第11話 実戦
『TYPE-III接近』
『数、六』
『進路予測、沿岸都市第三区』
アーク・ノア艦橋の空気が一変した。
通常の監視音だけが響いていた空間に、警報音が重なる。
オペレーター達が一斉に動き出した。
「飛行種か……!」
「市街地到達まで七分!」
艦長が即座に命令する。
「迎撃隊発進!」
「市街地侵入前に落とせ!」
格納庫。警報灯が赤く点滅していた。
整備員達が走る。武装搬入。最終固定解除。
完全に戦場の空気だった。
「バスティオン起動急げ!」
「推進系正常!」
「弾薬装填完了!」
カイトはヘルメットを抱えたまま立っていた。
心臓がうるさい。
これまでも戦場には出た。だが今回は、明確な迎撃任務だった。
相手は空を飛ぶNB。逃げ場のない市街地へ向かっている。
「……マジかよ」
その時。隣のユイが静かにガルムへ向かう。
いつも通り。落ち着いている。
しかし、ふと格納庫奥の白いコンテナ群、その中の一つへユイの視線が止まる。
一瞬だけ。本当に一瞬だけ。
寂しそうな顔。
「?」
カイトは違和感を覚えた。
けれど、その意味を考える時間はない。すぐにユイは視線を戻し、いつもの無表情へ戻っていた。
『各機発進準備!』
カタパルト接続。LFが並ぶ。LF-01 ヴァンガード。
LF-02 ガルム。LF-T01 バスティオン。
そして。格納庫奥。白いシートに覆われたアルタイル。
そこだけは、警報の中でも妙に静かだった。動かない。まだ動かしてはいけない機体なのだと、カイトにも分かった。
『霧島カイト』
通信は教官からだった。
『今回は実戦データ取得も兼ねる』
『無理はするな』
「それ毎回言いますよね」
『毎回無茶するからな』
返せなかった。
『発進!』
射出。衝撃。
遠方に黒い影。TYPE-III、飛行種が六体。
「うわっ……!」
速い。思った以上だった。鳥とも違う。
戦闘機とも違う。異形。
『編隊維持!』
ミオの通信。ルナ・スケイルのビットが展開される。
索敵領域拡張。敵軌道予測。
『右上二機来る!』
直後。飛行種急降下。
「っ!?」
カイトが慌てて回避。ギリギリ。爪がバスティオン装甲を掠める。
警報が響く。
《左肩損傷》。
「うわぁぁっ!?」
『落ち着け新人!』
タツヤの怒鳴り声が通信へ飛ぶ。
『まだ飛べてる!』
「気軽に言うな!」
その時。黒い機影。ガルム。ユイ機が高速接近。
一閃。TYPE-IIIの翼が切断される。
そのまま回転。撃墜。速い。無駄が無い。
『カイト、下がって』
「でも!」
『今は生き残る方優先』
静かな声だった。しかし、妙に重みがあった。
その時、別方向にTYPE-III二体が市街地方向へ突破する。
「まずい!」
ヴァンガード隊が追う。
しかし速度差があり追いつけない。
その瞬間。ルナ・スケイルのビット群展開。
光線。TYPE-IIIの軌道が乱れる。
『今!』
ユイ機が急加速。ガルムが空を裂く。
連続斬撃。二体同時撃破。候補生達が息を呑む。
「すげぇ……」
しかし、その直後。ガルム側警報が響く。
《高負荷警告》《右腕部フレーム限界》
ユイが僅かに顔をしかめる。
無理矢理機体が追いついている。そんな感じだった。
一方その頃、格納庫側モニターでは整備班がざわついていた。
「またか……!」
タツヤが険しい顔をする。
「ガルムじゃ限界近ぇぞ」
エルが静かに言う。
「出力追従率不足」
「現行フレーム誤差増大」
つまり、ユイにガルムが追いついていない。
カイトはその言葉を完全には理解できなかった。だが、今の戦闘でガルムが限界まで悲鳴を上げていたことだけは分かった。
その頃。高高度空域。
白いGD――UNKNOWN-D。
そのパイロットは、静かに戦場を見下ろしていた。視線の先。
ガルム。そして、バスティオン。
「……まだ使ってる」
小さな呟き。
その目がほんの少しだけ揺れた。
しかし、次の瞬間には消える。
白いGDは静かに空の彼方へ消えていった。




