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第105話 生存者

 医療冷却区画の扉は、静かに閉ざされていた。

 厚い隔壁。

 赤く点滅する警告灯。

 古い認証端末。

 そして、何度も繰り返される管理AIの声。

《生存者確認》

《医療冷却区画、稼働中》

《救援を要請します》

《外部開放は推奨されません》

 救いを求めている。

 だが、開けるなとも言っている。

 その矛盾した声が、通路の中に冷たく響き続けていた。

 カイルは隔壁の前に立ち、しばらく黙っていた。

 ユイは扉の端末を確認し、レータは感染域のデータを再解析している。

 イリスは手動記録に切り替えたまま、音声記録を使わずに状況を書き残していた。

 三島は防護服の中で息を整えながら、扉の文字を見つめている。

 外部開放は推奨されません。

 だが、扉の向こうには生存者がいるかもしれない。

 開けなければ助けられない。

 開ければ危険が広がるかもしれない。

 その選択が、目の前にあった。

 救助という言葉は、この場所ではいつも危険と隣り合わせだった。

「レータ」

 カイルが短く言った。

「開けられるか」

「開けること自体は可能です」

 レータは端末を見たまま答える。

「ただし、通常開放は危険です。内部の空気を外へ流さず、隔離チャンバーを作る必要があります」

 アルベルトが頷く。

「古い医療区画なら、緊急隔離用の二重扉があるはずだ。外側の隔壁を開けても、内側を閉じたまま空気を検査できる」

 ユイが端末を操作する。

「認証コードに帝国式の封鎖命令が混じっています。ただし、完全な軍用ロックではありません。避難施設側の管理AIが上書きしています」

「管理AIが?」

 三島が顔を上げる。

 ユイは頷いた。

「おそらく、この区画を守るために、帝国側の封鎖命令を部分的に書き換えています」

 その言葉に、カイトの通信が入った。

《つまり、そのAIは敵じゃないのか?》

 イリスが静かに答える。

「現時点では、敵性ではありません。矛盾した命令を処理できずにいますが、医療冷却区画の維持を優先しています」

 レータが続ける。

「管理AIは壊れかけています。ただし、生存者を守ろうとしている可能性が高いです」

 隔壁のスピーカーが、また声を発した。

《生存者を保護してください》

《感染拡大を防止してください》

《救援を要請します》

《外部開放は禁止されています》

 カイルは小さく息を吐いた。

「守ろうとして、開けられなくなったか」

 アルベルトが低く言った。

「長期間、矛盾した命令を処理し続けたのだろう。救え。だが開けるな。守れ。だが広げるな。普通ならとっくに破綻している」

「でも、まだ動いている」

 三島が呟いた。

 イリスが頷く。

「はい。まだ、守っています」


 隔壁端末に、古い管理AIの識別名が表示された。

《第七地下残存区画管理中枢》

《避難施設統合管理AI》

《HESTIA》

 三島が読み上げる。

「ヘスティア……」

 アルベルトが言った。

「家庭と火を守る女神の名だ。避難施設の管理AIには、似合いすぎる名前だな」

 ユイは表示を見つめた。

「ヘスティア。こちらはルクス・ヴァルキュリアおよびクロウヴェイル・ノア合同調査隊です。医療冷却区画の生存者確認と救助のため、限定的な隔離開放を要求します」

 一瞬、沈黙があった。

 古い端末にノイズが走る。

 それから、合成音声が返った。

《救援要請を確認》

《外部開放は禁止されています》

《生存者を保護してください》

《感染拡大を防止してください》

 同じ言葉。

