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第219話 声を届ける道

 解析室の中央には、前回戦闘で記録された波形が表示されていた。

 何度も再生された、短い声。

『……だれ……?』

 それは、もう単なる音声記録ではなかった。

 次の作戦の中心になる反応だった。

 ミオは支援網の記録を並べ、イリスはアミィ本人反応の抽出波形を確認している。

 リクトは二人の間に立ち、セレスティア支援波の干渉範囲を重ねて表示した。

「前回の問題は、呼びかけそのものじゃない」

 リクトが言う。

「呼びかけは届いた。アミィ本人反応も返った。だが、返った瞬間に命令層とセレスティア支援波に押し潰された」

 ミオが頷く。

「つまり、必要なのは通信を強くすることではありません」

 カイトが少し首を傾げた。

「強くするんじゃ駄目なのか」

「駄目です」

 ミオは即答した。

「強くすれば、セレスティアもそこに重なりやすくなります。通信路が一本なら、そこを上書きされれば終わりです」

 イリスが画面を切り替える。

 一本の線が伸び、その上から白金色の波が重なる映像が表示された。

 線は切れていない。

 だが、上から別の反応が重なり、本来の信号が歪んでいく。

「前回のユイさんの呼びかけは、この状態でした」

 イリスが説明する。

「届いてはいます。でも、返ってきた反応が、この厚い層に潰されました」

 次に、画面上の一本線が複数に分かれる。

 細い線がいくつも枝分かれし、途中で重なったり離れたりしながら、奥へ向かって伸びていく。

 ミオが言った。

「ですから、次は通信路を一本にしません。複数経路に分散します」

「支援網みたいに?」

 カイトが尋ねる。

「はい。私の支援網を応用します。ただし、通常の支援とは逆です」

「逆?」

「普段は、味方機へ支援を届けるために網を広げます。今回は、アミィから返ってくる本人反応を守るために網を作ります」

 リクトが補足する。

「こっちから声を送る道と、向こうから返ってくる反応を受け止める道を分ける。さらに、それを複数作る。セレスティアが一つを上書きしても、別の線で反応を拾えるようにする」

