083:探索者への依頼
「探索者への護衛依頼、ですか?」
霊峰オルトスクへの遠征が決まり、準備を始めたちょうどその頃。
俺は先生に呼び出され、思いもよらない形で街へと繰り出していた。
その要件こそが、先程の話。探索者に対する護衛依頼だというのだ。
「そう、都築君から連絡を受けてね。護衛依頼を――それも、指名で出しておいて欲しい、ということだったんだ」
「……そこまでして、戦力を募らなきゃいけないような状況だったんでしょうか?」
「いや、都築君もまだ霊峰オルトスクの状況を把握しているわけじゃないみたいだったからね。念のための備えだ、ということだったけど……」
それにしては、裕也が外部に戦力を募るというのは珍しい――というより、らしくない。
勿論、裕也が信頼している戦力ということなら納得なのだけど、果たしてその人物は何者なのだろうか。
「その指名っていうのは、いったい誰なんですか?」
「『エリーディア・シャッテンドルフ』という人物らしい。天堂君に心当たりは?」
「……確か、ギルドで噂になっているのは聞いたことがあります。新人だけど、かなりの実力者だったと」
比較的最近登録した探索者だが、固有魔法を扱うことができ、登録時に絡んできた先輩を叩きのめしてしまったという人物。
まさか、裕也が自分からその名前を出してくるとは。
「固有魔法使いで、登録してからそれほど時間が経っていない人物。俺は武村さんなんじゃないかと疑ってましたが、噂と人物像が合わなくて……それに」
「それに?」
「仮に武村さんであるとして、裕也がこんな形で俺たちに接触させるかな、と」
先日の件でも、裕也は俺と鏡花ちゃんにすら顔を見せようとはしなかった。
そんな状況で、武村さんを俺たちの護衛として派遣するようなことがあるだろうか。
それについても、裕也らしくない動きだなと思えてしまったのである。
「ただ、こうして直接名前を出してきた以上、その人物が裕也の関係者であることは間違いないでしょう」
「……そうだね。私としても、もし都築君を知っているのであれば状況を尋ねたいところだ。とにかく、その話を受けて先日ギルドに依頼を出してきたんだが、今日はその確認にね」
何はともあれ、裕也が何の企みもなくそんな話をしてきたとは思えない。
果たして、そのエリーディアという人物は武村さんなのか。
そして今日、その人物と接触することができるのか。
そんな期待と共に、俺たちは街の探索者ギルドへと足を運んだ。
俺も探索者として登録しているため、この場所には幾度となく訪れている。
依頼の受注カウンターと、申込カウンター。
仕事を請ける側の俺たちは申込カウンターを使ったことは無かったが、今回はそちらで確認することになるだろう。
そこで書類を整理していた女性に、先生が話しかけた。
「すみません、先日依頼を出させていただいた者なのですが」
「はい、依頼票の控えはありますか?」
「こちらです」
スムーズに依頼の控えを取り出して、受付へと渡す。
それに目を通し、受付の女性は申し訳なさそうな様子で眉根を寄せた。
「ああ、エリーディアさんへの指名の……申し訳ありません」
「何かあったんですか?」
「ご指名されたエリーディアさんなのですが、どうしても外せない用事があるからと指名については拒否されてしまいまして……」
その言葉に、俺と先生は思わず顔を見合わせた。
裕也が指定してきた相手だというのに、指名に応じられないとは。
一体、裕也はどういう流れにするつもりだったのだろうか。
そんな俺たちの疑問に答えるかのように、受付さんの言葉には続きがあった。
「ただ、エリーディアさんから別の探索者の推薦があったんです」
「推薦ですか……それは、いったい誰が?」
「まだ赤銅のランクなのですが、エリーディアさんの紹介で探索者に登録されたパーティです。新人ではありますが、かなり実力は高いですね。赤銅のランクなので、本来は指名を請けられるランクではないのですが……指名者からの推薦ですので、許可があれば例外的に受注可能です」
別の探索者に対する推薦、それによる例外的な処置。
裕也が狙っていたのはこれなのだろうか。であれば、そのパーティというのは何者なのか。
わからないけれど――まずは、確かめてみるべきだろう。
「先生、まずは会ってみた方がいいんじゃ?」
「そうだね。すみません、そのパーティの方と話をすることはできますか?」
「はい、今日は顔を出していますので……ああ、あちらのテーブルに座っている四人組です」
そう言って、受付さんが示した先。
酒場兼待機所となっているその場所に、確かに四人組の姿を確認することができた。
受付の人には礼を言いつつ、彼らの方へと向かっていく。
どうやら――彼らは既に、俺たちのことを認識していたようだ。
「はぁーい、エリーちゃんへの指名依頼の人たちだよねぇ。座って座って」
四人組の中で代表して声をかけてきたのは、テーブルに頬杖を突いた金髪の女性だった。
被っているキャスケット帽が印象的で、アメジストのような紫色の瞳を楽しそうに細めながら俺たちに席を勧めてくる。
特に拒否するような理由もなく、俺と先生は勧められるままに彼らのテーブルに着いた。
「そんじゃ、改めましてー。あーしはC、このパーティの一応リーダーだよ。で、こっちのデカくて無口なのがD」
「む……」
クロエルさんが示したのは、かなり大柄な紺色の髪の男性。
獣の耳が生えている辺り、どうやら狼の獣人であるらしい。
背中に背負った剣はかなり巨大で、力に優れた戦士であることは間違いなさそうだ。
「それから――」
「わたくしはEと申します、ヒーラーを務めております」
「ウチはFっす、どうぞよろしく」
少し身長は高めの、神官服を纏っているエルフの女性がエルセナさん。
そして、かなり小柄な小人族の男性が、フォルトさんということらしい。
クロエルさんが軽戦士か斥候、ディークさんが重戦士、エルセナさんがヒーラーで、フォルトさんが魔法使いか。
パーティバランスは、かなり整っている四人組だろう。
「ええと……エリーディアさんという方から、この依頼について何か伺っているのですか?」
「ええ、ええ! 勿論です。かの霊峰オルトスクへ向かうということですよね!?」
「はいエルセナ、ステイステイ。ごめんねー、この子ってば精霊教会の熱心な信者なんで」
先ほどまで落ち着いた様子だったエルセナさんが、糸目だったその目を大きく見開いてこちらに詰め寄ってくる。
反射的に仰け反ったところで、クロエルさんがそれを制してくれた。
どうやら、霊峰オルトスクへ向かうこと自体は認識しているし、むしろ意欲的であるらしい。
ただ――間接的とはいえ、裕也はどうしてこの人たちを勧めてきたのか。
その疑問がどうしても尽きず、じっとクロエルさんの顔を見つめてしまう。
そんな俺の視線に、彼女はうっすらと笑みを浮かべながら声を上げた。
「うーん……まあ、まどろっこしいやり取りしててもすっきりしないよねー」
「……クロエルさん?」
「んじゃ、手っ取り早く――うちボスからの伝言だよ。『その四人は僕の手勢だから、安心していいよ』、だってさぁ」
彼女の言葉に、俺と先生は大きく目を見開く。
彼女たちは何者なのか、どういった経緯で裕也と関係を結んだのか。
それは、何もかも謎のままだが――
「それじゃ……仕事の話、始めよっか?」
笑みを浮かべる彼女は、間違いなくやり手の探索者の雰囲気を漂わせていたのだった。




