081:精霊教会
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『精霊教会、か……予想通りではあるけど、思っていたよりは動きが早かったかな』
小鳥の姿をしたゴーレム、そこから響いてくる裕也の声。
先生との相談の後、自室に戻った俺は、先程の件について早速裕也に相談していた。
当然と言わんばかりに、裕也は先ほどの話を把握していたけれど――その声音は、あまり芳しいものではなかった。
「何か、難しいことでもあるのか?」
『単純に、精霊教会の内情というだけの話なら、それほど難しくはないよ。街にある教会程度なら、僕も既に調査はしてある……まあ、ちょっとした事情があってね』
「何かまた企んでるのか……それなら、何がわからないんだ?」
『霊峰オルトスク。それに関しての情報は、残念だけど断片的にしかないんだ』
裕也の声の中には、隠しきれない猜疑心のような物が存在していた。
それほどまでに、霊峰オルトスクに関しての情報は少ないんだろう。
『そもそもね、晃司。精霊教会っていう組織自体がおかしいと思わないかい?』
「まあ……活動内容に対して規模が大きすぎるとは思うよ」
精霊教会は、街で治療や信者同士の互助を行っているが、それ以上のことはあまり大きな動きはない。
だがそうでありながら、国に対して大きな発言力や影響力を持ち、様々な古代の遺産を保有している。
それだけの影響力を維持するためには相応の資金が必要な筈なのに、それほど大きなお金の流れが見えてこない。
外から見た姿が綺麗すぎる――それに対する違和感は、俺も確かに感じていた。
『精霊教会は古くから存在する組織だ。クライヴの時代には存在していたようだし……可能な限り資料を調べてみたけど、恐らく発足はもっと古い』
「千年以上昔から……影響力の広さは納得だけど、それを今まで維持できていることが驚きだね」
『僕の見立てでは、千三百年前――『灼血の悪魔』と呼ばれた大災害の直後に発足したんじゃないかと考えてる』
「……ちらっと名前は見たけど、それは結局どんな存在なんだ?」
裕也が提供してくれたクライヴの手記の中にも、その名前は一応登場していた。
けれど、流石に時代が古すぎて、その名前ぐらいしか知らないのだ。
裕也が大災害と呼ぶほどの存在は、果たしてどんな来歴を持っているのか。
『さて、クライヴにとっても『灼血の悪魔』は三百年前の存在だった。大陸の大半を焼いたことと、それがとある勇者たちによって討たれたということぐらいしか、僕にも情報は無いよ。ただ……その直後は、大陸中が大きく混乱していたことは間違いない。精霊教会が生まれ、影響力を広げるのには最適なタイミングの筈だ』
「だから、その辺りで生まれたんじゃないかと推測しているわけか」
勿論、それは確かめようもない話だ。
それに現状、その成り立ちを考えたところであまり意味はないだろう。
とにかく、精霊教会が――というより、霊峰オルトスクが何を考えているのかを把握するべきだ。
「影響力を伸ばせた要因はともかくとして……それを維持できている理由が、霊峰オルトスクにはあると考えているんだな?」
『僕はそう考えてる。ただし……顕霊を呼び出そうとする理由までは、正直謎のままだ。もし、その体制を維持するための何かに利用しようとしているなら問題だけど、純粋に話ができる顕霊と接触したいと考えている可能性も否めない』
「つまり、現状では何とも言えない?」
『そう、そして……現地でもない限り、霊峰オルトスクに関する情報を得ることは難しい』
裕也にとっては、その最後の部分が最大の問題なのだろう。
情報収集を行う方法は数あれど、そもそも情報がない場所からでは何も得られる筈がない。
霊峰オルトスクに関する情報を得ようとするなら、実際に現地に行ってみないことには始まらないのだ。
『まあ、可能な限り調べてはおくけど……結構、時間はかかると思っておいて欲しい。ある程度情報が集まるのは晃司たちが移動している最中になると思うよ』
「わかった。こっちもこっちで、何が起こってもいいように準備はしておく」
