第09話 分類
講義室の空気は重かった。
前方モニター。映し出されるのはネメシス・ビースト。
巨大な獣型。崩壊した都市。撃破されたLF。
「本日の座学は敵性存在分類」
教官が静かに言う。
「ルミナス・フレーム運用者にとって最重要項目だ」
モニターが切り替わる。複数のNBシルエット。
「現在、地球統合軍はネメシス・ビーストを大きく五系統へ分類している」
「名称や一部情報は、羽崎候補生から提供された資料を照合したものだ」
カイトが端末を開く。
情報量は多い。だが、覚えなければ次の戦場で死ぬ。
《TYPE-I》小型群体種。四足。高速。都市侵入型。
「最も遭遇率が高い個体群だ。群れで行動する。
火力は低いが数が多い」
市街地へ雪崩れ込むNB群の映像。
「一般部隊では対処困難」
「だからLFが必要になる」
モニター切り替え。
《TYPE-II》大型重装種。巨大。厚い装甲。
「突破型。防衛線破壊を目的とした個体」
カイトが少し顔をしかめる。
「前に戦ったデカい奴か」
ミオが頷く。
「多分あれ」
ビルのような大きさのNBの映像。砲撃を受けても止まらない。
教室が静まる。
《TYPE-III》飛行種。空中機動。高速。
「制空・奇襲担当。最も都市被害を出しやすい。
侵入速度が速すぎるため通常防空網では対応が遅れる」
カイトが呟く。
「空飛ぶ怪獣とか反則だろ……」
「実際かなり厄介」
ミオが真顔で言う。モニター切り替え。《TYPE-IV》水中種。
海洋侵攻型。潜航能力。巨大熱源。
「沿岸都市への侵攻個体。海上戦力被害率が高い」
その時。コウタが小さく呟く。
「海にもいるのかよ……」
「いる」
ユイが静かに答える。教室が少し静まる。
そして、最後の分類。《SPECIAL TYPE》特殊個体。
個別危険種。
「出現数は少ない」
「だが」
「確認された場合は最優先警戒対象になる」
異常に巨大な複数頭部をもつNBの映像。
候補生達が息を呑む。その時、カイトがふと聞く。
「……これって」
「全部帝国が作ってるのか?」
教官が少し考える。そして。
「正確には違う」
モニター切り替え。謎の生物映像。まだ機械化されていない獣。
「NBは元々、帝国圏で確認されていた危険生物群だと推測されている。
ネメシス帝国はそれを機械化・武装化・制御化して兵器利用している」
教室が静まる。つまり、ただの怪獣災害ではない。
運用されている兵器だった。
カイトが小さく呟く。
「……最悪だな」
その時。ユイが静かに言った。
「全部が制御できてる訳じゃない」
視線が集まる。ユイはモニターを見る。
「暴走した個体も失敗個体もいる。制御を失った区域も」
その声は妙に現実感があった。ミオが少しだけユイを見る。
だが何も言わない。
教官が次の映像を表示する。
白い機体。UNKNOWN-D。教室空気が変わる。
「そしてこれが」
「グレイブ・ドール。通称GD」
白い機体が高速機動する。LFとは違う。
無駄が無く洗練されている。
「ネメシス帝国主力機動兵器。LFより以前から存在する。
現時点で確認されている限り、LFより総合性能は上」
候補生達がざわつく。
「そんなの勝てるのかよ……」
その時、ユイが小さく呟く。
「勝てない訳じゃない」
「?」
「LFの方が瞬間出力は高い」
「機体ごとの個性も強い」
静かな声だった。でもそこには確信があった。
まるで両方知っているみたいに。教官が腕を組む。
「重要なのは」
「LFはまだ発展途中だという事だ」
モニター切り替え。
一度に表示される情報量に、カイトは思わず端末を見る手を止めた。
NB、GD、そしてLF。頭の中でまだ整理しきれていない。
それでも教官は、候補生達が混乱しているのを見越したように、一つずつ区切って説明を続けた。
LFの機体一覧が表示される。
「これが現在のところ配備されているLFの一覧だ」
LF-T01 バスティオン。旧式量産型。
続いて。LF-01 ヴァンガード。現行主力量産機。
LF-02 ガルム。近接特化型量産機。
LF-03 ガーディア。防衛型量産機。
そして。LF-PT-M01 ルナ・スケイル。
最後に。シートへ覆われたアルタイル。
「LFは系列ごとに特性が違う。そして必要とされる適性も違う」
カイトが眉をひそめる。
「適性?」
教官が頷く。
「LFは単なる操縦兵器ではない」
「神経同期型兵器だ」
教室が静まる。
「神経負荷に耐えられない者はそもそも動かせん。
動かせても戦えん」
モニターへ数字が表示される。
《候補生総数》《LF適性確認》《実戦適合》
その数は急激に減っていた。候補生達の空気が重くなる。
「これが現実だ」
