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第212話 ヘルメス隊介入

 外縁防衛線の端に、新たな反応が灯った。

 それは、エリシオンのように重くはなかった。

 グラディウス・ブレイクのように真正面から突っ込んでくる反応でもない。

 ヴェス・シュトルムよりさらに速く、線ではなく点として表示を横切る。

 速すぎる。

 ルクス・ヴァルキュリアの管制室で、リクトが表示を拡大した。

「高機動反応、外側航路より接近。識別照合中……GD-NM系列」

 アシュが短く言った。

『ヘルメスだ』

 その声には、迷いがなかった。

 カイルのレイヴン・ハウルが戦域外周を滑りながら、すぐに進路を変える。

『ヘルメスって、あの高速撹乱機か』

『ああ』

 アシュは管制側の表示を見ている。

 ネヴァはまだ出していない。

 だが、帝国側の高速機の癖を読むには、彼の目が必要だった。

『正面から殴る機体じゃない。横から支援を切る。追うな。追わされる』

『面倒な相手だな』

『帝国らしい』

 カイルは小さく笑ったが、その声に余裕は薄かった。


 グラトン艦橋では、レオンが前線表示から視線を外さずにいた。

「ヘルメスは動かすなと言ったはずだ」

 声は低い。

 怒鳴ってはいない。

 だからこそ、艦橋の空気が冷えた。

 オルフェン・グラードは、涼しい顔で端末を操作している。

「正式には、外縁高速機動試験隊への介入準備指示です」

「詭弁は聞き飽きた」

「では、正確に言いましょう。本国監察権限に基づき、メルクリウス隊へ戦術介入を命じました」

 クラウスがわずかに顔を上げる。

「監察官、それは外縁方面軍の指揮系統を迂回しています」

「本国命令は外縁方面軍命令に優先します。特に、観測対象がノクス・レクイエムおよびユイ個体である場合は」

 レオンの目が細くなる。

「戦場を乱しすぎるなと言った」

「乱れなければ、本質は出ません」

 オルフェンは薄く笑う。

「エリシオンの盾に対して、ルクス側はノクス・レクイエムを出さない選択をしました。興味深い判断です。ですが、それでは本国が求める反応記録には足りません」

「だから、ヘルメスで崩すか」

「はい。正面の盾で出ないなら、横から削ればいい。支援リンク、撤退路、出撃準備、そしてノクス・レクイエムを出すために必要な安全な空間。すべてを乱せば、いずれ選択せざるを得なくなります」

