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第294話 残響の索敵

 モルスの砲撃は、遠かった。

 敵影は見えない。

 砲口の光も見えない。

 通常センサーが警告を出した時には、すでに座標は固定され、砲撃は放たれている。

 撃たれてから避けるのでは遅い。

 砲撃が来る前に、撃たれる場所を知る必要があった。

 ルクス・ヴァルキュリアは、第一防衛圏の中で移動防御態勢を取り続けていた。

 支援網中継点。

 防壁補助座標。

 ノクス・レクイエムの限定起動補助線。

 それらを固定しないよう、艦内の各系統は常に位置をずらしている。

 だが、ずらし続けることは、支援精度の低下を意味した。

「支援網、安定率低下。通常時の七割を維持」

 ミオが報告する。

「防壁補助座標、移動中。ですが、このまま動かし続けると、ヴァルクレイド・セレス側の負荷が増えます」

 艦橋では、黒瀬が端末を確認していた。

「モルス本体は依然として第一防衛圏奥部。距離がありすぎます。こちらの通常火器では届きません」

 グリッドの通信が入る。

『問題はそこだ。撃たれる場所は分かってきたが、撃ってる奴には手が届かない』

「本体を狙えない以上、砲撃誘導系を潰すしかない」

 ジンが言った。

 黒瀬は頷く。

「モルスは、第一防衛圏の認証網を経由して座標を固定しています。つまり、砲撃そのものの前に、誘導端末か座標固定節点が発生する」

「それを撃てるか」

「通常の照準では無理です」

 黒瀬は画面を切り替えた。

 そこには、前回ナユが拾った座標固定の残響が表示されている。

 撃たれた後の弾道ではない。

 撃たれる前に、空間がわずかに沈むような反応。

「ナユのロス・セレネなら、座標固定の残響を拾える可能性があります」

 ジンは目を細める。

「拾った後は」

 グリッドが通信越しに答えた。

『そこで急造品の出番だ』

「急造品?」

 ジンの声に、わずかな警戒が混じる。

『安心しろ。ユイの倉庫から勝手に出したわけじゃない。先日、正式分類したフォージ由来の工廠制御サンプルと、エデン由来の術式流路ユニットを使って、フェンリオン・リサイト用の長距離狙撃支援ユニットを組んだ』

