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第140話 旧抵抗組織

 旧記録館で回収した資料の中に、一つだけ奇妙な通信痕跡が残っていた。

 それは正式な記録ではない。

 帝国の分類上は、旧防衛軍残存勢力による非合法通信試行。

 重要度は低。

 脅威度も低。

 現在は沈黙。

 そう整理されていた。

 だが、リンとアシュがその記録を解析した結果、別の可能性が浮かび上がった。

『完全に死んだ通信網じゃない』

 クロウヴェイル・ノアからの低出力通信越しに、アシュの声が響く。

 感情の薄い、淡々とした声だった。

『古い。遅い。暗号化方式も旧式だ。だが、帝国式監視網を避けるにはむしろ都合がいい』

 カイトは路地裏の物陰で、小型端末を見つめていた。

 隣にはレイがいる。

 少し離れた位置では、レータが周囲の認証端末の動きを監視していた。

「古い方が都合がいいって、どういうことだ?」

『帝国の監視網は帝国規格を前提に最適化されている。新しい通信、認証、軍用周波数、民間航路信号。そういうものは全部見ている』

 アシュは短く続ける。

『だが、統合前のアナログ系統や、旧式の短距離反射通信は優先監視対象から外れている。骨董品だからな』

「骨董品で通信してる相手がいるってことか」

『可能性はある』

 レイが腕を組んだまま言う。

「罠の可能性は?」

『ある』

 即答だった。

「帝国がわざと残した餌かもしれない。旧抵抗組織を釣るための偽装通信。あるいは、本物の旧通信網を帝国が乗っ取っている可能性もある』

「なら、行かない方がいいか?」

 カイトが尋ねると、アシュは少しだけ沈黙した。

『判断はそっちだ。だが、情報だけで言えば接触する価値はある』

「理由は?」

『この通信網は、記録館の地下資料と艦艇ドック情報の両方にかすかに繋がっている。旧アース・ネメシス防衛軍の残党が生きているなら、帝国が改修した軍需施設について、帝国側の記録にはない情報を持っているかもしれない』