 イリスは、細い波形を拡大した。

「私は、この中から本人反応だけを拾うフィルターを作ります」

 画面には四層の反応が表示される。

 帝国命令層。

 セレスティア支援波。

 A系列基本反応。

 そして、一拍遅れて揺れる本人反応。

「命令層は均一です。セレスティア支援波は広がり方に特徴があります。A系列基本反応は周囲に合わせて変化します。でも、本人反応は呼びかけの後に遅れて出ます」

 イリスは少しだけ息を吸った。

「その遅れを拾います」

 カイトは画面を見つめた。

「一拍遅れるから、本人だって分かるのか」

「はい。命令なら、すぐに反応します。支援波なら、広がる方向が違います。でも、あの声は考えてから返ったみたいに遅れました」

 ユイは静かにその波形を見ていた。

 アミィは、まだこちらを知らない。

 名前も、関係も、こちらが何者かも知らない。

 ただ、知らない声が届いたから、問い返した。

 だれ、と。

 だから次は、その問いに答えなければならない。

「ユイさん」

 カナデが声をかけた。

「はい」

「次の呼びかけで、何を伝えるか決めておきましょう」

 ユイは頷いた。

「私も考えていました」

「全部を説明しようとしなくて大丈夫です」

 カナデは穏やかに言う。

「アミィは、まだこちらを知りません。いきなり帝国、命令層、パルスティア、レータさんとの関係を説明しても、受け止めきれない可能性があります」

 レータが少し顔を上げる。

「じゃあ、何を言えばいいの」

「最初は、短く。安心できる言葉です」

「安心できる言葉……」

 レータは腕を組んだ。

 何を言えばいいのか。

 考えれば考えるほど、言葉が詰まる。

 私はレータ。

 あなたの元になったかもしれない存在。

 あなたが作られた理由に関係しているかもしれない存在。

 逃げたせいで、あなたが作られたのかもしれない存在。

 そんな言葉を、最初に言えるわけがなかった。

 レータの表情が曇る。

 カナデはそれを見て、静かに言った。

「謝罪から始めなくてもいいと思います」

 レータは目を見開いた。

「でも」

「謝りたい気持ちは、否定しません。でも、アミィがまだ状況を理解していないなら、最初に必要なのは謝罪ではありません」

 カナデは、画面の小さな波形を見る。

「まずは、怖がらせないこと。命令ではないと伝えること。そして、名前を届けることです」

 ユイが頷く。

「私も、そう思います」

 レータはユイを見る。

「ユイなら、何て言う?」

 ユイは少し考えた。

「私はユイ。あなたに命令しません。あなたの声を聞きたい。そう伝えます」

 レータは黙った。

「命令しない……か」

 その言葉は、アミィにとって大きいのかもしれない。

 命令されることが当たり前なら。

 呼びかけと命令の違いを知らないなら。

 まず、それを伝えなければならない。

 カイトが口を開いた。

「だれって聞かれたなら、名前を答える。命令じゃないって言う。それくらいなら、届くかもしれないな」

 レータは小さく息を吐いた。

「簡単に言うね」

「悪い」

「ううん。たぶん、それでいいんだと思う」

 レータは画面を見る。

「私はレータ。命令じゃない。あなたと話したい」

 言ってから、自分で少しだけ頷いた。

「まずは、それかな」

 カナデが微笑む。

「いいと思います」

 その時、黒瀬が解析室に入ってきた。

 三島も後ろに続いている。

「作戦条件を確認します」

 黒瀬の声に、室内の空気が少し引き締まった。

「次回接触は、救出作戦ではありません。再接触です。目的は、本人反応の再確認、短時間の会話成立、命令層による遮断条件の記録」

 レータが少しだけ眉を寄せる。

「救出じゃないって、分かってる」

「明文化します」

 黒瀬は端末を開いた。

「第一条件。単独接近禁止。アミィ本人反応が確認されても、予定距離を越えて接近しないこと」

 カイトは頷いた。

「了解です」

「第二条件。通信路維持を優先。敵機撃破、支援端末破壊、アミィへの呼びかけは、すべて通信路保護の範囲内で行う」

 ミオが答える。

「はい」

「第三条件。撤退基準の明文化。判断遅延が一定値を超えた場合、ミオ機支援網に上書き率が一定以上発生した場合、または本人反応が命令層に押し込まれ続けた場合、即時撤退」