 黒瀬が即座に確認する。

「申請は」

『出した。承認も取った。今回は無断じゃない』

「よろしい」

 グリッドは少しだけ不満そうに続けた。

『名前は仮だ。《ホライゾン・サイト》。超長距離狙撃武器じゃない。あくまで照準と射線延長の補助だ。本体を撃つには足りないが、砲撃誘導節点なら狙える可能性がある』

 ミオが補足する。

『ナユさんが残響を拾い、イリスさんが位相誤差を補正します。私の支援網でその座標をセラさんへ送って、《ホライゾン・サイト》で一瞬だけ射線を伸ばす形です』

「リスクは」

 ジンが問う。

 グリッドは即答した。

『一射ごとに調整が必要。連射は無理。セラの照準補助に負荷がかかる。ナユが残響を拾えなければ撃てない。撃てるのも誘導節点までで、モルス本体には届かない』

「十分だ」

 ジンは頷いた。

「本体を倒せなくても、砲撃を逸らせればいい」


 外周索敵位置。

 ロス・セレネは、ルクス・ヴァルキュリアの外側に展開していた。

 その前方には、リンのヴァイス・リッパー・リビルドがいる。

 ナユはコックピットの中で、深く息を吸った。

 頭の奥が少し痛む。

 それは、ロス・セレネの《セレネ・リップル》を広げる時に起こる、特有の揺れだった。

 過去の残響。

 戦場の残響。

 そして今は、まだ撃たれていない場所に残る、砲撃前の沈み込み。

 ナユは目を閉じるように意識を集中した。

「撃たれた後じゃない……撃たれる前の、残り方……」

 ロス・セレネの周囲に、淡い波紋が広がる。

 それは索敵波というより、水面に触れた指先のようだった。

 空間の表面に触れ、わずかな歪みを探る。

 普通のセンサーならノイズとして捨てるような小さな沈み込みを、ナユは拾おうとしていた。

 リンの声が通信に入る。

『ナユ、無理に広げるな。範囲を絞れ』

「はい。ルクスの支援網中継点、防壁補助座標、ノクス補助線……そこだけ見ます」

『それでいい。周りは私が見る』

 ヴァイス・リッパー・リビルドが前へ出る。

 監察局の観測ビーコンが、ナユの残響波に反応して接近してきていた。

 小型で、単体の脅威は低い。

 だが、ロス・セレネの周囲に張りつかれれば、残響波が乱れる。

 リンはそれを許さなかった。

「近づけさせない」

 白い機体が鋭く軌道を変える。

 短い加速。

 刃のような軌跡。

 接近してきたビーコンが、次々と切り払われていく。

 ナユはその背中を見ながら、少しだけ息を吐いた。

「リンさん」

『探せ』

 リンは短く言った。

『あなたが見つける。私は守る』

 その言葉に、ナユは頷いた。

「はい」


 機動甲板側では、セラのフェンリオン・リサイトが射撃姿勢に入っていた。

 通常の射撃ではない。

 機体の右側に、仮設の長距離狙撃支援ユニット《ホライゾン・サイト》が接続されている。

 フォージ由来の工廠制御サンプルで構造を安定させ、エデン由来の術式流路ユニットで射線補助を行う急造装備だった。

 見た目は、巨大な砲ではない。

 むしろ、長い照準器と補助フレームを組み合わせたような形をしている。

 撃つ力そのものを増すのではなく、狙うべき場所へ一瞬だけ射線を通すための装置。

「接続、安定しています」

 セラが報告する。

『安定してるように見えるだけだ』

 グリッドの声が返る。

『一射ごとに調整が必要だ。無理に連射するな。撃つのはモルス本体じゃない。誘導節点だ』

「了解しました」

 セラは息を整えた。

 フェンリオン・リサイトの照準補助AIが、ナユの残響情報を待っている。

 だが、残響はそのままでは照準にならない。

 どこが沈んだか。

 どの方向から座標固定が来るか。

 現実の空間座標とどれだけずれているか。

 その補正には、イリスとミオの支援が必要だった。

『ナユさんから残響が来たら、私が支援網で送ります』

 ミオが言う。

『位相誤差は私が補正します』

 イリスも続ける。

『ただし、残響は固定された座標ではありません。砲撃前に変化します。セラさん、撃てる時間は短いです』

「分かっています」

 セラは静かに答えた。

「一発で、節点を撃ちます」


 モルスの次射準備が始まった。

 通常センサーは、まだ何も拾っていない。