 カイトは息を吐いた。

 戦艦改造につながるドック情報。

 パルスティア識別網へ続く管理施設。

 そして、旧防衛軍の生き残り。

 この星の過去に触れるほど、帝国の管理網の下に埋もれたものが見えてくる。

「接触地点は?」

 レイが尋ねる。

 アシュの声が返る。

『旧市街地下。統合後に再開発から外れた排水施設だ。現在の都市管理網からは半分切り離されている』

「半分?」

『完全には切られていない。だから慎重に行け。帝国の自動保守ドローンが巡回している』

 レイは小さく頷いた。

「十分だ」

 カイト達は、人通りの多い通りを避け、旧市街へ向かった。

 表通りは相変わらず清潔だった。

 住民認証ゲートが一定間隔で設置され、街頭モニターには統合記念日の案内が流れている。

 だが、都市の外縁へ近づくにつれ、建物の様子は少しずつ変わっていった。

 新しい白銀の建築の陰に、古い石造りの壁が残っている。

 帝国式の補修材で塞がれた旧街路。

 使われなくなった地下鉄入口。

 統合前の文字がかすかに残る看板。

 そこにも帝国の管理表示は取り付けられていたが、中心区ほど徹底してはいなかった。

「ここだけ、少し違うな」

 カイトが言う。

 レータが端末を確認する。

「再開発優先度が低い区画です。住民数は少なく、高齢者比率が高い。帝国管理上の重要度は中心区より下がります」

「だから、旧抵抗組織が隠れられる」

「はい。ただし、隠れられるということは、見捨てられているとも言えます」

 その言葉に、カイトは周囲を見る。

 壁は古く、照明も暗い。

 だが、スラムというほど荒れてはいない。

 最低限の補修はされている。

 水も電気も通っている。

 帝国は、ここも放置していない。

 ただ、中心には置いていない。

 古いものとして、端に寄せている。

「止まれ」

 レイが低く言った。

 全員が足を止める。

 前方の路地に、小型保守ドローンが浮かんでいた。

 ドローンは壁面のひびを検査し、認証灯を点滅させながらゆっくりと移動している。

 レータが端末を操作する。

「三十秒後に巡回ルートがずれます」

 レイは周囲を確認し、短く指示する。

「その間に抜ける。音を立てるな」

 ドローンが角を曲がった瞬間、四人は路地を横切った。

 古い地下入口へ滑り込む。

 扉には錆びた旧文字が残っていた。

 その上から、帝国語で「非推奨通路」と記されている。

 レータがロックを解除すると、重い扉がわずかに開いた。

 地下は湿っていた。

 空気が古い。

 中心区の整った空気循環とは違い、ここには金属と水と埃の匂いがあった。

 通路の奥で、かすかな光が揺れる。

 カイトが歩き出そうとした瞬間、レイが腕で制した。

「待て」

 暗闇の中から、低い声がした。

「それ以上動くな」

 カイト達は立ち止まる。

 通路の奥に、古い銃を構えた男が立っていた。

 年齢は六十を越えているように見える。

 白髪混じりの髪。

 深く刻まれた皺。

 だが、目だけは鋭い。

 軍人の目だった。

 その背後にも、数人の影がある。

 どれも若くはない。

 老人、あるいは中年。

 武器も旧式で、装備も揃っていない。

 それでも、彼らは確かにこちらを敵として見ていた。

「帝国の犬か」

 男が言った。

 レイが一歩前に出る。

「違う」

「なら、その認証タグは何だ」

 男の視線が、カイト達の偽装タグを射抜く。

 レータが口を開こうとしたが、レイが先に言った。

「潜入用だ。帝国のものではない」

「信じろと?」

「信じなくていい。話を聞け」

 レイの声は低いが、挑発ではなかった。

 男はしばらくレイを見つめていた。

 やがて、銃口を少しだけ下げる。

「名を言え」

「レイ」

「所属は」

 レイは少しだけ間を置いた。

「帝国と戦っている側だ」

 男の眉が動く。

 カイトが続ける。

「俺はカイト。俺達は、アース・ネメシスの情報を集めに来た。帝国の敵だ」

 男はカイトを見た。

 それから、レータを見る。

 レータの存在に気づいた瞬間、目が鋭くなる。

「そいつは帝国系だな」

 空気が張り詰めた。

 レータは動かなかった。

 カイトが慌てて言う。

「違う。今は俺達の仲間だ」

