076:顕霊人形
リシーが人工顕霊生成器の観察と調整に専念している中、僕は早速アイの体の作成へと取り掛かった。
とはいえ、行う内容自体は顕霊の生成と比べれば圧倒的に簡単だ。
何しろ、こちらの作成手順は殆どクライヴが確立していたのだから。
特に手足などについては、標準化されているためそれほど手出しするような内容もない。
精々、元とする素材を、僕の知りうる限り最高のものを用いて作るという程度だ。
まあ、その度にアイが不満げな様子で苦言を呈していたけれども――
「ここまで来たら、ほとんど出来上がっているようなもんだけどね」
作業台の上に乗っている、自動人形の体。
外見上は通常の人形と差は存在しないけど、中に用いられている素材は間違いなく最上級の代物だ。
正直、惜しいと言えば惜しいことは事実。当時のクライヴでも、ここまでの性能の人形を作ったことは無かっただろう。
というか、顕霊が中に入って動かすという発想自体が無かっただろうから、そんな前提での性能など作るはずもないのだけど。
(……そう、ネックとなるのは何よりもその部分だ)
自動人形の制御は、内部に搭載された人工精霊によって行われている。
正確に言えば、アイと同じ情報ストレージ術式を用いた学習情報による制御だ。
立つ、歩く、バランスを保つなどの基本的な動作は骨格に刻まれた術式で実現しているけれども、それ以上の高度な動きについては一度学習する必要がある。
つまり、動きを教えられることでその動作の組み合わせを情報ストレージに蓄積し、それを呼び出すことで動きを再現しているのだ。
まさに、現代のAIに近しい発想なのだけど――それを千年も昔の人間が考案していたというのは驚愕すべき事実だろう。
僕はその前提知識があるからこそ理解できるけど、当時の人間には全く理解できなかったのではないだろうか。
(悔しいけど、本物の天才だよ)
胸中でそう呟きながら、僕は自動人形の体に改良を加えていく。
目指すべきは、顕霊の思考によって人形の体が動作するという性質だ。
イメージとしては、コントローラーでゲームのキャラクターを操作する感覚が近いだろう。
つまり、顕霊自身は肉体細部の操作を意識することなく、インプットした動きを再現可能であることが望ましい。
「そのためにも、情報ストレージの術式は変わらず必要……つまり、この光の人工精霊がコントローラーってことになる」
あらかじめ準備してあるのは、光属性の人工精霊。
アイと同じように情報ストレージの術式を刻んであるこれには、クライヴが研究してきた人形の動作に関する情報をインプットしてある。
顕霊がこれにアクセスすることによって、人形の体を動かすことができる筈だ。
これは所謂、セミオートでの操作となる。同時に、マニュアルで操作可能な操作基板も追加しておくべきだろう。
顕霊が自分なりに体を動かし、それをストレージに記録しておけば、後から動きを再現することもできる。
(ある意味、これこそが顕霊人形の頭脳――頭部への配置は、変える必要は無い)
自動人形の頭部は、センサー類に属する機能が多く収められている部位だ。
視覚、聴覚情報はここから取得し、ストレージに溜め込むようになっている。
この構造については変える必要は無いが、必要なのは顕霊の入った封入器をこのストレージと接続することだろう。
一応、マナ同士の干渉は遮断するように仕切りを設けておけば、闇属性でも問題なくアクセス可能な筈だ。
「それから、心臓部は……」
『……マスター』
「説明しただろう、アイ? これ以上の抗議は受け付けないよ」
倉庫に保管してあった素材――疑似竜心炉。
これを使うことについて、アイは未だに納得していない様子だったけど、これはもう決定事項だ。
見た目は、野球ボール程度の大きさをした銀色の球体。
触れていると感覚でわかるけど、これは常に少しずつ魔力を放出している。
けれど、それは溜め込まれた魔力を発散しているのではなく、この球体自身が周囲のマナに反応して魔力を生み出しているのだ。
人間が呼吸によってマナを吸収して魔力を生成しているのと、仕組みこそ異なるが結果は同じ。
これを顕霊と接続することで、顕霊が自らの意思で疑似竜心炉の魔力を扱えるようになるはずだ。
『しかし、その場合他の顕霊人形にはどのようにするおつもりですか?』
「バッテリー……魔力の貯蔵庫を搭載するよ。で、ラボに魔力の補給ステーションを作っておいて、戻ってきたら補給できるようにする」
魔力を溜め込んでおける素材というものは、意外とありふれている。
それに術式を刻んで魔力の貯蔵、引き出しをできるようにしておけば、疑似竜心炉の代替として扱うことは可能だ。
疑似竜心炉の製造ができるようになるまでは、その方法で対処するつもりである。
しばらくの間は不便を強いてしまうことになるだろうけど、こればかりは致し方のない話だ。
「補給ステーション用にも疑似竜心炉は必要だけど……まあ、必要経費だね。二個ぐらいなら許容範囲だ」
『人間が直接補給することも可能な筈ですが』
「なるべく人の手を介さないようにするべきだろう? 自動化っていうのはそういうものだよ」
とはいえ、廉価版の顕霊人形を製造するのはもう少し後の話だ。
今は、このアイの体を作ることに集中しなくてはなるまい。
「心臓に疑似竜心炉を……情報ストレージと疑似竜心炉との接続を考えると、顕霊の封入器は胸元の辺りか」
ちなみに、アイが入っている封入器は少し大きいサイズであるため、顕霊人形に搭載することは難しい。
そのため、こちらの体を動かしている際には、別の封入器に入って貰う必要があるだろう。
その間、どうしてもアイは情報収集や施設の管理には当たれなくなる。
今まさに生成している顕霊が上手く生まれて来てくれれば交代で仕事を任せることもできるのだけど、とりあえず念のため、アイと同じ性能の人工精霊はさらに二体生成しておいた。
アイが顕霊人形に入っている間でも、施設の管理が滞るということは無いだろう。
「骨格制御、防御術式……それから、念のための再生機構」
クライヴの自動人形にも搭載されている機能だが、地属性の人工精霊による自己再生能力を追加する。
何故地属性の回復術式を用いるかと言えば、これは無機物に対してもある程度効果を発揮できるからだ。
有機素材を用いている自動人形とはいえ、全てが有機物でできているわけではない。
そんな自動人形の体を回復させるにあたって、最も都合が良いのが地属性だったのだ。
「あとは……実際に動かしてみての調整かな」
『いずれは、全ての顕霊人形をこの性能で統一するおつもりですか?』
「それは目的次第ではあるけど……基本性能はこのラインになるかもね。ここから更に発展することもあるだろうし」
僕が顕霊人形計画を優先的に進めてきた理由は、僕らに代わる外界での影響力を得るためだ。
この大陸のありとあらゆる場所で活動し、情報を集めると共に干渉しやすくする。
僕が実際に動くことなく、大陸の端から端までを情報で繋ぎ、意のままに操るため。
そのためにも、顕霊人形たちにはあらゆる分野への適応が求められる。
それに沿った性能を持たせることは、ある種個体差を生む結果へと繋がるだろう。
「……何はともあれ、全ては顕霊生成実験が成功するかどうか。そろそろ、リシーの状況を確認するとしようか」
下手をしたら、実験が始まってから一睡もしてないんじゃないかという彼女の状況を、そろそろ見に行くこととしよう。