 同じ矛盾。

 レータが横から言う。

「ヘスティア。外部開放ではなく、隔離開放です。外気流出を防ぐため、二重扉と浄化手順を使用します」

《隔離開放》

《定義確認中》

《浄化手順……破損》

《隔離チャンバー……一部稼働》

 イリスが端末を確認する。

「反応しました。隔離チャンバーはまだ動かせます。ただし、浄化手順が破損しています」

 アルベルトが言う。

「こちらで補助する。ルクス側の簡易浄化ユニットをつなげば、最低限の空気交換はできる」

 カイルは頷いた。

「やるぞ。全員、作業に入れ」


 作業は慎重に進められた。

 外側隔壁の周囲に簡易浄化ユニットを設置し、通路を一時隔離する。

 ユイとアルベルトが封鎖コードを解析し、レータが開放手順を組み直す。

 イリスは手動でログを残し、三島はその隣で監査記録を取っていた。

 カイトは入口でアルタイル・ノヴァを待機させたまま、通信越しに状況を見ている。

 何もできないことが、もどかしかった。

《手伝えることは?》

 カイトが聞く。

 カイルは短く返す。

「入口を守れ。それが一番重要だ」

《分かってる》

「本当に分かってきたなら、それでいい」

 カイトは少しだけ息を吐いた。

 以前なら、今すぐ中へ行きたいと言っていたかもしれない。

 だが今は、動かないことも役割だと分かっていた。

 救うために、待つ。

 それも必要だった。


 隔離チャンバーの準備が整った。

 レータが最終確認を行う。

「外側隔壁、開放可能。内側隔壁、閉鎖維持。空気流出制限、七十二パーセント。完全ではありませんが、許容範囲です」

 アルベルトが補足する。

「内部に強い感染源があれば、これでも危険だ。開けた瞬間のセンサー値で判断する」

 カイルは全員を見る。

「異常が出たら即閉鎖。中に誰かが見えても、勝手に飛び込むな」

 三島は自分に言い聞かせるように頷いた。

 カイルが言う。

「開けろ」

 ユイが端末を操作する。

 古い隔壁が、重い音を立てて動き始めた。

 空気が震える。

 赤い警告灯が強く点滅する。

《隔離開放》

《感染監視中》

《生存者を保護してください》

《感染拡大を防止してください》

 外側隔壁が開いた。

 その先に、小さな隔離室があった。

 壁は白かったはずだが、今は灰色に汚れている。

 床には古い医療機材が倒れていた。

 だが、内部の汚染値は予想より低かった。

 イリスが報告する。

「隔離室内、汚染反応あり。ただし、外部通路より低濃度。浄化システムが一部機能しています」

 レータが続ける。

「内側隔壁の奥に、低温維持反応を確認」

 三島は思わず息を止めた。

 低温維持反応。

 それは、医療冷却区画がまだ生きているということだった。


 内側隔壁の小窓が、わずかに開いた。

 中は薄暗い。

 霜が付着した透明なカバーが並んでいる。

 冷却ポッドだった。

 数は多い。

 だが、そのすべてが生きているわけではなかった。

 赤い停止表示。

 黒く消えた端末。

 割れたカバー。

 空になったポッド。

 中には、白い布をかけられたものもあった。

 三島は言葉を失った。

 そこは、救いの場所であると同時に、終わった場所でもあった。

 イリスが淡々と、しかし丁寧に記録する。

「医療冷却区画内、冷却ポッド多数。稼働中ポッド、少数。停止ポッド、多数。名簿照合を開始します」

 ヘスティアの声が流れた。

《登録者数、百二十七》

《生存維持対象、三》

《処置不能対象、百二十四》

 誰も声を出さなかった。

 百二十七。

 そのうち、生きている可能性があるのは三。

 数字は、あまりに冷たかった。