「今は、か」

 男は吐き捨てるように言った。

「帝国に作られたものが、そう簡単に変わると思うのか」

 レータは何も言わない。

 その沈黙を、レイが遮った。

「変わるかどうかを決めるのは、あんたじゃない」

 男の視線がレイへ戻る。

 レイも視線を逸らさなかった。

 しばらく、二人の間に沈黙が流れる。

 やがて、男は銃を下げた。

「……ハルド・レイスだ」

 彼は名乗った。

「元アース・ネメシス防衛軍、第七軌道防衛隊。今は、ただの負け犬だ」

「負け犬にしては、まだ牙が残ってる」

 レイが言う。

 ハルドはわずかに笑った。

「牙だけだ。噛みつく相手も、噛みつく力も、もうほとんど残っていない」

 彼は奥へ顎をしゃくった。

「来い。ここで立ち話をしていると、自動保守ドローンに拾われる」

 地下通路の奥には、小さな空間があった。

 古い整備室を改造した隠れ家のようだった。

 壁には旧式の通信機。

 机の上には紙の地図。

 年代物の銃器。

 使い込まれた端末。

 そして、古びた旗が一枚、丁寧に畳まれて置かれていた。

 カイトはその旗を見つめる。

 帝国のものではない。

 おそらく、旧アース・ネメシス防衛軍の旗だ。

 ハルドはそれに気づき、静かに言った。

「昔は、あれを掲げて戦った」

「今は?」

「掲げる場所がない」

 言葉は短かった。

 だが、そこにある重さは十分だった。

 アシュの通信が、カイトの耳元に入る。

『旧式端末を確認。接続できるか?』

 カイトが小さく頷くと、レータがハルドに向き直った。

「その通信端末を解析させてください。帝国の監視に引っかかっていないか確認できます」

 ハルドは疑うように目を細める。

「帝国系の技術者に、俺達の端末を触らせろと?」

 レータは静かに答えた。

「信じなくて構いません。ですが、今のままでは旧通信網の一部に監査痕跡があります」

「何?」

 ハルドの表情が変わる。

 アシュの声が通信越しに続く。

『こちらから説明する。通信経路に帝国の自動監査が薄く乗っている。まだ人間の監視官は見ていないが、放置すれば検出される』

 ハルドは突然聞こえた声に銃へ手をかけた。

 レイが片手で制す。

「仲間だ。艦から見ている」

「艦……?」

「詳しい話は後だ」

 ハルドはしばらく迷ったあと、古い端末を机の上に置いた。

「直せるのか」

『直すとは言っていない。帝国に見つかりにくいようにするだけだ』

 アシュの声は相変わらず冷静だった。

『この通信網は古い。だが、その古さが利点になっている。帝国式監視は最新規格に強い。逆に、旧式のノイズに埋もれた通信は見落としやすい』

「褒めているのか、馬鹿にしているのか分からんな」

『両方だ』

 ハルドは一瞬黙り、それから低く笑った。

「気に入らん奴だ」

『よく言われる』

 カイトは思わず苦笑しかけたが、すぐに表情を引き締めた。

 ハルドは椅子に腰を下ろし、カイト達を見る。

「それで、帝国と戦っている連中が、なぜ今さらこの星に来た」

 カイトは正直に答えた。

「アース・ネメシスがどうなっているのかを知るためだ。それと、帝国の軍事施設や管理網の情報が必要だった」

「解放しに来たわけじゃないのか」

 ハルドの声には、皮肉が混じっていた。

 カイトは一瞬黙った。

「今すぐ、この星を解放できる力はない」

「正直だな」

「嘘をついても意味がない」

 ハルドはカイトをじっと見つめた。

 やがて、深く息を吐く。

「それでいい」

「いい?」

「今すぐ解放してくれなどと言うほど、俺達は夢を見ていない」

 その言葉に、カイトは驚いた。

 ハルドは古い地図を机に広げる。

 そこには、現在の帝国行政区分ではなく、統合前の都市名や軍事施設名が書かれていた。

「俺達は負けた。徹底的にな」

 ハルドの指が、旧防衛線をなぞる。

「軌道防衛隊は壊滅。地上軍も分断。最後は各都市が一つずつ降伏した。帝国は強かった。戦術も、物量も、情報戦も、全て上だった」

 彼の声には怒りがあった。

 だが、それ以上に、事実を見つめる重さがあった。

「だが、忘れたわけじゃない」

 ハルドは顔を上げる。

「俺達は負けた。だが、忘れたわけじゃない。この星が別の名前で呼ばれていたことも、自分達で未来を選ぼうとしていたことも、全部覚えている」

