第24話 再会 ~side Yui~
『……ユイ?』
通信越しに聞こえた声は、五年前と変わっていなかった。
ユイは崩れかけた柱を押さえたまま、ゆっくり顔を上げる。
上空では白いLFが旋回していた。コックピット越しでも分かる。
あれはミオだった。
『嘘……』
ミオの声が震えている。その隣を、灰色のLFが高速で通り抜けた。
レイ機だった。NBの一体へ突撃し、そのまま近距離戦へ持ち込む。
荒削りな動きだったが、勢いは凄まじい。
しかし機体性能はまだ不足していた。NBの爪がLFの肩部装甲を掠める。
火花が散った。
『チッ……!』
レイが舌打ちする。
『装甲薄すぎんだろこれ!』
『文句言ってる場合じゃない!』
ミオが叫び返す。その間にも、空港の混乱は広がっていた。
避難誘導は追いついていない。崩落も続いている。
地球軍はまだ、NBとの戦いに慣れていなかった。
五年前のこの時点では、対処法も、避難手順も、何もかもが手探りだった。
ユイは周囲を見回す。煙。炎。悲鳴。
その光景を見た瞬間、胸の奥が冷えていく。
帝国が来た。もう逃げられない。その時だった。
倒れていたNBが突然咆哮を上げる。次の瞬間、周囲の瓦礫を吹き飛ばしながら起き上がった。
『まだ動くの!?』
ミオが驚く。レイ機が咄嗟に距離を取った。
だがNBはそのまま空港施設側へ突進する。
避難民の方向だった。
「……っ!」
ユイは反射的に走り出していた。地面を蹴る。
崩れた通路を飛び越え、避難中の子供を抱えて横へ飛ぶ。
直後、NBの尾がコンクリートを粉砕した。
爆風が吹き抜ける。避難民達が呆然とユイを見る。
普通の人間ではあり得ない動きだった。
ユイ自身も、それを理解していた。隠していたものが、戦場の中で剥がれていく。
『竜奈!?』
玲奈の知人らしい女性が叫ぶ。だが説明している余裕は無かった。
NBが再びこちらを向く。赤黒い眼が細く光った。
その瞬間、ユイの脳裏に昔の記憶が蘇る。
研究施設。警報音。訓練場。PT同期試験。
全部が一瞬で繋がった。身体が自然に動く。
ユイは落ちていた鉄骨を拾い上げると、そのままNBの視界へ投げつけた。
鈍い音が響く。NBの動きが僅かに止まった。
『今!』
ユイが叫ぶ。ミオは反射的に機体を加速させていた。
白いLFが一気に踏み込む。レイ機も続いた。
二機同時攻撃。試作兵器とは思えないほど荒々しい連携だった。
NBの外殻へ衝撃が走る。そのままレイ機のブレードが胸部へ突き刺さった。
轟音が響く。NBが崩れ落ちる。しばらくして、ようやく静寂が戻った。
空港には煙だけが漂っている。ミオ機がゆっくり地上へ降下した。
コックピットが開く。降りてきたミオは、しばらく言葉を失っていた。
ユイも動かなかった。互いに、何から話せばいいのか分からなかった。
五年分の空白が、短い沈黙の中に詰まっていた。
先に口を開いたのはミオだった。
「……生きてたんだ」
その声は少し掠れていた。ユイは小さく頷く。
「ミオも」
短い返事だった。しかし、それだけで十分だった。
次の瞬間、ミオが勢いよくユイへ抱きつく。
「馬鹿……!」
声が震えていた。
「ずっと死んだと思ってた……!」
ユイは少しだけ目を見開く。どう反応すればいいのか分からなかった。
しかし、ゆっくりと手を上げる。そして、小さくミオの背へ触れた。
その様子を見ていたレイが、気まずそうに頭を掻く。
「……まあ、生きてんならいい」
相変わらず不器用な言い方だった。でも、その声は少しだけ安心しているように聞こえた。
その時だった。遠くから複数の車両音が近づいてくる。
地球軍の増援部隊だった。武装兵達が次々と空港へ展開していく。
そして、その中央。一人の女性がこちらへ駆け寄ってきた。
白衣姿だった。その顔を見た瞬間、ユイの動きが止まる。
「……カナデ」
篠宮カナデだった。五年ぶりの再会だった。
カナデはユイの姿を見るなり、一瞬だけ言葉を失う。
だが次の瞬間、その表情が崩れた。
「……本当に、生きてたのね」
その声を聞いた瞬間。ユイは初めて、自分が帰って来たのだと理解した。