 レオンは答えなかった。

 前線表示の端で、高速巡航母艦メルクリウスの反応が開く。

 そこから、一機のGDが射出された。

 黒灰の機体。

 青緑のライン。

 青白いスラスター光。

 GD-NM-01 ヘルメス。

 操縦席で、リュカ・ヴァレンは楽しげに息を吐いた。

「ようやく出番か」

 声は軽い。

 だが、目は戦場表示を冷静に追っている。

『リュカ・ヴァレン。ヘルメス、出る』

 随伴する複数のGD-08S ヴェス・シュトルムが、メルクリウスから続けて射出される。

 高速型カスタム機。

 ヘルメスほどではないが、外側航路を走り、支援線を乱すには十分な速度を持っている。

 リュカは前方の戦場を見た。

 正面にはエリシオン。

 その前で、ルクス側の機体が防衛線を動かそうとしている。

 力押しではない。

 支援、誘導、狙撃、高機動。

 思ったより面白い。

「正面からはやらないよ、レオン閣下」

 リュカは笑う。

「盾は盾に任せる。こっちは、紐を切る」

 ヘルメスが加速した。

 その瞬間、ルクス側の表示から機体反応が消えかけた。

「速い!」

 カイトが叫ぶ。

 アルタイル・ノヴァ・ブレイスのセンサーが追いつかない。

 一瞬前まで外側航路にいたはずのヘルメスが、次の瞬間には戦場の横へ回り込んでいる。

『カイト、追わないでください!』

 ミオの警告が飛ぶ。

『支援リンク外側をなぞられています。こちらのリンク経路を読まれています』

「支援リンクを?」

『はい。切断ではなく、位置をずらされています』

 カイトの画面で、支援表示が一瞬だけ歪む。

 ミオの防御支援が途切れたわけではない。

 だが、届く位置がわずかに遅れる。

 ほんの少しのずれ。

 戦場では、それが致命的になる。

 ヘルメスは攻撃してこない。

 ビームを撃つでもなく、斬りかかるでもなく、味方と敵の間に引かれた見えない線だけをかすめていく。

 そして、ヴェス・シュトルムがその後を追うように飛び込んだ。

『左、来る!』

 レイのヴァナルガンドが動く。

 高速型同士。

 黒紺の影が、青白い軌跡を追った。

 レイの反応速度なら、ヴェス・シュトルムには追いつける。

 実際、二機のうち一機の背後を取った。

 だが、その瞬間、ヘルメスが横から通り過ぎた。

 何も撃たない。

 ただ、レイが次に踏み込むはずだった空間を先に通る。

『っ』

 レイは咄嗟に機体を止めた。

 止まらなければ、ヘルメスに進路を潰され、そのままエリシオン側の射線に押し出されていた。

『読まれてる』

 レイの声が低くなる。

『あいつ、速いだけじゃない』

 管制室で、アシュが表示を睨んだ。

『追うなと言った』

 レイが短く返す。

『分かってる。追ってない。追わされかけた』

『ならいい』

 カイルが外周からヘルメスの軌道を追う。

『こいつ、レイヴン・ハウルより速いな』

『直線ならな』

 アシュが答える。

『ただし、長くは曲がれない。曲がる前に次の進路を作っている』

「つまり、曲がってるんじゃなくて、曲がる場所を先に選んでる?」

 カイトが聞く。

『そうだ』

 カイルが低く笑った。

『なら、選ばせる場所を間違えさせりゃいい』

 ヘルメスは戦場を切り裂くように走り続ける。

 狙われたのは、カイトではなかった。

 ミオの支援網。

 セラの狙撃位置。

 カイルの外周経路。

 そして、ルクス・ヴァルキュリアと前線を結ぶ補給・回収ライン。

 ミオのルナ・スケイル・リフレクトに警告が走る。

『支援リンク第三経路、遅延。第四経路、ノイズ増加。ヘルメスが支援中継点を通過しています』

「ミオ、大丈夫か!」

『大丈夫です。ですが、このままではカイトへの補正が遅れます』

 カイトは機体を動かそうとした。

 ヘルメスを止めなければ。

 そう思った瞬間、ヘルメスがこちらへ向きを変えた。

 狙われた。

 カイトは反射的にビームライフルを構える。

 だが、ヘルメスは正面へ来ない。

 カイトのすぐ近くをかすめ、アルタイル・ノヴァ・ブレイスの支援ラインを横切った。

 画面が一瞬乱れる。

「くそっ!」

 支援リンクがわずかに外れる。

 姿勢制御が遅れる。

 その隙を、グラディウス・ブレイクが突いてきた。

 突撃。

 カイトは盾で受けようとする。

 だが、補正がずれている。

 衝撃が機体を揺らした。

「ぐっ!」

『カイト!』

 ミオが支援を戻そうとする。

 しかしヘルメスがまた外周をかすめ、支援経路を揺らす。

 支援が届かないのではない。

 届く直前に、位置がずれる。

 リュカは操縦席で笑った。

「強い機体ほど、支える線が多い。線が多いほど、揺らす場所も多い」

 ヘルメスは、ノクス・レクイエムを狙ってすらいなかった。