 第一防衛圏の認証網は、いつものように無数の照合信号を流しているだけに見える。

 だが、ナユには見えた。

 支援網中継点ではない。

 保護区画でもない。

 今回は、ルクス・ヴァルキュリアの進路補正座標。

 艦が次に進路を変えるために使う、わずかな航路制御点。

 そこが、ゆっくり沈んでいく。

「来ます」

 ナユの声が緊張で硬くなる。

『座標は』

 カイルが問う。

「艦の進路補正座標です。右舷前方、認証網の外周に近い位置。撃たれたら、進路変更が遅れます」

『ジン艦長、聞こえたな』

 カイルがすぐに通信を繋ぐ。

『聞こえている』

 ジンが答える。

『航路補正点を移動。予備座標へ切り替えろ』

「了解!」

 艦橋が慌ただしく動く。

 だが、今回は回避だけではない。

 ナユは残響の奥を探った。

 砲撃予定座標のさらに向こう。

 その座標を固定するために、認証網上に短く灯る節点。

 モルス本体ではない。

 だが、砲撃を通すための目印。

「誘導節点……見えます」

 ナユは言った。

「でも、遠いです。リンさんの位置からは届きません」

『座標を送れ』

 リンが言う。

「違います。リンさんじゃなくて……セラさんへ」

 ナユは、残響波で拾った沈み込みをミオの支援網へ渡す。

 ミオがそれを受け取り、情報を整える。

『セラさん、送ります。イリスさん、補正お願いします』

『補正します。残響座標、現実座標へ変換。誤差、二・三秒で増大します』

 セラの照準画面に、淡い点が浮かび上がった。

 普通なら、狙う対象として見えない点。

 だが、フェンリオン・リサイトの照準補助AIと《ホライゾン・サイト》が、その点へ射線を重ねる。

 セラは息を止める。

 遠すぎる。

 細すぎる。

 そして、時間が短すぎる。

 だが、撃たなければ砲撃が来る。

「照準、固定」

 セラの指がトリガーにかかる。

『撃て!』

 カイルの声が響いた。

 フェンリオン・リサイトが撃った。

 《ホライゾン・サイト》が一瞬だけ射線を伸ばす。

 砲撃ではない。

 巨大な破壊力ではない。

 細い射撃が、認証網の中に灯った誘導節点を撃ち抜いた。

 直後、モルスの砲撃が放たれた。

 だが、座標がずれた。

 重砲撃の光が、ルクス・ヴァルキュリアの進路補正座標だった場所から外れ、遠くの空域を抉る。

 空間が白く裂け、衝撃波が艦体を揺らした。

「直撃回避!」

 艦橋で報告が上がる。

「進路補正座標、維持! 砲撃は逸れました!」

 セラは大きく息を吐いた。

「節点、破壊成功……」

 だが、その直後に警告が出る。

『ホライゾン・サイト、再調整必要。連射不可』

 グリッドが通信で叫ぶ。

『よし、一発は通った! だが次はすぐ撃てねえぞ!』

「分かっています」

 セラは頷いた。

 狙撃は成功した。

 だが、万能ではない。

 一発ごとに、ナユが拾い、ミオが繋ぎ、イリスが補正し、セラが撃たなければならない。

 そして、監察局はそれを見ている。


 ナユの周囲に、監察局ビーコンが増えた。

 先ほどの狙撃で、ロス・セレネが砲撃予兆を拾っていることが明確になったのだろう。

 ビーコンは、ナユの残響波を乱すように散開し始めた。

 リンは即座に動いた。

「ナユ、索敵を続けて」

「でも、数が……」

「数は私が処理する」

 ヴァイス・リッパー・リビルドが加速する。

 前方のビーコンを斬る。

 横から回り込む端末を撃つ。

 下方からナユへ近づく誘導端末を、すれ違いざまに切り払う。

 リンの動きは派手ではない。

 だが、正確だった。

 ナユの残響波が乱れない範囲を見極め、その外側で敵端末を排除していく。

 カイルは外周から全体を見ていた。

「リン、右後方を空けるな。そこを抜けられるとナユの波が歪む」

『了解』

「ナユ、無理に全方向を見るな。モルスの砲撃は、こちらの固定点を狙ってる。動いている機体じゃなく、止まりかけた座標を探せ」

『はい』

 ナユは頭痛に耐えながら、セレネ・リップルを維持した。

 波紋が広がる。

 固定されようとしている場所を探す。

 まだ何も起きていない場所。

 だが、撃たれる前に沈んでいく場所。

「……次、あります」

 ナユが呟いた。

『座標は』