 カイトが通信越しに呟く。

《三人……》

 救えたかもしれない。

 だが、救えなかった百二十四人がそこにいた。

 その重さが、全員にのしかかった。

 ヘスティアは続ける。

《生存者を保護してください》

《処置不能対象を記録してください》

《救援を要請します》

 壊れかけた声。

 だが、それは最後まで守ろうとしていた。


 内側隔壁の開放は、さらに慎重に行われた。

 感染検査。

 空気浄化。

 ポッドごとの生命反応確認。

 どれか一つでも異常が出れば中止する。

 それでも、作業は進んだ。

 やがて、最初の稼働ポッドが確認された。

 中にいたのは、小さな男の子だった。

 年齢は七歳か八歳ほどに見える。

 顔色はひどく悪いが、胸がかすかに上下している。

 二つ目のポッドには、少女がいた。

 髪は短く、頬は痩せていた。

 指先には、古い医療タグが付けられている。

 三つ目のポッドには、さらに幼い子供が眠っていた。

 呼吸は弱い。

 だが、生きている。

 三島は端末を握ったまま、動けなくなった。

 生きていた。

 本当に。

 ここに。

 レータが静かに言う。

「生存者三名を確認。全員、低温睡眠状態。生命維持装置は限界に近いです」

 イリスが記録する。

「生存者三名。冷却ポッド内にて確認。救助可能性あり」

 カイルが短く命じる。

「搬送準備」

 アルベルトが頷く。

「外部汚染を持ち出さないよう、ポッドごと隔離搬送する」

 ユイがすぐに作業に入る。

「ヘスティア。生存者三名を隔離搬送します。許可を」

 ノイズ。

 沈黙。

 そして、管理AIの声。

《生存者を保護してください》

《医療冷却区画からの移送は、推奨されません》

《生命維持装置、限界》

《生存者を保護してください》

 矛盾した返答。

 だが、そこにはわずかな変化があった。

 最後の命令が、残った。

 生存者を保護してください。

「受け取った」

 カイルが言った。

「その命令は、俺達が引き継ぐ」


 搬送作業は、時間との勝負だった。

 停止したポッドの間を進み、稼働中の三基だけを切り離す。

 内部の生命維持を途切れさせないよう、外部電源を接続する。

 汚染を広げないよう、ポッド全体を隔離シートで包む。

 三島は最初、記録するだけのつもりだった。

 だが、二つ目のポッドを移動させる時、作業員が足を滑らせた。

 三島は反射的に手を伸ばした。

 記録端末を床へ置き、ポッドの補助フレームを支える。

「三島さん!」

 カイトの声が通信越しに聞こえた。

「大丈夫です!」

 彼女は息を荒げながら答えた。

 防護服の腕が重い。

 補助フレームは冷たく、震えている。

 その向こうで、眠っている少女の顔が見えた。

 三島は一瞬、端末のことを忘れた。

 監査官として記録するべき場面だった。

 だが今は、このポッドを落とさないことの方が大事だった。

 カイルが短く言う。

「そのまま支えろ。三秒で固定する」

「はい!」

 ユイが補助ロックをかけ、レータが外部電源の接続を確認する。

 ポッドは安定した。

 三島はようやく手を離し、床に置いた端末を拾う。

 記録は数十秒途切れていた。

 その空白を見て、彼女は少し迷った。

 後でどう書くべきか。

 監査官補佐が記録を中断し、救助作業に参加。

 手順違反かもしれない。

 だが、彼女は端末にこう入力した。

《搬送中、第二ポッドの保持が不安定化》

《記録を一時中断し、救助作業を補助》

《結果、ポッドの落下を回避》

 それ以上の言い訳は書かなかった。

 必要だった。

 それだけだった。


 三基の冷却ポッドは、慎重に降下艇へ運び込まれた。