 まだ出ていない機体を、直接攻撃する必要はない。

 ノクス・レクイエムを出すためには、空間が必要だ。

 ベント排出方向。

 母艦との監視リンク。

 カイトのブレイスによる補助。

 ミオの支援網。

 カナデの負荷監視。

 アシュとリクトの安全制御。

 そのすべては、見えない線でつながっている。

 ヘルメスは、その線の上を走っていた。

 管制室で、リクトが歯を食いしばる。

「まずい。ノクス・レクイエムを出していないのに、出すための安全領域を荒らされてる」

 黒瀬が即座に確認する。

「現状でノクス・レクイエムを出撃させた場合は」

「危険だ。ベントの排出方向が安定しない。ヘルメスに支援リンクを乱された状態で出すと、カイトのブレイス補助も遅れる」

 カナデがユイの反応を見る。

「ユイ、今は出撃しないでください」

「はい」

 ユイはすぐに答えた。

 悔しさはあった。

 けれど、迷いはなかった。

「今出れば、ヘルメスの作った乱れに乗せられます」

 アシュが短く言う。

『あいつは出撃口も見る。ノクスを出すなら、そこを狙う』

 ジンが判断する。

「ノクス・レクイエム、待機継続。前線各機、ヘルメス対処を優先。突破は中止」

 黒瀬が記録する。

「ノクス・レクイエム非出撃継続。理由、ヘルメス介入により支援リンクおよびベント排出安全領域が不安定化」

 三島が続ける。

「前線、撤退判断の可能性あり」

 ジンは前線表示を見た。

「まだだ。回収線を作れるか確認する」

 カイルが通信に入る。

『作る。レイ、ヘルメス本体を追うな。ヴェスを散らせ』

『了解』

『セラ、撃てるか』

『撃てます』

『命令じゃねえぞ』

 セラは、ほんの一瞬だけ沈黙した。

 フェンリオン・リサイトの青緑センサーが、戦場をなぞる。

 ヘルメスは速い。

 直接撃っても当たらない。

 命令で「撃て」と言われたなら、狙うべき場所を選ぶ前に撃っていたかもしれない。

 けれど、今は違う。

 セラは自分の呼吸を聞いた。

 敵の速度を見る。

 味方の位置を見る。

 ヘルメスが次に通りたい線を見る。

『命令ではありません』

 セラは静かに言った。

『今、撃つべきだと、私が判断しました』

 フェンリオン・リサイトが砲身を動かす。

 狙いはヘルメスではない。

 ヘルメスが次に通過するために、ヴェス・シュトルムが開けようとしている誘導位置。

 一射。

 長距離弾が、ヴェス・シュトルムの前方にある小型中継機を撃ち抜いた。

 その瞬間、ヘルメスの進路候補が一つ消える。

 リュカの目がわずかに細くなった。

「へえ」

 ヘルメスは進路を変えた。

 だが、変えた先にはレイがいた。

『そこか』

 ヴァナルガンドが横から迫る。

 レイはヘルメスを追いかけていない。

 セラが消した進路の次を読んで、先に入ったのだ。

 ヘルメスとヴァナルガンドが一瞬だけ交差する。

 刃は届かない。

 だが、ヘルメスの外装に浅い傷が走った。

 リュカは笑った。

「いい反応」

 だが、その声に余裕だけがあるわけではなかった。

 今の一撃は、本当にかすった。

 正面戦闘を避けるヘルメスにとって、それは軽い警告ではない。

 カイルがその隙を逃さない。

『ミオ、今の傷を起点に追跡マーカー入れられるか』

『入れます。三秒ください』

『三秒好きだな、お前ら』

『三秒以上は保ちません』

『なら三秒で十分だ』

 レイヴン・ハウルが外周からヘルメスの背後方向へ回り込む。

 攻撃ではない。

 逃げ道を狭めるための動き。

 ミオが支援網を再構築する。

 乱された線を戻すのではなく、ヘルメスに切られる前提で細かく分散させる。

『支援リンクを一本に戻しません。細分化します。切られても、残った線で補正します』

 リクトが驚いたように画面を見る。

「なるほど、一本の太い支援線じゃなく、細い線を複数。ヘルメスに全部は切れない」

 ユイが頷く。

「ミオらしいです」

 ミオの声が返る。

『まだ荒いです。でも、保ちます』

 カイトの表示が少しずつ戻る。

 アルタイル・ノヴァ・ブレイスの姿勢制御が安定する。

 肩装甲の損傷はある。

 右腕部の負荷も残っている。

 だが、動ける。

「助かった、ミオ」

『礼は後で。今は下がる準備を』

「下がる?」

 カイトの声に、ジンの通信が重なった。

『前線各機、聞け。現時点での突破を中止する。回収線を形成し、一度防衛線外縁まで後退する』

「艦長、まだ――」

『まだ戦えるのと、今進むべきかは別だ』

 ジンの声は硬かった。

『エリシオンの防衛線を動かすことには成功した。ヘルメスへの対処法も一部見えた。だが、ノクス・レクイエムを出すための安全領域を乱されたまま、この先へ進むのは危険だ』