「防壁補助座標じゃありません。支援網の仮設中継点……いえ、違う。これは囮です」

 カイルの目が鋭くなる。

「囮?」

「はい。沈み方が浅いです。本命は、その奥……」

 ナユは息を呑んだ。

「ヴァルクレイド・セレスの防壁移動先を読まれています」

 艦橋に緊張が走る。

 黒瀬が端末を確認する。

「監察局が、防壁座標の移動パターンを読んだ可能性があります」

 ジンはすぐに命じた。

「防壁移動パターンを変更。レータ、聞こえるか」

『聞こえています』

 レータの声が返る。

『防壁座標、こちらでずらします』

「無理はするな」

『固定される方が危険です』

 レータの声は静かだった。

 アミィもそばにいるのだろう。

 小さな声が通信に混じる。

『わたしも、返事を取られません』

 ジンは短く頷いた。

「頼む」


 第二の狙撃準備が始まった。

 だが、《ホライゾン・サイト》はまだ再調整中だった。

 連射できない。

 セラは焦りを抑えながら、照準補助AIの再同期を待つ。

「グリッドさん、まだですか」

『急かすな。急造品なんだよ。無理に撃つと射線が逸れて、こっちの認証網に引っかかる』

「でも、次が来ます」

『だから今やってる!』

 ミオが支援網を絞る。

『ナユさん、節点は見えますか』

『見えます。でも、二つあります。浅い方が囮で、深い方が本命です』

 イリスが補正を入れる。

『深い方は、位相がずれています。囮の座標から半拍遅れて固定されます』

 カイルが判断する。

「セラ、本命だけ撃て。囮は無視だ」

「了解」

 リンがその間に、ナユへ迫る誘導端末を排除する。

『ナユ、集中を切るな』

『はい』

 ナユの視界が揺れる。

 頭痛が強くなる。

 知らない記憶のようなものが、残響に混じって一瞬だけ浮かぶ。

 だが、彼女はそれを振り払った。

 今拾うべきは過去ではない。

 これから撃たれる場所だ。

「本命、固定されます!」

 ナユが叫ぶ。

『ホライゾン・サイト、再調整完了! 一射だけだ!』

 グリッドの声が響く。

 セラは照準を合わせる。

 ミオが座標を渡す。

 イリスが誤差を補正する。

 ナユが残響を保つ。

 リンが索敵空域を守る。

 セラは、その全てを一本の線にした。

「撃ちます!」

 フェンリオン・リサイトが再び撃つ。

 細い射撃が、深い方の誘導節点を貫いた。

 直後、モルスの重砲撃が放たれる。

 今度の砲撃は、ヴァルクレイド・セレスの防壁移動先を狙っていた。

 だが、誘導節点を撃ち抜かれたことで、照準がわずかにずれる。

 砲撃は、防壁のすぐ外側をかすめ、第一防衛圏の空域を白く裂いた。

「防壁直撃、回避!」

 エルマが叫ぶ。

「ただし、余波で防壁出力低下!」

 レータの声が続く。

『維持できます』

 アミィの声も聞こえた。

『大丈夫です。まだ、ここにいます』

 ジンは深く息を吐いた。

「よし」

 それは小さな声だった。

 だが、艦橋の全員がその意味を理解した。

 モルスの砲撃を、初めて予測し、逸らした。

 ナユが見つけ、リンが守り、セラが撃った。

 カイルが配置を判断し、ミオとイリスが線を繋いだ。

 守るための新しい形が、確かに機能した。


 しかし、モルス本体はまだ遠い。

 撃ち抜いたのは誘導節点であって、GD-NM-04 モルスそのものではない。

 第一防衛圏の奥にいる重砲撃機は、位置を変え、認証網の影に隠れたままだった。

「モルス本体、移動」

 黒瀬が報告する。

「砲撃経路を変更しています。誘導節点の複数化を確認」

 ジンが目を細める。

「対策してきたか」

「はい。次からは、ナユの残響索敵に偽の沈み込みを混ぜてくる可能性があります」

 グリッドが通信で呻く。

『一回成功したら、すぐ難易度上げてくるな』

「監察局だからな」

 ジンは短く答えた。

 外周では、ナユが大きく息を吐いていた。

 頭が痛い。

 視界の端が揺れる。

 それでも、彼女はコックピットの中で、自分の手を見つめた。

「……拾えました」

 その声は小さかった。

 リンがそばに寄る。

『拾えた。守れた』

「はい」

 ナユは頷く。

「私の機体で、艦を守れました」

 リンは少しだけ沈黙した後、短く言った。