 三島が記録を読み上げる。

「撤退基準。判断遅延増大。支援網上書き率上昇。本人反応喪失。以上三条件のいずれかで撤退判断」

 レータは黙って聞いていた。

 黒瀬は彼女を見る。

「レータさん」

「何」

「あなたの呼びかけが届いた場合でも、撤退基準を超えれば撤退します」

 レータの指がわずかに動く。

「……分かってる」

「記録します」

「分かってるってば」

 少し強い声になった。

 だが、すぐにレータは目を伏せた。

「ごめん。分かってる。勝手に行かない」

 カナデが横に立つ。

「焦るのは当然です」

 黒瀬も、責めるような顔はしなかった。

「焦ることは問題ではありません。焦った時に作戦条件を破ることが問題です」

「黒瀬って、そういうところだけ優しいのか厳しいのか分かんないわね」

「厳しいです」

 即答だった。

 カイトが少しだけ笑いそうになったが、黒瀬の視線を受けて口を閉じた。

「それと」

 黒瀬はカイトへ視線を向ける。

「カイトさん。あなたは前衛役に立候補していますね」

「はい」

「本人反応保護通信路の防衛は重要です。ただし、単独で前に出ることは認めません」

「分かっています」

「アルタイル・ノヴァ・ブレイスは通信路前衛護衛候補。ミオ機の支援網、レイ機の近接牽制、セラ機の支援端末狙撃と連動すること」

「了解」

 カイトは真剣に頷いた。

 前に出たいから出るのではない。

 声を届ける道を守るために出る。

 それを間違えてはいけない。


 別区画の訓練シミュレーターでは、セラがフェンリオン・リサイトの照準訓練を行っていた。

 画面内には、複数の小型支援端末が浮かんでいる。

 前回の記録をもとに作られた標的だ。

 だが、その中には本物の干渉増幅端末と、反応だけを似せた囮が混じっている。

 照準補助は複数の候補を出す。

 最も近い端末。

 最も反応が強い端末。

 最も破壊しやすい端末。

 そして、最も効率よく敵支援を削れる端末。

 だが、その候補は必ずしも正解ではない。

 セラは操縦席で静かに息を整えた。

『命令ではありません。私の判断で撃ちます』

 前回、自分で言った言葉を思い出す。

 照準補助は便利だ。

 支援AIは有用だ。

 だが、それに従うだけなら、かつての自分と変わらない。

 セラは一つ目の端末を撃った。

 外れ。

 囮だった。

 次に、二つ目。

 これも外れ。

 警告音が鳴る。

 想定戦場では、セレスティア支援波が通信路に重なり始めている。

 セラは焦らなかった。

 反応が強い端末ではない。

 見えやすい端末でもない。

 支援波の流れが、一瞬だけ折れ曲がる場所。

 そこに、本物がある。

 セラは照準補助を一段階落とした。

 画面から余計な候補線が消える。

「見えています」

 砲身が動く。

 一射。

 小型支援端末が撃ち抜かれ、シミュレーター内の白金色の干渉波が一瞬だけ薄くなった。

 訓練室の外で見ていたレイが、軽く口笛を吹く。

「やるじゃないか」

 セラは通信を開いた。

『まだです。次は、もっと囮が増えるはずです』

「だろうな。あいつら、次は端末を隠す」

『はい。だから、反応の強さではなく、流れを見る必要があります』

 レイは腕を組む。

「俺は近づいてくる敵機を止める。お前は端末を見る。それでいいな」

『はい』

「無理に全部落とす必要はない。通信路が通る数秒を作れればいい」

 セラは少しだけ目を伏せた。

『数秒』

「そうだ。今回は撃破戦じゃない」

『声を届けるための射撃ですね』

 レイは笑った。

「そういうことだ」

 セラは再び標的を見た。

 撃つために撃つのではない。

 命令で撃つのでもない。

 誰かの声を通すために、必要な場所を撃つ。

 それが、今のフェンリオン・リサイトの役目だった。


 解析室では、ミオとイリスが通信路の試験を続けていた。

 ミオの支援網が細く分岐する。

 それに合わせて、イリスが本人反応抽出フィルターを重ねる。

 試験用の疑似波形が流れる。

 命令層。

 セレスティア支援波。

 A系列基本反応。

 そして、遅れて返る小さな反応。

 イリスが目を凝らす。

「拾えます。でも、支援波が厚くなると、遅れの部分が潰れます」

 リクトが数値を確認する。

「フィルターを強くしすぎると、本人反応まで削るな」

「はい。だから、完全に切り分けるのは難しいです」

 ミオは支援網の出力を調整した。

「通信路側で守りすぎると、今度はアミィ自身の反応が外に出られなくなる可能性があります」

 リクトは頷く。

「檻を外そうとして、別の檻を作るわけにはいかない」

 その言葉に、ユイが反応した。