 搬送経路は短くはなかった。

 だが、入口を守るアルタイル・ノヴァ、上空を警戒するフェンリオン・リサイト、通信を維持するルナ・スケイル・リフレクトの支援により、何とか地表まで戻ることができた。

 カイトは搬送されるポッドを見て、胸の奥が少しだけ軽くなるのを感じた。

 助けられた。

 三人だけ。

 それでも、ゼロではなかった。

 だが、すぐに医療冷却区画の数字が頭に浮かぶ。

 登録者数、百二十七。

 生存維持対象、三。

 処置不能対象、百二十四。

 助けられたことと、助けられなかったことが、同時に胸に残った。

「カイト」

 ユイが通信で呼ぶ。

「はい」

「戻ります。ポッドの護衛をお願いします」

「了解」

 アルタイル・ノヴァは、降下艇の前に立った。

 守る。

 今度こそ。

 その三つの命を、絶対に。


 クロウヴェイル・ノアの医療区画。

 三基の冷却ポッドは、厳重な隔離状態で搬入された。

 医療班とカナデが待機している。

 カナデはすぐに生命維持装置の状態を確認し、地球側の医療チームともデータを共有した。

 アイナは、医療区画の外で待っていた。

 カイルは隣に立っている。

「無理に見る必要はない」

 カイルが言った。

 アイナは首を横に振った。

「見ます」

 声は震えていた。

 けれど、逃げなかった。

 しばらくして、医療区画の扉が開いた。

 カナデが出てくる。

「意識を戻すには時間がかかります。ただ、一人だけ短時間の覚醒反応があります」

 アイナの肩が震える。

 カイルが静かに頷いた。

「会わせられるか」

「短時間なら。ただし、負荷が大きいので無理はさせません」

 アイナは医療区画へ入った。

 隔離ガラスの向こうに、冷却ポッドから移された少年が横になっていた。

 目は半分だけ開いている。

 意識はまだはっきりしていない。

 だが、唇がわずかに動いた。

「……第七……区画……?」

 アイナは息を呑んだ。

 少年はかすれた声で続ける。

「……北西……避難……」

 それは、アイナが知っている言葉だった。

 昔、地下で何度も聞いた区画名。

 避難放送の中で流れていた地域名。

 アイナは一歩も動けなくなった。

 少年の目は、アイナを見ているのかどうかも分からない。

 それでも、彼は小さく呟いた。

「……まだ……誰か……来た……?」

 アイナの目に、初めて涙が浮かんだ。

 声は出なかった。

 ただ、唇だけが震えた。

 カイルは何も言わなかった。

 ナユも、リンも、黙っていた。

 やがて、アイナが小さく呟いた。

「私だけじゃなかった」

 その言葉は、医療区画に静かに落ちた。

 救われたわけではない。

 失ったものが戻ったわけでもない。

 故郷が元に戻ったわけでもない。

 それでも。

 彼女は一人だけではなかった。


 ルクスの解析室では、医療冷却区画から持ち帰った記録の復元が進められていた。

 ヘスティアは、生存者だけでなく、多くの記録を守り続けていた。

 避難者名簿。

 死亡確認ログ。

 医療処置記録。

 救難信号の送信履歴。

 NB-14、NB-15、NB-16に関する警告ログ。

 帝国軍の撤退記録。

 封鎖命令。

 それらは損傷していたが、完全には消えていなかった。

 イリスは記録データを整理しながら言った。

「ヘスティアから、大容量記録パケットを受信しています」

 レータが確認する。

「内容は?」

「デッドエンド崩壊の経緯。NB-14 テュポーン投入記録。NB-15 エキドナ封鎖失敗記録。NB-16 ヒュドラ感染拡大記録。帝国軍撤退ログ。第七地下残存区画封鎖命令」

