第10話 Xシリーズ
アーク・ノア会議室。
空気は重かった。
モニター中央に表示されているのは、LF-X04 アルタイル。
そして同期試験ログ。
《霧島カイト》 《同期率:83%》
整備主任が顔をしかめる。
「高すぎる」
「候補生レベルじゃねえ」
別の技術士官が端末を見る。
「しかもXシリーズ側が反応してます」
「逆探知みたいに」
艦長が低く聞く。
「アルタイルは現在封印状態だったな」
「はい」
「正式運用停止中です」
「理由は」
数秒、迷うような空気が流れる。
そして。
「暴走事故です」
モニター映像を切り替えた。
訓練施設での過去の記録。
暴走する赤い数値。崩壊したシミュレーター。
火花。警報が響く。
《SYNC OVER》《神経負荷限界》
そこで映像は停止した。
「Xシリーズは出力特化試験機です」
「通常LFと比較して同期深度が異常に高い」
「適性が低ければ動かない」
「高すぎれば神経側が耐えられない」
つまり、危険物。
艦長が静かに言う。
「それにカイト候補生が適合した」
誰も否定しない。
その頃、候補生区画。
「……」
カイトはベッドへ倒れていた。頭が重い。
妙な感覚が残っている。
あの瞬間、確かに何かと繋がった。
その時ドアが開く。ミオだった。
「生きてる?」
「多分」
「それ死にかけの返答」
ミオが椅子へ座る。少しだけ真面目な顔。
「……びっくりした」
「何が?」
「80超え」
ミオの声は静かだった。
「普通そこまで行かない」
「そんなヤバいのか?」
ミオは頷く。
「LF-T系列なら低適性でも動く」
「でもXシリーズは別」
「神経接続深度が深い」
「深い?」
「機体と操縦者の境界が曖昧になる」
カイトが顔をしかめる。思い出す。あの感覚。
身体じゃない。
もっと変な、“混ざる”ような感覚。
その時ミオがぽつりと言う。
「……昔、似たような同期異常を見たことがある」
カイトが顔を上げる。
「え?」
ミオは少しだけ目を逸らす。
「今のは、忘れて」
それ以上は話さない。沈黙が響いた。
その時。コンコン。扉が開く。ユイだった。
相変わらず無表情。だが手には小箱。
「何それ」
「薬。頭痛用」
カイトが少し驚く。
「……気使えるんだなお前」
「失礼」
ミオが吹き出す。ユイは小さくため息を吐く。
そしてカイトを見る。
「無理に同期しようとしない方がいい」
静かな声だった。
でも、妙に重かった。
「Xシリーズは普通じゃない」
「飲まれる」
カイトが少し眉をひそめる。
「お前」
「何でそんな詳しいんだ?」
沈黙が響いた。ほんの一瞬ユイの目が揺れる。
だがすぐ消える。
「資料読んだから」
「絶対違うだろ」
「……」
その時艦内警報が響く。短い通知音。
三人の空気が変わる。通信。
『高高度空域に未確認熱源』
『TYPE-III接近』
『迎撃部隊準備』
ミオが即座に立ち上がる。
「行く」
ユイも振り返る。だが通信は続いた。
『なお』
『UNKNOWN-D反応を同時確認』
空気が止まる。白い機体。GD。カイトの顔が変わる。
その時格納庫側モニター。シートに覆われたアルタイル。
その内部で小さく光が灯った。まるで誰かを待っているみたいに。




