070:遠回りな目的到達
「ユウ、こっちの準備は整ってるけど……昨日から、随分と気になってる様子ね、それ」
「ああ、ごめんリシー。ちょっとね」
逃げ出した魔族に対処してから一夜明け、僕はクライヴの用意していた魔族の封印具について調べていた。
とはいえ、今は人工顕霊生成器のプロトタイプ製作の真っ最中。あまり、他のことに時間を割いている場合ではないのだけど――どうしても、それが気になってしまっていたのだ。
「で、何が気になってるの?」
「あれ、聞いてくれるんだ」
「疑問が解消されないと、人工顕霊生成器に集中できないでしょ?」
「ごもっとも。まあ正直……どうしたところで、すぐに解決できる問題ってわけじゃないんだけどね」
ことん、と封印具を机の上に置く。
元々、クライヴが魔族に対抗するために作成していた道具。
とはいえ、数に限りはあるため、僕も同じものを作れるように構造を調べていたのだけど――その理論に、気になる点があった。
事実として、この道具は魔族を封印することができている。なら、その理論は間違いなく正しいものだったのだろう。
けれど――
「この道具はね、リシー。マナで構築された霊体を封印するための物だ」
「……はい? それって――」
「そう。精霊や、顕霊を封印できる道具ってことだね」
強大なマナによって構築されている存在を取り込み、その帯びているマナを利用して強固に封印する術式。
そのため、物質的な存在を取り込むことはできず、あくまでもマナによる構造体だけが標的となっている。
それはつまり、逆に言えば――
「魔族は、精霊の一種だっていうこと?」
「実際に封印できた以上、そういうことなんだろうね。ただ、そうだとすると……魔族は何らかの方法でマナを物質化させている顕霊、ということになる」
もし、そんなことが技術的に再現可能であるならば、顕霊人形計画も無用の長物となってしまうのだけど――生憎と、魔族が何故肉体を形成できているのかは謎のままだ。
果たして、彼らはどのような手段で肉体を形作っているのか。
しかし、あの魔族を解放して調べ上げるというのはリスクが高すぎる。
そもそも、尋常な手段でそれを再現できるとは思えないし――いったん、それについては考えないでいた方がいいだろう。
「……リシーはどう思う? 魔族の正体について、何か聞いたことは無い?」
「いいえ、あたしが知ってるのは一般的な情報だけね。西の方に住んでると、あまり魔族の存在も身近じゃなかったから……正直、見当もつかないわ」
「そっか。まあ、仕方ないかな」
謎は多いものの、現状でそれを検証する手段はない。
流石に、あの魔族を解放して調べるのもリスクが高いし――とりあえず、魔族の正体については頭の片隅に置いておくこととしよう。
それよりも今は、人工顕霊生成器の仮説証明を優先するべきだ。
「エリちゃん、そっちは大丈夫そう?」
「うーん……何とかー」
今回は製作にエリちゃんも参加しているが、彼女の方も中々苦戦している様子だ。
クライヴが残している魔法理論の中から、闇属性の関係のありそうなものをピックアップして渡しているのだけど、まず理解するのに結構苦労しているらしい。
エリちゃんは結構感覚派なところがあるから、理論立てて考えていくことはそこまで得意ではないのだろう。
尤も、今回の件を実現するためには、頑張って貰わなければならないのだけど。
(こっちはこっちで、苦労する羽目にはなるんだけどね……)
僕が苦労しているのは、リシーから渡された響霊術の術式理論だ。
こちらも固有魔法使いだからこそわかるが、このあまりにも複雑な術式は、固有魔法にとっては基礎の基礎なのである。
それほどまでに、汎魔法と固有魔法には術式難易度の差が存在するのだ。
固有魔法の使い手は、ただ直感的にその扱い方を理解することができる。
だからこそ、その術式が通常ではありえないほど複雑なものであると、把握することが難しいのだ。