『当然だ』

「当然、ですか」

『そう。あなたはそのためにここにいる』

 ナユは一瞬だけ驚いたように目を開き、それから小さく笑った。

「……はい」

 記憶はまだ戻らない。

 頭痛も消えていない。

 自分が何者だったのかも、完全には分からない。

 それでも、今の戦場で、自分にできることがあった。

 撃たれる前の残響を拾う。

 見えない砲撃の予兆を見つける。

 誰かが守っている場所を、撃ち抜かれる前に動かす。

 それは、確かにナユの役割だった。


 監察局管制区画。

 オルフェン・グラードは、モルスの砲撃記録を見ていた。

「第一誘導節点、対象Sの狙撃により破壊。第二誘導節点も同様に破壊されました」

 局員が報告する。

「対象Nの残響索敵により、砲撃前座標固定を検知。対象リンが周辺ビーコンを排除。対象M、対象Iが座標情報を対象Sへ接続。対象Sは仮設長距離狙撃支援ユニットを使用」

「仮設か」

 オルフェンが静かに言った。

「はい。フォージ系制御技術とエデン系流路補助の混成と思われます。名称は不明。連射性能は低いものの、誘導節点への狙撃は可能です」

「十分な成果だ」

 局員は顔を上げる。

「砲撃は二度逸らされています」

「それでいい」

 オルフェンは表情を変えない。

「モルス本体は無傷。誘導節点を破壊されたことで、対象N、対象リン、対象S、対象M、対象Iの連携を確認できた」

 画面に新しい分類が追加される。

 対象Y型個体。

 残響索敵。

 砲撃前座標固定予兆を検知。

 対象R型個体。

 索敵護衛。

 近距離誘導端末排除。

 対象S。

 遠距離節点狙撃。

 仮設支援ユニット使用。

 対象M。

 情報接続。

 対象I。

 位相誤差補正。

 オルフェンはその一覧を眺めた。

「次回は、誘導節点を複数化する。偽の座標固定残響を混ぜろ。対象Nの負荷を測る」

「モルスの砲撃を継続しますか」

「継続。ただし、本体は前に出すな」

「了解」

 監察局にとって、砲撃を逸らされたことは敗北ではなかった。

 砲撃を逸らすために、相手が何を使ったか。

 誰が見つけ、誰が守り、誰が撃ったか。

 それが分かれば、次の処置を作れる。

 オルフェンは、ルクス・ヴァルキュリアの進路を見た。

「守る線が増えたな」

 彼は静かに言った。

「ならば、次はその線を選ばせる」


 艦橋。

 モルスの砲撃は一時的に止まっていた。

 だが、誰も終わったとは思っていない。

 黒瀬が報告をまとめる。

「モルス本体は撃破できず。誘導節点二つを破壊し、砲撃直撃を回避。ナユの残響索敵、リンの護衛、セラの狙撃支援が有効であることを確認」

 ジンは頷いた。

「よくやった」

 通信回線の向こうで、ナユが少し戸惑ったように息を呑んだ。

『……はい』

「だが、次は対策される。今の形を固定するな。ナユの索敵位置、リンの護衛範囲、セラの射撃補助、すべて変える」

「了解」

 カイルが通信に入る。

『艦長、外周索敵はこのまま俺が見る。ナユは休ませながら使う。無理に広げると潰れる』

「任せる」

『リンもつける』

『当然です』

 リンの声が返る。

 ジンは前方を見据えた。

 タナトスは分ける。

 モルスは撃つ。

 監察局は、守り方を観測して次の手を作る。

 だが、ルクス・ヴァルキュリアもただ観測されるだけではない。

 新しい役割が生まれている。

 ナユの残響索敵。

 リンの護衛。

 セラの節点狙撃。

 ミオとイリスの補正。

 カイルの判断。

 それらは、まだ完全ではない。

 急造の支援ユニットも、長くは使えない。

 ナユの負荷も無視できない。

 モルス本体は、第一防衛圏の奥で健在だ。

 それでも、撃たれる前に拾える。

 撃ち抜かれる前に動かせる。

 誘導節点なら、撃てる。

「全艦、移動防御を継続」

 ジンは命じた。

「モルス本体を倒すのは後だ。今は、撃たせない線を作る」

 ルクス・ヴァルキュリアは進む。

 第一防衛圏の奥から、重砲撃の影がまだこちらを見ている。

 だが、その砲撃の前に生まれる小さな残響を、ナユは確かに拾い始めていた。

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