051:現地探索
それなりに長い距離とはいえ、バイクを使って移動していればそうそう時間がかかるものではない。
そう考えると、現代の利器がどれだけ優れているかがわかるというものだ。
馬車を使えば数日はかかっていたであろう距離も、ランドウルフならば数時間も走っていれば踏破できるものであった。
そうしてやって来たのは、ウォラーン連邦の北方にある山脈付近。
元より、あまり調査の入っていないエリアであるため、道も続いているわけではない場所だった。
「さてと……この辺りからはバイクは無理かな」
「もうちょっと行けそうじゃない?」
「あまりタイヤの痕跡を残すわけにもいかないからね。ここから先は、足跡は残さずに行くよ」
「となると……これ?」
エリちゃんはランドウルフを影の中に収納した後、入れ替えるように新たな魔道具を出現させる。
それは端的に言えば、タイヤのついていないキックボードのような物体であった。
これもまた僕の作成した魔道具の一つ、『SSV-004:ハミングバード』だ。
構造としては単純で、地属性の重力操作と風属性の気流操作を用い、宙に浮きながら移動することができる。
別に高く飛べるわけではないので、地上付近で浮きながら移動できるだけなのだけど、地形による影響を受けることなく移動することができる。
ちなみに簡単な造りのため、僕とエリちゃんの二つ分を作成済みだ。
「ありがとう。後はゴーレムを放って、座標を確かめながら進もうか」
「はいはーい、この子たちだね」
次いで、エリちゃんは影の中から鳥型のゴーレムたちを取り出していく。
ラボの座標自体はわかっているのだけれど、流石に千年前の情報だ。
地形も相応に変わっているだろうから、当時の情報はそこまで当てにできるものではない。
まずは、座標近くまで移動することが重要だろう。
「それじゃ、移動再開だ」
「にひひ、この乗り物面白いよねぇ」
空を飛ぶ魔道具の練習として作ったハミングバードだけど、エリちゃんはそれなりに気に入っている様子だった。
実験室でも乗り回して遊んでいたため、その制御も熟練の域である。
ふわりと地表から五十センチほど浮き上がった僕たちは、速度を抑えながら山へと向けて出発した。
「それで、ここのラボって地面に埋まってるんだよね? どうやって中に入るの?」
「地上部分にも建造物があって、そこから地下へと続くシャフトがあるような構造になってるよ。まあ、地上部分といってもその時点でシェルターみたいな構造だけど」
正直、千年もの時間が経っていると、その地上部分すら地面に埋まってしまっている気がする。
流石に全く侵入できないということは無いだろうけど、まずはその地上部分を探す必要があるだろう。
木々の間をすいすいと移動しながら、僕は上空のゴーレムたちと位置情報を共有しながら目的地へと進んでいく。
幸いなことに、周囲に魔物の姿はそれほど見かけられない。確認しながら進めば、戦闘は十分に回避できるだろう。
(懸念があるとすれば……例の魔族とラヴィニアさん当人か)
あの話を聞いてから周囲には監視用のゴーレムを放ってはいたものの、その魔族の姿は確認できなかった。
本気で捜索するのであれば、もっと準備をして調査する必要があるだろう。
そして更なる懸念は、それをラヴィニアさんが追っているという点だろう。
彼女の実力については、僕らと比較して大きく隔絶されている。
正直、彼女に捕捉されないように気を付けながら調査するとなると、それだけで大きな負担であった。
彼女の二つ名である【白光】は、その閃光の如きスピードを表現したものであるとされている。
まあ流石に光速で移動しているということは無い……とは思うのだけど、少なくとも知覚できないようなスピードで移動できることは間違いない。
広範囲を警戒していたとしても、その範囲外からいきなり懐にまで接近できると思われる。
彼女の能力を全く把握できていない内は、大きく動くことは難しいだろう。
と――
「うえぇ……」
「ん? エリちゃん、どうしたの?」
唐突に顔を顰めたエリちゃんが、周囲を見渡して呻き声を上げる。
一体何があったのか――その問いに対し、エリちゃんは眉根を寄せたまま返答した。