 ユイの表情が硬くなる。

「帝国上層部に繋がる記録はありますか」

 イリスは数秒だけ沈黙した。

「あります。発令者情報の一部は破損。ただし、帝国上層部の認証コードと一致する断片を確認」

 アルベルトが低く言った。

「ヴァルディウスにつながるかもしれない」

 その名前に、空気が変わる。

 イリスはさらに続けた。

「もう一つ、重要な記録があります」

 スクリーンに古い警告ログが表示された。

《外部観測記録》

《類似汚染反応、別宙域にて確認》

《アース・ヴェルデ方面》

《初期侵食反応》

《警告:デッドエンド初期汚染パターンと類似》

 レータの目が細くなる。

「アース・ヴェルデ……」

 カイトが顔を上げる。

「ヴェルデって、まだ壊れてない地球なんだよな」

 カイルの通信映像が頷いた。

《少なくとも、最後に見た時はな》

 ジン艦長は画面を見つめた。

「ヘスティアがこの記録を残した理由は」

 イリスが答える。

「推定ですが、警告です」

 ヘスティアの音声ログが再生される。

《記録を保存してください》

《同じ失敗を繰り返さないでください》

《生存者を保護してください》

《感染拡大を防止してください》

《救援を要請します》

 その声は、もう第七地下残存区画の中だけに閉じ込められてはいなかった。

 ルクスの解析室で、静かに響いていた。

 壊れかけた管理AIは、最後まで守ろうとしていた。

 死者の名簿を。

 生存者の命を。

 そして、次に壊れるかもしれない世界への警告を。


 三島は解析室の隅で、報告書を書いていた。

 記録端末には、救出作業中の空白が残っている。

 その空白をどう扱うか、彼女はまだ少し迷っていた。

 監査官としては、すべてを記録するべきだった。

 だが、あの時、彼女は端末を置いた。

 置かなければ、ポッドを支えられなかった。

 彼女は報告欄に、静かに入力した。

《同行監査官補佐としての記録を一時中断し、救助作業を補助》

《当該行動は監査手順から外れる可能性がある》

《ただし、生存者保護のため必要と判断》

 そこで手を止める。

 少し考えた後、さらに一文を加えた。

《この判断については、帰還後、黒瀬監査官の評価を受ける》

 三島は端末を閉じなかった。

 まだ書くべきことがある。

 ルクスは危険だ。

 PT達も、帝国技術も、レクイエム残骸も、監査対象であり続けるべきだ。

 それは変わらない。

 だが、アース・デッドエンドで見たものもまた、事実だった。

 危険な力を恐れて止まるだけでは、救えないものがある。

 危険を知らずに進めば、世界を壊す。

 その間で、判断し続けるしかない。

 三島は、もう一度端末を開いた。


 医療区画の隔離ガラスの前で、アイナはまだ立っていた。

 少年は再び眠りに落ちている。

 ほかの二人も、まだ意識は戻っていない。

 カイルが隣に立つ。

「行ってよかったのかは、まだ分かりません」

 アイナは小さく言った。

「ああ」

「でも、知らないままじゃなくてよかったです」

 カイルは、少しだけ表情を緩めた。

「それで十分だ」

 アイナはガラスの向こうを見た。

 眠る三人。

 助けられなかったたくさんの名前。

 壊れた故郷。

 戻らない空。

 それでも、ゼロではなかった。

 そのことだけが、今は小さな火のように胸の奥に残っていた。


 ルクスの解析室では、ヘスティアから受け取った最後の記録が保存された。

 画面には、古い警告文が表示されている。

《アース・ヴェルデ方面》

《初期侵食反応》

《デッドエンド初期汚染パターンと類似》

《警告》

《同じ失敗を繰り返さないでください》

 ジン艦長は、静かに目を細めた。

「デッドエンドは、壊れた後の地球だった」

 カイルが通信越しに言う。

《ヴェルデは、まだ間に合うかもしれない地球だ》

 カイトは画面を見つめた。

 生存者三名。

 死亡記録多数。

 守り続けた管理AI。

 そして、次の警告。

 助けられたものはある。

 助けられなかったものもある。

 その両方を抱えたまま、次の判断をしなければならない。

 イリスが最後のログを保存する。

「ヘスティア記録、保存完了」

 レータが静かに言う。

「次に進むべき座標が示されました」

 ユイは目を伏せた。

「同じことを繰り返さないために」

 その言葉に、誰も反論しなかった。

 アース・デッドエンドは、終わった世界だった。

 だが、その記録は終わっていなかった。

 壊れた地下施設の奥で、管理AIヘスティアは、最後まで警告を残していた。

 次に示された名は、まだ緑を意味する地球。

 アース・ヴェルデ。

 壊された後ではなく、壊される前の世界だった。


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