 カイトは黙って聞いていた。

 レイも同じだった。

 ハルドの怒りは、若い叫びではない。

 長い年月をかけて、燃え尽きずに残った炭火のようなものだった。

「でも、若い奴らは違う」

 ハルドは地図の端を指で叩いた。

「中心区の子供達を見ただろう」

「見た」

 カイトはエリオの顔を思い出す。

 帝国教育院の士官候補。

 礼儀正しく、真面目で、帝国の秩序を信じている少年。

「彼らは帝国の街を故郷だと思っている」

 ハルドの声は苦かった。

「それを責める気はない。生まれた時からそうだったんだ。病院も学校も配給も、全部帝国のものとして与えられた。俺達が守れなかったものを、帝国が形だけでも整えた」

「形だけ……ですか?」

 カイトが尋ねる。

 ハルドの目が鋭くなる。

「形だけではない。だから厄介なんだ」

 その言葉に、カイトは以前レイが言ったことを思い出した。

 ちゃんとしているから厄介。

 壊れていないから迷う。

「帝国は、この星を焼け野原にはしなかった。街を直し、食料を配り、病院を動かし、子供に教育を与えた。それは事実だ」

 ハルドは拳を握る。

「だが、その代わりに、俺達が何者だったかを奪った」

 部屋の空気が重くなる。

「名前を奪い、歴史の意味を変え、抵抗を愚かな混乱として教えた。俺達の敗北を、帝国の救済物語に組み込んだ」

 レイが静かに口を開く。

「まだ戦うつもりか」

 ハルドはレイを見る。

 その問いに、怒りは返さなかった。

「戦えるなら、とっくに戦っている」

「なら、なぜ通信網を残した」

「忘れないためだ」

 ハルドは即答した。

「勝つためじゃない。もう俺達だけで勝てるとは思っていない。だが、何も残さなければ、本当に全部帝国の物語になる」

 彼は畳まれた旗に視線を向ける。

「誰かが覚えていなければならない。俺達が愚かな暴徒ではなかったことを。帝国に救われるだけの未熟な文明ではなかったことを」

 カイトは胸が詰まるのを感じた。

 解放を求める叫びではない。

 忘れないでくれという願い。

 それは、思っていたよりずっと重かった。

 レイが一歩前へ出る。

「その怒りを、若い世代に向けるのか」

 ハルドの目が細くなる。

「向けない」

「本当か?」

「向けたい時もある」

 ハルドは正直に言った。

「帝国の制服を誇らしげに着ている若者を見ると、胸が焼ける。俺達が何を失ったのかも知らずに、統合記念日を祝っている姿を見るとな」

 カイトはエリオの姿を思い出す。

 ハルドの言葉は鋭い。

 だが、理解もできた。

「だが、あいつらのせいじゃない」

 ハルドは続ける。

「あいつらは、俺達が守れなかった未来で育った子供だ。帝国に育てられたからといって、憎めるものか」

 レイは黙ってハルドを見ていた。

 やがて、低く言う。

「戦う者の言葉だな」

 ハルドは鼻で笑った。

「負けた者の言葉だ」

「負けた後に、憎む相手を間違えないのは簡単じゃない」

 その言葉に、ハルドは初めて少しだけ驚いた顔をした。

 レイの声は淡々としていた。

 だが、そこには戦場を知る者同士の重みがあった。

「俺は、あんたの怒りを否定しない」

 レイは続ける。

「だが、その怒りで今の子供達を焼けば、帝国の言う通りになる。抵抗は混乱で、独立は暴力だと証明することになる」

 ハルドはレイを睨む。

 しかし、反論しなかった。

「分かっている」

 やがて、ハルドは低く言った。

「分かっているから、ここにいる。撃ちに出ず、叫びもせず、古い通信網と記録だけを守っている」

 その言葉に、カイトはハルド達の現実を知った。

 彼らは無力だから隠れているのではない。

 下手に動けば、自分達の抵抗が帝国に利用されると分かっている。

 統治の安定を乱す暴徒。

 旧時代にしがみつく危険分子。

 そう分類され、さらに帝国の正当性を補強する材料にされる。

 だから彼らは、怒りを抱えたまま、記録を守っている。

『端末の応急処置が終わった』

 アシュの声が入った。

『監査痕跡を別の旧回線に流した。しばらくは安全だ』

 ハルドが端末を見る。

「しばらく、か」

『永遠ではない』

「正直だな、お前も」

『慰める趣味はない』