「この辺り、虫の魔物多すぎじゃない? しかも芋虫ばっかり……」
「ああ、テンションワーム。それが生息してるから、クライヴもこの辺りを拠点にしたんだよ」
「え? ってことはもしかして、この魔物の素材を使うの? エリ、あれを影の中に入れたくないんだけど……」
エリちゃんが嫌そうな顔をしているテンションワームだが、白っぽい芋虫の姿をした魔物である。
これの肉を加工した素材が、自動人形の人工筋肉として非常に有用な素材なのだ。
人間の筋肉のような収縮を再現できるだけでなく、魔力を通しやすく強化もしやすい。
更には劣化もしづらいという、実に理想的な素材だったのだ。
だからこそ、クライヴはそれを確保しやすい場所にラボを構えたのである。
「そこは心配しなくても大丈夫だよ。クライヴはその辺、自動化してるから」
「あー……ってことは、養殖とかしてるのかな?」
「そうだね。育成から素材回収まで一連の作業を自動的にできるようにしてる」
流石に、いちいち野生の魔物を狩りに行くのも効率が悪い。
だからこそ、クライヴは当然のように、その辺りの作業を自動的に行えるようにしていた。
今では、その素材も大量に溜まっていることだろう――というか、溜まりすぎて不要分は廃棄している筈だ。
「とにかく、野生のワームについては特に気にする必要は無いよ。元々、あまり襲ってくるタイプの魔物でもないしね」
「おっけー、良かったぁ」
心底安堵した様子のエリちゃんには苦笑しつつ、そのまま山の中を進んでゆく。
そのまま三十分ほど進んだ頃だろう――僕たちは、ようやく目的地の座標付近に到達したのだった。
「この辺りかな……アイ、検知できる?」
『肯定します。地表拠点の反応を確認できました』
「地道に探さずに済んだのは幸いだ。案内をお願い」
『承知いたしました』
アイが直接操作するゴーレムの先導に従い、僕たちはクライヴの拠点へと向けて移動する。
やがて見えてきたのは、地面に埋まっている白いドーム状の物体であった。
ほとんどが埋まっている状態であるため、その天井付近が少しだけ露出しているだけという、一見しただけでは何だかわからないような状態だ。
元より人気のない山奥で、これだけが見えているような状態では発見されないのも無理はないだろう。
さて、それはいいとして――
「どうやって入ろうかな、これは」
「入り口、土の中に埋まっちゃってるよね?」
天井付近しか見えていないということは、当然通常の出入り口は土の下に埋まっている。
地上部分は地下シャフトを隠すためのカムフラージュであるため重要ではないのだが、中に入れないことには先に進まない。
流石のクライヴも、ここまで埋まることは想定していなかっただろう。
「エリちゃんは内部への転移はできる?」
「えーっと……無理っぽい、遮断されてる感じ」
「まあクライヴだし、流石にその辺りは対策してるか。仕方ない、ちょっと調べてみよう」
ハミングバードを操って、露出している屋根の上へと接近する。
ここで足跡を残すと、後でやって来た晃司たちに気付かれかねない。
いや、晃司に気付かれる分には別にいいのだけど、鏡花ちゃんに気付かれるのは怖いので避けたいところだ。
何とか直接降りないようには注意しつつ、僕は右手を屋根へと近づけた。
ラボではないとはいえ、これもまたクライヴの施設。であれば、この右手に埋め込まれたマスターキーの効果は有効だろう。
「……ふうん?」
「ユウ君、何かわかった?」
「いや、大して使ってなかった地上部分を凝った造りにしてるもんだなって……見てて」
半ば呆れを交えつつ、僕はこのドーム部分の機能を起動する。
その瞬間、周囲は僅かに鳴動し――ドームの天井は、六つに分かれながら引っ込むように格納されていった。
「これ、開閉式ドームだったんだよ」
「へぇ……あ、下は中庭みたいになってるよ」
「この辺りはクライヴの趣味じゃなさそうな感じだなぁ……まあ、入れはしたからそれでいいか」
何はともあれ、中に入れるようになったことには変わりない。
このままさっさと、しかし痕跡は残さないようにしつつ、ラボへと向かうこととしよう。




