084:AZS
「やほー、ボス。ただいまー」
「お帰り、クロエル。充填かな?」
「そうそう。バッテリーは増設して貰ったけどさぁ、遠征となるとやっぱり不安はあるからねぇ」
僕の問いに対し、だらけた姿勢で魔力充填ステーション前のテーブルに腰掛けていた金髪の女性は、ひらひらと手を振りながらそう答える。
人工顕霊の二号機――顕霊人形としても二番目に作り上げられた、闇属性の顕霊。
クロエルと名付けられたその顕霊は、探索者ギルド内で収集した情報を元に生み出された顕霊だ。
『AZS-03:クロエル』。廉価版の筐体を持ち、初の外部活動用として製造された彼女は、収集元となった情報の通り、探索者の活動に大いなる興味を持っていた。
「どうだい、探索者としての仕事は」
「楽しいよぉ。しっしっし、ボスもやったらどう? エリーちゃんに誘われてるんじゃないの?」
「いやいや、エリちゃんは僕が外に出ようとしないことは知ってるからね」
「相変わらず裏方が好きだねぇ。それにそんな風に惚気ちゃってさぁ。しっしっし」
べったりと机に伸びながら笑うクロエルの様子に、僕も苦笑を返す。
先に生まれたブライトがあの性格だったため、クロエルの性格には随分と驚かされることとなった。
顕霊たちの性格は、どうやら入力された情報に左右されるらしく、生まれてきた彼らは随分と個性豊かな性格だ。
まあ、おかげで退屈するようなことは無かったけれども、中々に癖の強いメンバーが生まれてきているものである。
「ディークたちの様子はどうかな?」
「まあ、予想通りじゃない? 全員癖は強いけど、目的は一致してるからねぇ」
クロエルから始まってフォルトまでの四機、ナンバー03~06の顕霊人形たちは、全員が探索者の情報から生まれてきた者たちだ。
その中でもそれぞれに執着の方向性に違いがあり、ディークは強くなるという行為そのもの、エルセナは探索者活動をする聖職者、フォルトは魔法の実戦的使用に対して興味を持っていた。
そしてクロエルは――
「だからそうそう行き違いにもならないし……その点、あーしはボスに感謝してるよ? 探索者って、ホント楽しいからさ」
「楽しんで活動してくれるなら何よりだよ。けど、仕事は忘れないでね?」
「勿論。ちゃんとブライトには報告してるからさ」
彼女が興味を抱いているのは、探索者という仕事そのもの。
正確に言えば、その活動に身を置くことを何よりも重要視している様子だった。
大量の、探索者としての情報を蓄えることで生まれてきた彼女は、まさに天性の探索者だと言えるだろう。
けれど、顕霊人形としての仕事はそれそのものにあるわけではない。
彼女たちに課せられた任務は、常時であれば主に二つ。
一つは、人間の生活内に溶け込んで、その中で情報を収集すること。
集めた情報はアイとブライトに集約され、今後の活動のための情報源や、顕霊を生み出すためのソースとして使用することになる。
そしてもう一つは、顕霊たちが自身で執着するその概念の中で、影響力を高めていくことだ。
(より高い影響力を持てば持つほど、通常では触れられない情報に接触しやすくなるし、人間社会内での活動の幅も増える――クロエルたちなら、白金ランクの探索者かな)
流石に五色というのは難易度が高すぎる上に、注目度も上がりすぎてしまう。
そこには及ばず、かといって大勢力も無視できないレベルの名声。白金のランクにまで到達すれば、その目標を達することもできるだろう。
無論のこと、探索者としての活動は序の口だ。
これから先、様々な分野で活動する顕霊人形たちを増やしていくことになるだろう。
ありとあらゆる領域で僕に介入可能な範囲を増やし、実権を握っていく。誰にも気づかれることなく、それらを手中に収めていくのだ。
「ボス~? また何か企んでるでしょ?」
