085:研究会の様子『六錠梓』『蓮杖満』
霊峰オルトスクへの遠征に向けて、同行するメンバーの選定が進んでいる。
その中で、クラスメートの意識には、少しずつではあるけど変化の波が生じていた。
きっかけとなったのは、本郷と斎藤の二人だ。
霊獣を使役することで大きく成長することになった本郷と、術式の解釈拡大に成功した斎藤。
二人とも、遠征を通して大きく成長することができたため、クラスメートたちの間でも魔法の強化に意欲が燃えてきているのだ。
戦うことに忌避感があっても魔法の強化は全員が目標としているし、中には戦闘訓練に参加するメンバーも出てきている。
(先生は複雑そうだけど……自分で決めたことなら、先生も何も言わないかな)
いつもの研究会、そこで魔法に関する意見交換を行っている中、今日は二人のメンバーが主役となっていた。
霊峰オルトスクへの遠征に同行することを希望している二人――即ち、六錠梓さんと蓮杖満君の二人だった。
六錠さんは封印術という固有魔法を保有しており、相手の能力に対してデバフをかけることができる。
また、要となる触媒があれば魔物などでも封印してしまうことが可能な、直接戦闘能力はないものの強力な術式であった。
また蓮杖君は結界術という固有魔法を保有しており、防御結界によって相手の攻撃を防ぐことに秀でている。
その発生範囲や強度は自由自在で、攻撃性は低いものの応用範囲は広い。
二人とも、優秀な固有魔法使いであることは間違いなかった。
そんな二人だが、何故オルトスクへの同行を希望しているかといえば――
「教会といえば補助魔法の本場ですから! その総本山なんて、絶対に勉強になるに決まってますし!」
「はっ、聞こえのいい言い訳だな六錠。どうせオカルトの調査目的だろう」
「オカルトじゃありませんしー。この世界だったらリアルな事象ですからねー。そういうそっちこそ、私が言った理由とそのまま同じでしょ」
「それの何が悪い。ぼくにとって、魔法の技術向上は確かな目標だ。その参考になりそうな場所に向かうのは当然だろう」
一応、二人とも自分の固有魔法を育てたいという思いは共通しているようだった。
どちらも補助系の固有魔法であり、それを成長させるためのヒントになることは事実だろう。
ただしこの二人、地球にいた頃から妙に反目し合っているのである。
六錠さんは新聞部なのだが、オカルト記事を書くことに情熱を注いでいて、生徒たちからもそれなりに人気を博している。
一方、現実主義の蓮杖君はそういった実証されていないオカルトの類を嫌っていて、結果的に二人の意見は常に対立しているのだ。
「先生、どうします? 向かうメンバーの制限については特に何もなかったと思いますけど」
「そうだね……今回は護衛も付いているし、私としては特に問題ないと思うよ」
護衛――裕也が用意してくれたという、探索者のパーティ。
顔合わせの後で裕也に確認を取ってみたけど、まさか彼女たちが人工的に生成された顕霊だったとは。
予想外も予想外だったけど、つまり今回は顕霊が四体も味方に付いてくれているということだ。
ある程度メンバーが増えたとしても、余裕はできていることだろう。
ただし――
「でも、今回は先生も行くんですよね? こっちのこと、大丈夫ですか?」
「まあ、それについては何とかするよ」
今回、話の主題となっているのは栗原先生と、彼女に宿っている顕霊のミカだ。
物事の当事者というだけあり、栗原先生にもあまり余裕がない状態だったのである。
そんな状態の彼女に生徒たちのことを任せるのは酷だろうということで、箱崎先生も同行することになったのである。
今回の箱崎先生は、ファレンジア王国の役人としての同行だ。そのため、ガーランド宰相の選んだ文官がサポートとして付いて行くことになっていた。
こちらとしても安心できるからいいのだけど、王国に残るメンバーへのサポートが薄くなってしまうことは事実だろう。
そんなことを気にしている一方で――
「あっ、私の術式干渉を防いでますね!?」
「当然だ、いつまでもぼくの結界を弱体化できると思わないことだな」
俺たちが後のことを相談している間、六錠さんと蓮杖君は相変わらず喧嘩を続けていた。
まあ、二人の魔法に攻撃性はほぼないため、魔法の撃ち合いをしていたとしてもただの力比べにしかならないのだけど。
六錠さんが封印によって蓮杖君を弱体化しようとし、蓮杖君は結界によってそれを防ぐ。
そうすると今度は六錠さんの封印によって結界そのものを弱体化し――という魔法の応酬が、訓練の場における二人の日常風景だった。
二人とも試行錯誤することによって成長しているし、ある意味バランスのいい二人なのだが……今回の同行を牽制し合っているのは、相手だけが成長することを危惧しているからだろう。
「ある意味仲いいよね、あの二人」
「まあ……あー……うん、そうだね」
俺の素直な感想に、隣にいた鏡花ちゃんはしばらく言葉を選んだ後、溜息と共に同意だけを返してきた。
どうやら、鏡花ちゃんも流石にこの二人の関係性は微妙なものだと思っているらしい。
まあ、とはいえ互いに切磋琢磨して成長していることも間違いない。
今後も伸びていくことが期待できる二人組だろう。
「ぐぬぬっ……なら、一点集中です……!」
「何!? まさか、僕の結界の機能に絞った封印を……!?」
こちらの反応には気づかず、二人は互いに力比べをするように固有魔法を使い合っている。
地味に術式の解釈拡大をしていそうな気もするのだが――
「ふむ……固有魔法同士の安全な力比べというのも、興味深い光景ですな」
「それでいいんですかね、ロワン先生?」
「あの二人の術式に攻撃性はありませんからな。封印に成功したとしても、解除すれば元通りですから」
ニコニコと二人の様子を見守っているロワン老も、止めるつもりはない様子だった。
まあ、とりあえず同行を断るほどの理由も無いわけだし、内定については後で伝えておくことにしよう。
それから――
「……それで、今回は君も同行するってことでいいのかな、和久井?」
「ああ。ボクもそろそろ、自分の力を試してみたいんだ」
もう一人、同行を希望しているメンバー。それは、研究会でもたびたび話題になっている和久井正義であった。
彼の変身術は、相変わらず女性の姿にしか変身することができないものとなっている。
しかしながら、前回の遠征で持ち帰ってきた情報を精査した結果、彼の能力は一部進化することとなったのだ。
「この『未完の剣聖』があれば、ボクも十分に戦うことができる。天堂君も、それはわかってるだろ?」
「まあ、確かにね」
変身した状態の彼の腕に現れる腕輪――それは、クライヴ・ハルツマンの作り上げた傑作魔道具である、『未完の剣聖』と呼ばれるものだった。
これまでも剣を出現させることはできていたのだけど、その名前と効果を意識しながら発動することで、より正確にその力を発揮できるようになったのだ。
笑みを浮かべながら、和久井は腕輪の能力を発動させる。
その瞬間、少女の姿だった和久井の体は再び光に包まれ――大人ほどにまで成長した、エルフの女性の姿へと変身していた。
恐らくは、それこそがかつての剣聖、エスメラルダの全盛の姿なのだろう。
剣聖の力を手に入れた和久井は、接近戦では頂点とも言える実力をも兼ね備えることになったのだ。
「とはいえ、まだ戦闘にはそれほど慣れてないんだ。あまり無理はしないようにね」
「了解だよ。でも、活躍は期待しておいてほしいね」
不敵に笑う和久井に、一抹の不安を覚えつつも首肯を返す。
これを踏まえて、霊峰オルトスクへ向かうメンバーを改めて考えることとしよう。




