撃支援は、次も使えるとは限りません。射線を伸ばすたびに、向こうに経路を読まれる可能性があります」
黒瀬はそれらを記録する。
「全て、次回運用条件に反映します」
グリッドの通信が入る。
『ついでに整備班の休憩条件も入れろ。人間も機体も、使ったら整備がいる』
ジンは短く笑った。
「黒瀬、記録しておけ」
「はい。戦闘員以外の負荷も記録対象に追加します」
グリッドが少し黙った。
『……本当に入れるのか』
「必要です」
黒瀬は淡々と言った。
「整備班、回収班、補給班、医療班、生活支援班。どれかが止まれば、次の戦闘は始められません」
リノヴァから通信が入る。
『ラスト・オーダー側でも、回収班と補給班の稼働記録を送ります。非戦闘員の負荷が見えないままだと、後でまとめて止まります』
「お願いします」
黒瀬は即座に答えた。
艦橋が少し静かになる。
戦闘画面に映るのは、機体と艦と敵影だ。
だが、その裏には、画面に映らない者達がいる。
整備する者。
運ぶ者。
治療する者。
食事を配る者。
壊れた部品を拾う者。
次に戦える状態へ戻す者。
ジンは頷いた。
「全艦に通達。戦闘員、非戦闘員を問わず、負荷報告を上げろ。無理に動かす必要のある者と、休ませるべき者を分ける」
「了解しました」
その時、解析室から通信が入った。
『艦長、レグナリア方面の記録断片を拾いました』
通信に出たのは、ラスト・オーダーの情報担当、クロエ・テスアだった。
その横では、エルが認証網から切り離された古いログを復元している。
「内容は」
『第一防衛圏の認証網から剥がれた古い輸送記録です。完全ではありませんが、PT関連と思われる識別が含まれています』
エルが続けた。
『通常の軍需輸送ログではありません。系列コードが残っています。Y、M、R、S、L、I……それと、後年追加されたA系列らしき識別もあります』
黒瀬が画面を切り替える。
帝国中央軍港『レグナリア』方面へ向かう複数の輸送経路。
その一部に、PT系列反応に類似した識別コードが残っていた。
「これは……」
ユイが艦橋に戻ってきたところで、画面を見上げた。
そこには、Y、M、R、S、L、I、そしてAに関連する古い形式の記録があった。
完全な名前はない。
だが、系列を示すコードが残っている。
黒瀬が読み上げる。
「帝国中央軍港『レグナリア』、特殊輸送記録。搬入先、カルディア・ベイ経由、研究中枢関連施設。内容、PT系列部材、機体制御核、命令層接続補助装置、未起動個体関連記録……」
クロエの声が少し低くなる。
『輸送記録というより、保管先の移動履歴です。人員輸送の形式ではありません』
艦橋の空気が変わった。
レータの通信が入る。
『今、L系列と言いましたか』
「断片的ですが、含まれています」
アミィの声も小さく入った。
『Aも……ありますか』
黒瀬は少し間を置いてから答えた。
「あります」
沈黙が落ちる。
ジンは前方画面を見る。
レグナリア方面の航路が、改めて強調表示される。
そこはただの軍港ではない。
帝国本国の兵器と輸送の中心。
そして、PT関連の記録が通過した場所。
「レグナリアへ向かう理由ができたな」
ジンが言った。
黒瀬は頷く。
「はい。PT関連輸送記録を追えば、研究中枢への経路が絞れます」
ユイは画面を見つめていた。
そこにあるのは、過去の記録だ。
自分達が、どこから運ばれ、どこで扱われ、どこへ送られたのか。
その断片が、レグナリアに残っている。
カイトが静かに声をかける。
「ユイ」
「はい」
「行くんだよね」
ユイは少しだけ目を閉じ、それから頷いた。
「はい。見なければいけません」
ミオ、レイ、セラ、イリス、レータ、アミィ。
通信越しに、それぞれの沈黙が重なる。
誰も簡単に言葉を出せなかった。
だが、進む理由ははっきりした。
監察局管制区画。
オルフェン・グラードは、ルクス・ヴァルキュリアの進路変更を見ていた。