「別の檻……」

 リクトは少し申し訳なさそうに言う。

「悪い。言い方がきつかったか」

「いえ。正しいと思います」

 ユイは画面を見る。

「アミィを助けたいからといって、こちらの都合のいい反応だけを拾えば、それも命令と変わらなくなります」

 カナデが頷いた。

「本人意思確認は、こちらが望む答えを引き出すことではありません」

 レータが静かに言った。

「アミィが、嫌だって言ったら?」

 室内が静かになる。

 レータは自分で続けた。

「もし、アミィがこっちに来たくないって言ったら。命令じゃなくて、自分でそう言ったら」

 誰もすぐには答えなかった。

 やがて、ユイが言う。

「その時は、聞くべきです」

「でも」

「聞かなければ、救出ではありません」

 レータは唇を噛んだ。

 分かっている。

 でも、怖い。

 アミィが命令だけではないと分かった。

 だからこそ、その本人が何を言うのかが怖い。

 カナデは静かに言った。

「だから、最初から答えを求めすぎない方がいいんです」

 レータはカナデを見る。

「アミィは、まだ自分の状況を整理できていないはずです。いきなり『助けてほしいか』と聞いても、答えられないかもしれません」

「じゃあ、何を聞くの」

「命令ではない声が聞こえるか。自分の名前が分かるか。怖いか。痛いか。話したいか」

 カナデは一つずつ言葉を置く。

「小さな確認でいいんです」

 レータは少し黙ってから、頷いた。

「小さく、か」

「はい」

 ユイも言う。

「私達も、最初から全部を理解していたわけではありません」

 それは、ユイ自身の言葉でもあった。

 帝国にいた頃。

 地球で暮らした頃。

 カイト達と出会い、少しずつ自分の意思を形にしてきた頃。

 最初から答えがあったわけではない。

 なら、アミィにも時間が必要だ。

「分かった」

 レータは顔を上げた。

「次は、名前と、命令じゃないってこと。それだけにする」

 カナデが微笑んだ。

「はい。それで十分です」


 その頃、ルクス・ヴァルキュリアの格納庫では、アルタイル・ノヴァ・ブレイスの調整が行われていた。

 カイトは整備デッキから機体を見上げている。

 隣には、グリッドが端末を持って立っていた。

「通信路前衛護衛ねえ。言葉にすると地味だが、やることは相当きついぞ」

「分かってます」

「分かってる顔じゃねえな」

 グリッドは容赦なく言った。

 カイトは少し苦笑する。

「そんなにですか」

「お前が守るのは通信線だ。敵機じゃない。撃ってくる相手を倒すだけなら分かりやすい。だが、今回は違う。ミオの支援網、イリスの抽出、ユイとレータの呼びかけ、その全部が通る数秒を守る」

 グリッドはアルタイル・ノヴァの胸部装甲を指差した。

「前に出すぎれば通信路から外れる。下がりすぎれば敵に割り込まれる。判断が遅れれば、セレスティアに上書きされる」

「……難しいですね」

「難しいんだよ」

 グリッドは当然のように言った。

「だから、無茶で埋めるな。お前の悪い癖だ」

 カイトは返す言葉に詰まる。

 否定できなかった。

 誰かを助けたい時、前に出る。

 危ないと思ったら、さらに前に出る。

 それで何とかしてきた場面もある。

 だが、今回はそれでは駄目だ。

 声を届ける道を守る。

 そのためには、前に出ることだけが正解ではない。

「分かりました」

 カイトは機体を見上げた。

「今回は、道を守ります」

 グリッドは鼻を鳴らす。

「ならいい。機体側には、ミオの支援網と同期する通信保護モードを仮で入れておく。だが、過信するな。セレスティア相手に完全な防御なんてない」

「はい」

「それと、判断遅延が出たら即報告しろ。格好つけて黙るな」

「分かってます」

「本当に分かってるか?」

「分かってますって」

 カイトが少し困ったように答えると、グリッドはようやく笑った。

「ならよし。壊すなよ」

「機体をですか」

「通信路も、お前もだ」

 カイトは少しだけ表情を引き締めた。

「はい」


 管制室では、次回接触作戦の仮案が共有されていた。

 ジンが全体表示を確認する。

 黒瀬、三島、カナデ、リクト、ミオ、イリス、ユイ、レータ、カイト、セラ、レイ、カイルが参加していた。

 黒瀬が作戦概要を読み上げる。

「次回接触作戦。目的は、PT-A01アミィ本人反応の再確認および短時間会話成立。救出作戦ではありません」

 レータは黙って聞いている。

「第一段階。ミオ機による分散支援網展開。第二段階。セラ機による支援端末選択破壊。第三段階。イリスによる本人反応抽出。第四段階。ユイさんおよびレータさんによる短文呼びかけ。第五段階。反応確認後、即時後退」

