第27話 始まりの日 ~side Yui~
レグナートによる宣戦布告から三日後。
世界中が混乱していた。
各国政府は緊急声明を発表し、軌道上へ現れた帝国艦隊への対応協議を続けている。
しかし、結論は出ていなかった。相手は未知の文明だった。
しかも既に、人類を“戦争対象”として認識している。
地球側に残された時間は少ない。
研究施設内も慌ただしかった。
LF開発部門では徹夜作業が続いている。
整備班の怒鳴り声も以前より増えていた。
「だからその冷却系統じゃ負荷に耐えきれねぇって!」
「でも予備パーツ足りないんだよ!」
「なら削る場所考えろ!」
研究室の奥で、また言い争いが始まっている。
ユイは少し離れた場所から、その光景を見ていた。
騒がしい。でも、不思議と嫌ではない。
その時、隣へミオがやって来る。紙コップを差し出してきた。
「はい」
「……ありがとう」
温かいコーヒーだった。ユイは小さく息を吐く。
ミオが隣へ並びながら呟く。
「みんな、焦ってる」
ユイは黙って頷いた。当然だった。帝国艦隊の規模は圧倒的だった。
地球側戦力では、まともな宇宙戦すら難しい。
だから今は、少しでもLF戦力を整えるしかない。
その時だった。施設全体へ再び警報が鳴り響く。
ユイとミオの表情が変わる。通信士の声が響く。
『帝国艦隊に動きあり!』
『複数熱源分離!』
『降下部隊確認!』
施設内が一気に緊張に包まれる。大型モニターへ映像が切り替わった。
地球軌道上。帝国艦隊の一部が展開している。
その下部ハッチがゆっくり開いた。次の瞬間、無数の影が降下を始める。
NBだった。ミオが息を呑む。
「こんな数……」
以前とは違う。五年前の単独出現ではない。
明確な軍事行動だった。ユイは静かに画面を見つめる。
帝国はもう、様子見を終えている。本格侵攻が始まったのだ。
その時、別モニターへ新たな反応が映る。
NB群の後方。そこには複数の人型兵器がいた。
黒い機体群。GD部隊だった。施設内の空気がさらに重くなる。
「GDまで……」
ミオが低く呟く。ユイは小さく目を細めた。
まだ数は少ない。おそらく先遣部隊。しかし、それでも十分脅威だった。
その時、研究室の扉が勢いよく開く。レイだった。
「ユイ!」
「出るぞ!」
その声に迷いは無かった。ユイは静かに頷く。
もう逃げるつもりはない。帝国が来た以上、戦うしかなかった。
通路を駆ける。周囲では整備員達が慌ただしく動いていた。
警報灯が赤く点滅している。格納庫へ到着すると、既にLF部隊の準備が進んでいた。
白い試作LF。量産調整中のガルム。そして、その奥。
白と淡緑の機体が静かに待機している。ユイの足が止まった。
「……レヴァン」
LF-PT-Y01 レヴァン。ユイ専用として調整が進められていた機体だった。
まだ未完成に近い。しかし、それでも他のLFとは明らかに違う雰囲気を纏っている。
カナデがこちらへ歩いてくる。
「本当は、もう少し調整したかったんだけど」
「時間が無いわ」
ユイは黙って機体を見上げる。帝国側でGDへ乗っていた頃とは違う。
これは地球側の機体だった。玲奈が守ろうとしていた世界の兵器だった。
その時、格納庫全体へ緊急通信が響く。
『NB群、第一防衛ラインへ接触!』
『GD部隊も降下開始!』
『各機、至急出撃せよ!』
空気が一気に張り詰める。レイが自機へ駆け込みながら笑った。
「派手な開戦だな」
ミオも苦笑する。
「笑ってる場合じゃないでしょ」
ユイは小さく息を吐いた。そして、ゆっくりレヴァンへ向き直る。
五年前、空港で全てを失った。
だが今は違う。
守りたいものがある。
だから、ユイは静かにコックピットへ乗り込んだ。