『頼んだよ。相手はかの『天眼の聖女』の御座だ。何があったとしても不思議じゃない』
裕也の口にした、『天眼の聖女』の名――精霊教会のトップとされる、その存在。
謎に包まれたその人物が、今回栗原先生を、ミカを呼んだ要因なのだろうか。
或いは、ローデリヒ大司教が個人の判断で行ったことなのだろうか。
その判断も不可能だが、『天眼の聖女』は不思議な力を持っているとされている。
恐らくは固有魔法だろうけど、その力は未知数だ。
『こっちはこっちで、ちょっとやることが多くてね……依頼には応じる流れだろうけど、一応ギリギリまで引き延ばしてもらえると助かるよ』
「了解、先生と共有しておく。まあ、こっちも仕事から戻って来たばかりだし、そんなにすぐ動けないとは言えるだろうから」
『精霊教会からの依頼とはいえ、流石にそれぐらいの融通は利くだろうからね』
この声の感じからして、今の裕也は確かにかなり忙しい様子だ。
精霊教会の話は今持ち込んだばかりだし、それ以前から何かを仕込んでいたのだろう。
果たして、今度は何をしようとしているのか――それが、少しだけ楽しみだった。
『晃司たちが出発するまでには、こちらも準備を終わらせておくから……楽しみにしておいて』
明らかに、何かを企んでいるであろう、その言葉。
そんな裕也の声音に、俺は思わず笑みをこぼしてしまっていた。
* * * * *
「全く……慌ただしいもんだね」
顕霊ミカに対する精霊教会の反応はある程度予想できていたとはいえ、思っていたよりも行動に移るのが早かったと言える。
ミカが顕霊として意識を宿してからの時間を考えると、恐らく最速のタイミングだ。
その急ぎっぷりそのものが、僕に多くの疑念を与えているのである。
果たして、ただ話が聞きたいとかそんな程度の理由で、そこまで急ぎながら呼び出す必要があるのだろうか、と。
「……まあ、普通に考えて、何かしら思惑はあるんだろうけどね」
問題は、その思惑を抱いているのが誰なのかという点だ。
精霊教会のトップである『天眼の聖女』か、或いはその下である大司教ローデリヒ氏か。
それら個々人による判断であればまだマシな方。もし、霊峰オルトスクの総意として呼び出そうとしているのであれば……残念ながら、非常に厄介なことになると断言できるだろう。
「ねえねえユウ君」
「どうかした、エリちゃん?」
「前から精霊教会のことは気にしてたけど、何でその本拠地を調べなかったの? 王女様の後ろ盾だから、気にしてたでしょ?」
何というか、随分と僕の性格を把握して来たらしいエリちゃんの言葉に、僕は思わず苦笑を零してしまっていた。
確かに、僕は精霊教会がティエーリア王女の後ろ盾であると知った時点で、彼らのことを警戒していた。
だからこそ、街にある教会レベルであれば可能な限り調べ上げたし、霊峰オルトスクの存在についても把握していた。
確かにエリちゃんの言う通り、やろうと思えば霊峰オルトスクに調査の手を伸ばすこともできただろう。
けれど――
「大賢者エステラの件があったからね。僕は、『天眼の聖女』を警戒してたんだ」
「そういえば……教会のトップなのに、教皇じゃなくて聖女なんだ?」
「そう、『天眼の聖女』はハイエルフだと言われていてね、古い時代からずっと精霊教会という組織のトップに君臨してきた。その実力は、決して甘く見られるものじゃない」
生憎と、『天眼の聖女』の力は謎に包まれている。
能力を把握できていない人物を相手に、甘い対策で手を出すことは避けるべき――そう考えていた。
「エステラにゴーレム一体を奪われた件もあって、調査を進めるのは後回しにしてたんだ……けど、生憎とそうも言ってられない状況になったからね」
「じゃあ、これから調査するんだ?」
「幸い、あの頃に比べればゴーレムたちの完成度もかなり上がってる。感知対策もかなり盛り込んであるから、今なら調査にも乗り出せるさ」
とはいえ、大賢者エステラと同じ、古代からの実力者。
その能力は、絶対に甘く見ることはできないだろう。
最大限警戒して調査を行い――現地で手を回すための手段も、並行して用意するとしよう。