 ハルドは少しだけ笑った。

「だろうな」

 アシュは続ける。

『それと、旧ドックの情報を確認した。お前達の地図にある山岳施設。帝国記録では補助整備施設だが、地下に旧主力艦用の乾ドックが残っている』

 ハルドの表情が変わる。

「あそこを見つけたのか」

「知っているのか?」

 カイトが尋ねる。

 ハルドは頷く。

「あそこは、俺達の最後の造船施設だった。軌道防衛艦の修復も、そこでやっていた。帝国に接収されてからは、GD搬送と哨戒艦の整備施設に変えられたはずだ」

「中に入れるか?」

「普通なら無理だ」

 ハルドは地図に別の線を書き加える。

「だが、旧整備用の地下搬入口が残っている。帝国は塞いだつもりだろうが、完全ではない。俺達が一度だけ物資回収に使った」

 レータが地図を確認する。

「このルートなら、外部監視を一部避けられます」

『使えるな』

 アシュが言う。

『ただし、ドックに入るなら別問題だ。中は帝国規格の認証だらけだ。艦艇改造用のデータは取れるかもしれないが、深部へ進めばパルスティア識別網とも繋がる』

「つまり、次の目的地か」

 カイトが言う。

 ハルドはカイトをじっと見る。

「お前達は、あそこへ行くつもりか」

「必要なら」

「なら、忠告しておく。あそこには、この星が負けた理由も残っている」

「負けた理由?」

 ハルドは頷いた。

「帝国は、俺達の艦や兵器をただ壊したんじゃない。使えるものは解析し、組み込み、自分達の管理網に変えた。俺達の技術で、俺達を監視する仕組みを作った」

 その言葉に、カイトは旧記録館で見た展示を思い出した。

 記録を残し、意味を変える。

 施設を残し、用途を変える。

 人を残し、役割を変える。

 帝国の統治は、全て同じ形をしていた。

 ハルドはカイト達を見回す。

「この星を今すぐ解放できないのは分かっている。だが、一つだけ頼みがある」

「何だ?」

「この星を、帝国の成功例だけにしないでくれ」

 その声は、怒鳴り声ではなかった。

 むしろ静かだった。

「俺達が負けたことも、帝国の下で平和になった者がいることも、全部事実だ。だが、それだけで終わらせないでくれ」

 カイトは真っ直ぐにハルドを見る。

 すぐに「分かった」とは言えなかった。

 軽すぎる気がした。

 それでも、黙っているわけにはいかなかった。

「全部は、まだ分からない」

 カイトは言った。

「でも、見たことは忘れない。記録も持ち帰る。この星が、ただ帝国に救われただけの場所じゃないってことも」

 ハルドはしばらくカイトを見ていた。

 やがて、ゆっくり頷く。

「それでいい」

 レイがハルドに向き直る。

「あんた達はどうする」

「ここに残る」

「危険だぞ」

「今さらだ」

 ハルドは古い旗を手に取る。

「若い奴らが、いつか疑問を持つ日が来るかもしれない。その時、何も残っていなければ、帝国の答えしか選べない」

 彼は旗を丁寧に戻した。

「だから、残す。戦えなくても、覚えていることはできる」

 レイは黙って頷いた。

 カイト達は、ハルドから旧ドックへの地下搬入口情報と、旧防衛軍の通信暗号の一部を受け取った。

 完全な信頼ではない。

 だが、細い糸のような協力関係が生まれた。

 地下通路を出る前、ハルドが最後に言った。

「外の連中」

 カイト達が振り返る。

「この星を見て、帝国も悪くないと思ったか?」

 カイトは答えに詰まった。

 ハルドは苦笑する。

「責めているわけじゃない。そう思わせるのが、帝国の上手いやり方だ」

 彼の目が、暗い通路の奥で光る。

「だが忘れるな。平和に見える街の下に、俺達のような負けた者が埋まっている」

 その言葉を胸に刻み、カイト達は旧抵抗組織の隠れ家を後にした。

 地上へ戻ると、街は相変わらず穏やかだった。

 認証ゲートが青く光り、教育放送が流れ、子供達が笑っている。

 その下に、忘れられないためだけに残った人々がいる。

 そのことを知ったあとでは、同じ街の景色が、少し違って見えた。

 カイトは空を見上げる。

 アース・ネメシスの空は青かった。

 だが、その青さの下にあるものを、もう知らないふりはできなかった。

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