「対象艦、レグナリア方面へ進路を確定」
局員が報告する。
「第一防衛圏で取得したデータは、本国側施設へ転送済みです。レグナリア、カルディア・ベイ、研究中枢照合網に共有されています」
「よろしい」
オルフェンは画面を見つめる。
対象Y。
対象M。
対象R。
対象S。
対象L。
対象I。
対象A。
そして、対象艦内の支援構造、監査担当、整備班、補給線、医療区画。
第一防衛圏で得た記録は、すでに次の場所へ送られている。
「彼らは記録を探しに来る」
オルフェンは静かに言った。
「ならば、記録で迎えればよい」
局員が確認する。
「レグナリア側の防衛を強化しますか」
「通常軍の防衛線は通常軍に任せる。監察局は、PT関連輸送記録と研究中枢照合網を使う」
「対象Aへの再同期は」
「急がない」
オルフェンは答えた。
「作られた理由を見せれば、揺らぐ個体もいる」
その言葉には、感情がなかった。
だが、その冷たさは砲撃よりも重かった。
帝国中央軍港『レグナリア』外周。
ドレッドノート級殲滅艦『グラトン』は、通常軍の防衛航路へ移動していた。
レオンは艦橋で、ルクス・ヴァルキュリアの進路を確認している。
「対象艦、レグナリア方面へ進行中」
クラウスが報告する。
「監察局は、第一防衛圏で取得したデータを本国施設へ送信済みです」
「そうだろうな」
レオンは短く答えた。
「本国からは、監察局支援要請が来ています」
「内容は」
「レグナリア外周防衛線への通常軍配置。対象艦を監察局指定の照合区域へ誘導せよ、とのことです」
レオンの表情がわずかに険しくなる。
「つまり、通常軍に壁をさせ、監察局が実験する場所へ追い込めということか」
「そのように解釈できます」
レオンはしばらく黙った。
彼にとって、ルクス・ヴァルキュリアは敵だ。
帝国本国へ向かう未登録艦。
防衛線を突破し、アミィを保護し、ノクスを運用する危険な存在。
止めるべき相手であることに変わりはない。
だが、監察局の道具として通常軍を動かす気はなかった。
「グラトンは通常軍防衛線を維持する」
レオンは言った。
「監察局指定の照合区域へ誘導する作戦には参加しない」
クラウスが確認する。
「本国命令に反しますか」
「防衛任務は果たす。だが、実験のために兵を配置する命令までは受けない」
レオンは前方を見た。
「ルクス・ヴァルキュリアを止めるなら、通常軍として止める。監察局の網へ追い込むためではない」
「了解しました」
クラウスは静かに頷いた。
レオンの視線の先には、レグナリアの巨大な影がある。
軍港。
補給。
艦隊。
そして、その奥に繋がるカルディア・ベイとPT研究中枢。
次の戦場は、そこになる。
ルクス・ヴァルキュリアは、レグナリア航路へ入った。
第一防衛圏の外周拘束を抜けた直後の艦内は、まだ慌ただしい。
整備班は機体を戻し、ラスト・オーダーの回収班は破損部材を運び、医療班は疲労した者を休ませ、黒瀬は戦闘員以外の負荷まで記録へ加えた。
戦闘に出た者だけが、戦場にいたわけではない。
艦を動かす全員が、第一防衛圏を抜けるために動いていた。
そして今、その艦はレグナリアへ向かっている。
帝国中央軍港。
PT関連輸送記録が残る場所。
カルディア・ベイと研究中枢へ繋がる、本国側の大きな結節点。
アミィは、保護区画でレータの隣に座っていた。
ユイは、艦橋でレグナリア航路の表示を見つめていた。
ナユは医療区画で休みながら、次に拾うべき残響のことを考えていた。
整備班は、次に使うための機体を黙々と直していた。
ラスト・オーダーの非戦闘班も、補給と回収と情報整理を進めていた。
第一防衛圏で得たものを抱えたまま、ルクス・ヴァルキュリアは進む。
向かう先は、ただの軍港ではない。
彼女たちが、記録として運ばれた場所。
彼女たちが、系列として分類された場所。
そして、彼女たちが人ではなく機能として扱われてきた理由へ繋がる場所だった。