 黒瀬が続ける。

『監査記録上も、現時点での継戦拡大は推奨しません。撤退は敗北ではなく、再配置判断です』

 カイトは言い返しかけて、止めた。

 ここで無理に進めば、また同じだ。

 焦って、敵が待っている場所へ踏み込むことになる。

 ユイは出なかった。

 なら、自分も無理に前へ出る必要はない。

「……了解。アルタイル、後退します」

 レイが短く言う。

『殿は私がやる』

『単独でやらないでください』

 ミオが即座に返す。

『分かってる。たぶん』

『たぶんを禁止します』

『じゃあ分かった』

 セラが静かに続ける。

『レイの後退経路を支援します。追撃機を撃ちます』

 カイルが指示を出す。

『俺が外周を押さえる。カイトはミオの支援線から離れるな。ヘルメスは、下がる奴の背中を狙う』

 その言葉通り、ヘルメスが動いた。

 撤退に移る瞬間。

 隊列が乱れやすい場所。

 そこを狙って、青白い軌跡が走る。

 リュカは笑う。

「逃げ足を見るのも、仕事だからね」

 ヘルメスがカイトの後方支援線へ向かう。

 だが、そこに黒紫の影が割り込んだ。

 レイヴン・ハウル。

 カイルが真正面からヘルメスを止めたわけではない。

 進路に、ほんの少しだけ身体を置いた。

 それだけで、ヘルメスは軌道を変える必要があった。

『悪いな。そこは通行止めだ』

「レイヴン……!」

 リュカが小さく呟く。

 ヘルメスの軌道が変わる。

 その先に、セラの狙撃が置かれていた。

 一射。

 ヘルメス本体には当たらない。

 だが、随伴するヴェス・シュトルムの一機が脚部を撃ち抜かれ、速度を落とす。

 レイがそこへ飛び込む。

『邪魔』

 ヴァナルガンドの刃がヴェス・シュトルムを弾き飛ばす。

 撃破ではない。

 追撃能力を奪うだけで十分だった。

 ミオの分散支援線が、撤退する各機をつなぐ。

 細く、複数に分かれた淡い光が、切られてもすぐ別の線へ繋がる。

 ノクターン・ジャマーの干渉も、完全には追いつけない。

 カイトはその中で、ようやく後方へ下がった。

 正面には、まだエリシオンがいる。

 横には、ヘルメスがいる。

 防衛線は崩れていない。

 けれど、こちらもただ押し返されたわけではない。

 エリシオンの指示経路を見た。

 ヘルメスの進路選択を一度潰した。

 ミオの支援網は乱されながらも新しい形を作った。

 セラは命令ではなく、自分の判断で撃った。

 レイはヘルメスに傷を入れた。

 カイルは撤退線を守った。

 完全敗北ではない。

 だが、今は退くべきだった。

 ルクス側の前衛機が、防衛線外縁まで下がる。


 グラトン側は追撃しない。

 エリシオンは盾を構えたまま、一定距離で停止した。

 レオンが命じたのだ。

「追うな。進路封鎖を維持」

 クラウスが復唱する。

「追撃中止。進路封鎖維持」

 オルフェンが不満そうに言った。

「追えば、さらに削れました」

「削ることが目的ではない」

「では、十分な観測記録が取れたと?」

 レオンは前線表示を見る。

 ノクス・レクイエムは出ていない。

 ユイは出さなかった。

 それでも、ルクス側は防衛線を動かし、ヘルメスの進路まで一度読んだ。

「十分ではない」

 レオンは静かに答えた。

「だが、分かったことはある」

「何がです」