一呼吸置いた後、
「候補生は多い。だが実戦運用者は少ない。
だから慢性的なパイロット不足になる」
カイトが小さく呟く。
「……そんなにキツいのか」
ミオが静かに補足する。
「LFは人を選ぶ。特に高性能機ほど」
視線がアルタイルへ向く。シートの奥で沈黙する試験機。
教官が低く言う。
「だからこそ、適性保持者は貴重だ」
空気は静まり返っていた。だがユイだけは少し複雑そうな目でアルタイルを見ていた。
まるで何かを思い出すみたいに。そして講義終了ベルが鳴る。
候補生達が一斉に息を吐いた。カイトは椅子へ沈み込む。
「頭パンクする……」
ミオが少し笑う。
「まだ基礎」
「地獄かよ……」
シミュレーター室。薄暗い空間に並ぶコックピットブロック。
そして大型モニター。
《LF神経同期試験》
カイトは嫌な予感しかしなかった。
「……これ絶対ヤバいやつだろ」
「ヤバいやつ」
ミオが普通に頷く。
「肯定するなよ」
候補生達が並ぶ。今日はLF適性試験。
正式な神経同期測定だった。教官が前へ立つ。
「昨日も説明した通りLFは神経同期型兵器だ」
モニターへ波形が映る。脳波、神経反応、同期グラフ。
「適性が低ければ機体は反応しない。高すぎれば逆に神経負荷が暴走する」
カイトが顔をしかめる。
「高すぎても駄目なのか?」
「制御不能になる可能性がある」
答えは静まり返っていた。候補生達の顔色が少し変わる。
その時タツヤが後ろから小さく呟く。
「毎年何人かぶっ倒れるんだよな」
「怖い事言うなよ!?」
コウタが笑う。
「新人は大体最初そう言う」
試験開始。一人ずつ。コックピットへ入る。
同期、測定、終了。だが反応はまばらだった。
《同期率:14%》《適性不足》
《同期率:22%》 《実戦運用不可》
候補生達の空気が重くなる。
「こんな低いのか……」
「LFってもっと簡単に動くんじゃ……」
教官が即座に否定する。
「ゲームじゃない」
静まり返る室内。
「LF-T系列なら低適性でも動く」
モニターへバスティオンの画像。
「旧式量産型。低出力。低神経負荷。防衛用として現在も運用されている」
続いてLF-01 ヴァンガード。
「現行主力量産機」
「ここから必要適性が一気に上がる」
さらにガルム。ルナ・スケイル。そしてアルタイル。
室内空気が少し変わる。
「専用機・試験機クラスは別物だ」
「特にX系列は危険」
カイトがアルタイルを見る。静かに眠る機体。
第八格納庫で一瞬だけ反応した、あの違和感が頭をよぎる。
「……あれそんなヤバいのか」
ユイが小さく呟く。
「暴れるから」
「え?」
「出力が高すぎる」
「普通のLFじゃない」
静かな声だった。だがどこか実感があった。
まるで実際に乗った事があるみたいに。
その時。
《次:霧島カイト》モニター表示。
「うわ来た……」
カイトが嫌そうな顔をする。コックピットへ入る。
ハッチ閉鎖。薄暗い。システム起動。《神経同期開始》
その瞬間、頭へ妙な感覚が走る。
「っ……!」
視界が白く揺れる。ノイズ、鼓動。そして一瞬だけ何かが見えた。
白い空間。壊れた都市。黒い機体。知らない景色。
《同期率上昇》 《40》《52》《67》
室外の教官の顔色が変わる。
「上がり方が速い……!」
ミオがモニターを見る。ユイは黙っていた。
だがその目だけが少し鋭くなる。《79》《83》
警報が響く。
《負荷上昇》《危険域接近》
カイトが息を荒くする。
「な、んだこれ……!」
頭が痛い。なのに妙に感覚が“合う”。
機械じゃない。もっと近い。まるで身体の延長みたいに。
その瞬間、別モニターが勝手に起動する。《LF-X04》アルタイル。
格納庫映像。機体側システム起動。整備班がざわつく。
「何だ!?」
「アルタイルが反応してる!?」
シミュレーター室が騒然となる。
《SYNC SIGNAL DETECTED》《X SERIES RESPONSE》
教官が叫ぶ。
「同期停止!」
強制遮断され、カイトの視界が戻る。荒い呼吸に汗、それに頭痛。
「っ……はぁ……」
ハッチ解放。カイトがふらつきながら出てくる。
室内が静まり返る。
「……何だよ」
誰もすぐには答えない。モニター表示。《霧島カイト》《同期率:83%》
候補生達がざわつく。
「80超え!?」
「嘘だろ……」
「候補生で!?」
教官が険しい顔をする。
「……高すぎる」
カイトが顔をしかめる。
「高いと駄目なんじゃなかったのか?」
「場合による」
教官の視線がアルタイルへ向く。
「問題は」
「何に適合したかだ」
静寂が響いた。
その時ユイが小さく目を伏せた。
まるで嫌な予感を抱いたみたいに。