リシー自身、理論立てて術式を書き写すにあたり、その複雑さに驚愕していた。
「これを、機甲術の術式構築で再現しなくちゃいけないわけか……」
「できそうかしら?」
「感触的には、不可能じゃない。素材の性質も利用しないといけないけどね」
まず現時点で、僕はリシーの術式を複数の機能部に分解している。
ここから、それぞれの機能を機甲術や汎魔法の術式で再現しながら接続すれば、術式全体の再現ができる筈だ。
流石に、困難であることは否めないが――ある程度、目途は立ってきている状況だ。
「よし、それじゃあ――」
『お取込み中申し訳ありません、マスター。目標が、こちらに接近してきています』
「っと……そうか、もう到着なんだね」
早速作業に取り掛かろうとした、ちょうどその時――僕らを制止するように、アイの声が響き渡った。
とはいえ、その言葉は決して予想外のものではない。
むしろこの数日の間、ずっと待ち続けていたものであった。
「アイ、配置は完了しているよね?」
『肯定します。指示通り、痕跡は残さず物品の配置は完了しております』
「よろしい。それじゃあ、しばらくは様子見をするとしようか」
さて、しばらくの間は宝探しの仕掛け人だ。
彼らの様子を見物しつつ、作業を進めることとしよう。
* * * * *
「今更だけどさ、ウルスラ王女ってどうやってこんな場所の情報を見つけたんだろうね?」
「目的地に到着しかかったタイミングで言うの、本当に今更だよな」
西村さんの素朴な疑問に対し、剛志は呆れを交えた表情でそう返す。
対する西村さんの方は、唇を尖らせながら不満げな声を上げた。
「だってさぁ、古文書漁ったぐらいで見つかるなら、もっと昔に見つかっててもおかしくなくない?」
「そうだね……まあ、ウルスラ王女はもっと昔から知っていたのかもしれないね。ただ、手出しができなかっただけで」
「はぁ、なるほど。他の国だからってことね!」
俺の言葉はこじつけだけど、西村さんはどうやら納得してくれたようだ。
実際のところは、裕也が情報を流したんだろう。ウルスラ王女はそれを受けて、俺たちに依頼を回してきたはずだ。
今の今まで、この場所が明らかになっていなかった理由は謎だけど――ウルスラ王女がそれを知っていた理由については、疑問の余地など無い。
「とにかく、あまり本郷たちを待たせすぎるのも申し訳ないし、さっさと見つけて行こう」
「だな。あっちも、待ってるだけは暇だろうさ」
クライヴ・ハルツマンの遺跡――現在、そこへと向かっているメンバーの中に、本郷と斎藤の姿はない。
言うまでもないが、馬車の護衛のため、メンバーを分割したのだ。
比較的獰猛ではないとはいえ、魔物の生息する地域。
そんな場所で、見張りもなく馬車を放置するわけにもいかなかった。
本郷も、現在では霊獣を従えたことによってある程度戦えるようになっているし、斎藤も残っているから戦力的には問題ないだろう。
本当なら栗原先生も残りたかったようだけど、山に入る以上は空を飛べる先生の能力は安全のためにも必要だ。
馬車に残してきた二人が心配な様子だったけど、申し訳ないがこちらに付いて来てもらった。
「さてと……先生、どうですか?」
「うん、あっちの方に白いものと穴が見えたから、方向は合ってるみたいですよ」
光の翼を広げながら舞い降りてきた先生は、どうやら目標地点を発見してくれたようだ。
俺たちだけで山に入っていたら、流石にこうは行かなかっただろう。
というか、最悪の場合は遭難していた可能性もあるし、付いて来てくれて本当に助かった。
「よし、それじゃあ……色々と遠回りになったけど、今回の仕事を始めるとしようか」
さて、果たしてどんなサプライズが待っているのか。
遠くまで来たものの、色々と楽しみになってきている自分がいることは、俺も否定はできなかった。