 カイルが口を挟む。

「ヘルメスが横から来た場合は?」

 ジンが答える。

「カイル、レイで警戒。必要ならカイトを下げる」

「了解」

 レイが頷く。

「エリシオンが前に出たら?」

「突破しない。交戦回避を優先する」

 ジンは即答した。

「今回も正面突破ではない。アミィ本人反応の確認が目的だ」

 黒瀬が続ける。

「撤退基準は先ほどの通り。判断遅延、支援網上書き率、本人反応喪失。この三点を越えた場合、呼びかけ途中でも撤退します」

 レータは小さく息を吸った。

「大丈夫。守る」

 その声は、まだ少し硬かった。

 だが、第217話の直後のような焦りだけではなかった。

 カナデがそれを確認するように頷く。

 ユイは端末に、自分の呼びかけ文を表示していた。

 私はユイ。

 あなたに命令しません。

 あなたの声を聞きたい。

 短い。

 説明はない。

 だが、今はそれでいい。

 レータも、自分の端末に言葉を入力している。

 私はレータ。

 命令じゃない。

 あなたと話したい。

 少し迷ってから、最後に一文だけ加えた。

 あなたは、アミィ。

 それを見て、ユイは静かに言った。

「いい言葉だと思います」

 レータは照れたように顔をそらす。

「まだ、言えるか分かんないけどね」

「言えます」

「なんでそう言い切るのよ」

「レータだからです」

 レータは一瞬黙り、それから小さく笑った。

「そういう言い方、ずるいわね」

 カイトは二人を見て、少しだけ安心した。

 次の接触は危険だ。

 それは変わらない。

 だが、少なくとも今は、誰も勢いだけで進もうとはしていない。

 声を届けるために。

 返ってくる声を守るために。

 全員が、それぞれの準備をしている。

 ジンが最後に言った。

「次の接触は、こちらの準備が整い次第行う。各員、作戦条件を再確認しておけ」

 全員が頷いた。

 戦闘の準備ではある。

 だが、目的は撃破ではない。

 命令層の奥にいる誰かへ、声を届けるための準備だった。


 外縁防衛線の奥。

 グラトン艦内の観測室では、オルフェンが前回戦闘の記録を再構成していた。

 セラの狙撃によって破壊された支援端末。

 その瞬間に薄くなったセレスティア支援波。

 そして、その隙にルクス側が本人反応を拾った記録。

 オルフェンは、端末配置図を開いた。

「なるほど。次は端末を狙ってくる」

 部下が尋ねる。

「配置を変更しますか」

「当然です」

 オルフェンは、支援端末の配置を再構成する。

 本物の干渉増幅端末を減らし、代わりに反応だけを似せた囮を増やす。

 さらに、端末同士の支援波を重ね、どれか一つを破壊しても全体がすぐには薄くならないようにする。

「セレスティア端末群、第二配置へ移行。囮端末を増設。干渉経路を多重化」

 部下が記録する。

「ルクス側の再接触を想定しますか」

「想定ではありません。誘導します」

 オルフェンは薄く笑った。

「彼らは、また呼びかける。そうせざるを得ない。あの一言を聞いてしまった以上、戻れません」

 画面に、アミィの反応が表示される。

『……だれ……?』

 オルフェンはその波形を拡大した。

「次は、どこまで保護できるか。どこまで揺らせるか。どの段階で命令層が反応を押し潰すか」

 彼は端末に新しい項目を入力する。

「観測項目追加。ルクス側通信保護手段。PT-L呼びかけへの反応継続性。PT-Y呼びかけへの識別反応。セレスティア端末破壊時の本人反応露出時間」

 部下は少しだけ表情を曇らせた。

「前線指揮官殿は、この配置変更を承認されますか」

 オルフェンは笑みを消さない。

「これは本国監察局の観測補助です。前線指揮官の承認は不要です」

「ですが、レオン司令は――」

「レオン司令は防衛線を維持すればいい」

 オルフェンは淡々と言った。

「観測は、我々の仕事です」

 画面の奥で、白金色の支援端末配置が組み上がっていく。

 声を届けようとする者達。

 その声を守ろうとする者達。

 そして、そのすべてを観測しようとする者。

 次の接触に向けて、戦場は静かに形を変え始めていた。

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