「勿論、それが僕だからね」
「しっしっし、否定しないところがウケるわぁ。ま、あーしらは普通に仕事してればいいんだよね?」
「そうだね。君たちのやりたいように積極的に仕事を請けて、ランクを上げてくれればいい。今回の護衛依頼も、探索者としては結構評価の高い仕事だからね」
ギルドは、当然と言えば当然ながら、先生たちが王国に所属している人間であることを把握している。
つまり、ギルド側は今回の仕事を、間接的ながらファレンジア王国からの依頼であると認識しているのだ。
故に、本来であれば高い実力を持つエリーディア――というかエリちゃんに仕事を回したかったことは間違いない。
けれど、エリちゃんは指名を拒否し、ほぼ新人であるクロエルたちを推薦した。
ギルドとしては頭の痛い状況だろうけど、これをうまくこなすことができたなら、ギルドからの評価は大きく上がることだろう。
「護衛って言っても、連れてくメンバーはみんな結構戦えるんでしょ?」
「まあ、ね。晃司は勿論、主役である栗原先生も確定だし……他に随行するメンバーも、大半は戦えるメンバーになる筈だ」
今のところ、晃司たちは遠征するメンバーを選出している状況だ。
どういったメンバーで組むのかどうかはわからないけど、正直護衛としてする仕事は少ないだろう。
勿論、戦闘する際に最初に戦うことになるのはクロエルたちだけど、万が一ということはまず発生しない布陣だ。
「仕事の方は別に心配してないけどねぇ。どっちかって言うと、あーしらの正体が気付かれないかどうかの方じゃない?」
「それは気を付けないといけないのは事実だね。晃司の精霊剣には気づかれていなかっただろう?」
「まあ……注意はバリバリに向けて来てたけど。あーしが闇属性だから仕方ないとはいえ、過保護だよねぇあの剣」
一応、顕霊人形たちには可能な限りの偽装術式を仕掛けてある。
同じ顕霊であるアイが見ても人間としか認識できないようになっているのだから、その効果は確かな筈だ。
恐らく、江崎君の解析術ですら、相当細かくチェックしない限りは突破することは不可能だろう。
晃司の精霊剣や、栗原先生のミカ。同じ顕霊たちであったとしても、クロエルの正体を見破ることは困難なのだ。
とはいえ――
「でも、世界トップクラスの実力者まで騙し切れるかどうかはわからない。接触する機会は無いとは思うけど、『天眼の聖女』には気を付けてね」
「あいあい、りょーかい。ま、あーしらの仕事は送り届けることだし、オルトスクの内部までは……エルセナも強引には入れないっしょ」
少し視線を逸らしながら告げるクロエルの言葉に、僕も思わず乾いた笑みを浮かべてしまう。
エルセナは探索者としてヒーラーに興味を持ってくれたことは良かったのだが、何故かそこに精霊教会の活動まで付随してしまったのだ。
まあ、教会内の内情を探る手段としては実に助かるのだけど、崇められる側が祈りを捧げているというのはどういう状況なのか。
どうもエルセナは、その祈るという行為そのものに対して興味を持っているようなのだが――彼女に関しては方針がなかなか難しかった。
幸い、探索者の活動を重視していることも間違いではないため、精霊教会に入り浸るということもなかったのだけれども。
「……まあ、あの子が無茶しようとしたらあーしらが止めるから、そこは安心してねー」
やれやれと肩を竦めつつ、クロエルはテーブルから起き上がる。
どうやら、魔力の充填は完了した様子だった。
「もう行くかい?」
「そうだね。そろそろあれこれと仕事の準備もしとかないといけないしさー。ま、現地のことはこっちに任してよ」
「勿論、期待してるよ」
僕の言葉に、クロエルはにんまりと笑う。
その言葉の通り、現地のことはクロエルたちに任せつつ――また別方面への対応も、駒を進めていくこととしよう。




