第26話 宣戦 ~side Yui~
空港襲撃事件から半年後。世界は大きく変わっていた。
各国は共同防衛体制の構築を急ぎ、NB対策研究が本格化している。
LF開発も加速していた。アーク・ノア計画は正式承認され、巨大移動拠点艦として建造が始まっている。
そしてユイもまた、地球側協力者として研究施設へ所属していた。
もっとも、立場は曖昧なままだった。
軍属でもなく、研究員でもない。
それでも、誰よりも帝国を知っている。
だから必要とされていた。研究施設のモニタールーム。
ユイは静かにデータ画面を見つめていた。
そこへミオが入ってくる。
「また徹夜?」
ユイは小さく首を振った。
「眠れなかっただけ」
「同じだよそれ」
ミオが呆れたように笑う。以前より、ミオはよく笑うようになっていた。
再会できた事が大きかったのかもしれない。
その時、施設全体へ警報が鳴り響く。二人の表情が変わった。
直後、モニターが一斉に切り替わる。宇宙観測衛星からの映像だった。
黒い空間。その中心が、ゆっくり歪んでいく。
ユイの目が細くなる。
「……ゲート」
次の瞬間だった。巨大な光が宇宙空間へ走る。
空間そのものが裂けるように開き、その奥から巨大艦隊が姿を現した。
無数の戦艦。護衛艦。そして、その周囲を飛行するGD部隊。
ミオが息を呑む。
「嘘……」
ユイは黙ったまま画面を見つめていた。
ついに来た。帝国本隊だった。施設内が一気に慌ただしくなる。
「軌道上に大型艦隊確認!」
「所属不明艦多数!」
「各国へ緊急回線接続!」
通信士達の怒鳴り声が飛び交う。その時だった。
全モニター映像が強制的に切り替わる。
ノイズ。数秒後、一人の男が映し出された。
黒い軍服。鋭い目。白髪混じりの長髪。
ユイはその顔を知っていた。
「……レグナート」
ミオが振り返る。
「知ってるの?」
ユイは静かに頷く。
「帝国軍総司令官」
モニター越しに、男がゆっくり口を開く。
『太陽系地球の人類へ告げる』
低く重い声だった。施設内が静まり返る。
『我々は、ネメシス帝国軍総司令官レグナート』
『本日をもって、貴文明へ正式に通告する』
その瞬間、ユイはゆっくり拳を握った。
逃げ場のない声だった。
『貴文明は、既に我々の作戦行動領域内へ確認されている』
『今後、抵抗行為を行う場合、帝国法に基づき武力制圧対象と認定する』
淡々とした口調だった。しかし、その内容は明確だった。
宣戦布告。世界中の通信へ、同じ映像が流れている。
人々が混乱し始める。各国軍も対応に追われていた。
だがレグナートは感情を変えない。
『我々は、不要な殺戮を望まない』
『しかし、敵対行為に対しては相応の対応を行う』
その言葉を聞いた瞬間、ユイの胸の奥が冷える。
この男は本気だ。脅しではない。帝国は、本当に地球を戦争対象として認識している。
そして、その背後。モニター映像の奥に、巨大な影が映った。
ネメシス級中枢戦艦アビス。圧倒的な質量感を持つ巨大戦艦だった。
施設内の誰もが息を呑む。ミオが小さく呟く。
「……こんなのと戦うの?」
ユイは答えなかった。代わりに、静かにモニターを見つめ続ける。
レグナートは最後にこう告げた。
『選択は貴文明に委ねる』
『降伏か、抗戦か』
『我々は、いずれにせよ前進する』
通信が切れる。モニタールームには重い沈黙だけが残った。
しばらくして、遠くで誰かが呟く。
「……戦争だ」
その言葉を聞きながら、ユイはゆっくり目を閉じる。
五年前。空港へ現れた一体のNB。あれが始まりだった。
そして今。帝国は、ついに地球へ辿り着いた。
もう後戻りは出来なかった。