「あの艦は、ノクス・レクイエムだけの艦ではない」

 オルフェンは黙った。

 レオンは続ける。

「ユイ個体だけを見ていれば足りる相手ではない。支える者、読む者、撃つ者、引く者がいる。だから、まだ崩れていない」

 オルフェンはつまらなさそうに端末を閉じた。

「美しい評価ですね。ですが、本国が欲しいのは詩ではなく結果です」

「なら、結果を書け」

 レオンは冷たく言った。

「ノクス・レクイエムは出なかった。だが、ルクス・ヴァルキュリアは崩れなかった。そう記録しろ」

 オルフェンは返事をしなかった。


 ルクス・ヴァルキュリア管制室では、撤退した各機の損傷報告が次々と上がっていた。

『アルタイル・ノヴァ・ブレイス、肩部装甲損傷。右腕部負荷上昇』

『ヴァナルガンド、脚部装甲損傷。戦闘継続可能』

『ルナ・スケイル・リフレクト、支援パネル熱上昇。冷却必要』

『フェンリオン・リサイト、弾体消費。照準補助系正常』

『レイヴン・ハウル、外装軽微損傷。航行可能』

 ジンは報告を聞きながら、短く頷いた。

「全機回収後、戦闘解析へ移行。次の接触までに、エリシオンとヘルメスへの対処案を作る」

 黒瀬が記録をまとめる。

「外縁防衛線第一接触、撤退。理由、ヘルメス介入による支援リンクおよび安全出撃領域の不安定化。結果、通常戦力による敵防衛線再配置誘発、およびヘルメス進路一部阻害を確認」

 三島が静かに言った。

「完全敗北ではありませんね」

「ええ」

 黒瀬は端末を閉じる。

「むしろ、ノクス・レクイエムを出さずに得た情報としては大きい」

 ユイは前線から戻る機体表示を見ていた。

 カイトのアルタイル・ノヴァ・ブレイス。

 ミオのルナ・スケイル。

 レイのヴァナルガンド。

 セラのフェンリオン。

 カイルのレイヴン・ハウル。

 皆、傷ついている。

 けれど、戻ってくる。

 ノクス・レクイエムは、まだ隔離区画の奥にいる。

 出なかった。

 出さなかった。

 それでも、この戦いは進んだ。

 カナデが隣に立つ。

「ユイ」

「はい」

「出ない選択は、簡単ではありませんでしたね」

「はい」

 ユイは素直に頷いた。

「でも、出なかったから見えたものがあります」

「何が見えましたか」

 ユイは、戻ってくる味方機の反応を見た。

「私だけで戦う必要はない、ということです」

 カナデは静かに微笑んだ。

 その時、リクトが別の表示を開いた。

「それと、もう一つ見えた」

 画面には、ヘルメスが乱した支援リンクの痕跡が残っている。

 その中に、わずかに異なる波形が重なっていた。

 ミオが顔を上げる。

「これは……セレスティア反応?」

 イリスが目を細める。

「微弱ですが、似ています。ヘルメス隊の通信に混じっていたわけではありません。別方向から、一瞬だけ重なりました」

 レータの表情が変わる。

「アミィ……?」

 ユイも画面を見る。

 エリシオン。

 ヘルメス。

 そして、セレスティア。

 外縁防衛線の奥に、まだ別の糸がある。

 ジンが低く言った。

「次は、それを調べる必要があるな」

 撤退は終わりではない。

 むしろ、外縁防衛線の本当の複雑さが、ようやく見え始めたところだった。

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