045:出発へ向けて
「というわけで……申し訳ないんだけど、遠征をすることになった」
ウルスラ王女からの依頼があった後、俺と先生はクラスメートを集めて話をすることとなった。
先生は『前向きに考える』とは伝えていたけど、実際のところは確定事項だと言っていいだろう。
俺たちはどちらにせよ、ファレンジア王国からの依頼を請けなければならないのだ。
それが、今回は遠征での遺跡探索だった、というだけの話なのである。
「まあ、そうは言っても全員で行くわけじゃない。俺は確定だけど、精々が五、六人程度だと思っておけばいいさ」
「私も引率で同行するけど……そうだね、人数が多すぎても問題がある。そのぐらいが妥当なところだろう」
どの程度の人数で行くのかは、あらかじめ先生と話してある。
やっぱり、あまり多すぎても先生の目が届かなくなってしまうだろうから、その程度の人数がちょうどいいのだ。
さて、そうなった場合、誰が行くことになるのか――そんな中で真っ先に手を挙げたのは、案の定、委員長の飯島さんだった。
「先生、その遠征を断るというわけにはいかないのですか?」
「そうだね。これは比較的安全な仕事なんだ。断るということは不可能ではないけど、その場合すぐに次の仕事が割り振られることになる可能性が高い」
「……それが危険な仕事になる可能性もある、ということですか。わかりました」
委員長は、先生の言葉に渋い表情ながらも納得してくれたようだった。
正直、国の依頼で仕事をするということ自体にあまり積極的ではないのだけど、いずれはやらなくてはならないことも事実。
安全な仕事の内にこなしておいた方が楽だと言えるだろう。
「よし! 晃司、オレは一緒に行くぜ」
「私も……先生はいるけど、二人のことは不安だから」
「ありがとう、二人とも。今回もよろしくな」
真っ先に参加を表明してくれたのは、いつも通り剛志と鏡花ちゃんだった。
この二人は付いて来てくれると思っていたし、とりあえずは一安心だ。
これで三人、問題は他のメンバーになるだろう。
「アタシはもちろん一緒に行くよ! 活躍する機会だ!」
「僕も行こう。比較的安全とはいえ、外に出る以上は危険が伴う」
そして、それに次いで参加を表明するのは、西村さんと斎藤だった。
いつも通りの、戦闘訓練の参加メンバー。
彼らであれば戦い方も熟知しているし、危険に直面したとしても問題は無いだろう。
一方で――
「私は……ごめんなさい、行けないわ」
「えー!? 委員長、どうして!?」
「先生まで行ってしまうと、こちらで問題が起きた時に対処に困るでしょ? 栗原先生のサポートも必要でしょうから」
同じ戦闘訓練メンバーの委員長は、不参加を表明した。
理由は単純に、先生が不在になってしまうこと。
教育実習の栗原先生がいるとはいえ、手が足りなくなってしまうことは事実だろう。
クラスのためにも残るというのは、彼女らしい選択だった。
「皆を不安にさせてしまうことは申し訳ない……飯島さん、栗原さんと一緒に皆のことを頼めるかな?」
「はい……精一杯頑張ります、先生」
先生の言葉に、少しだけ不安を滲ませながらも委員長は首を縦に振る。
でも、栗原先生と委員長がいるなら、こっちのことはとりあえず安心だろう。
第二王子派みたいに、俺たちにちょっかいをかけてくる連中は今のところ存在しない。
このタイミングでの遠征なら、残るメンバーに問題は発生しない筈だ。
ただ、一つ問題があるとすれば――今回の依頼の関係上、どうしても同行を頼まなければならないメンバーが存在していた。
「それで、少し言いづらいんだが……江崎、悪いんだけど、君は俺たちと一緒に遠征に付いて来てくれないか?」
「ええっ!? ぼ、僕が!?」
江崎智文――有している固有魔法は解析術。
あの水晶板と同じ固有魔法であり、そのせいもあって少し割を食っているクラスメートなのだが、解析術の持つ汎用性の高さは異常だった。
あの水晶板が見れるのは、あくまでも対象のマナ属性と固有魔法の名前のみ。
対し、本家である江崎の解析術は、視界に収めたあらゆる物の詳細情報を得ることができるのだ。
「今回の遠征の目的は遺跡の探索なんだ。遺跡内の情報を調べるだけじゃなくて、発見した物の詳細情報をその場で知りたいんだ。それができるのは、江崎の解析術だけなんだよ」
「だ、だけど……僕は、天堂君みたいには戦えないし……」
勿論、それは理解している。
江崎の固有魔法は解析能力に特化していて、戦闘能力は皆無だ。
魔法の授業には出ているから汎魔法を使うことはできるけれど、その戦力は最低限と言っていいだろう。
線も細く、武器を持って戦うことも難しい。確かに、戦闘能力という面で言えば、足を引っ張ってしまうことは間違いない筈だ。
けれど――それを差し引いたとしても、彼の能力は喉から手が出るほど欲しかった。
「頼む! 君の力が頼りなんだ、江崎。君にしかできないことなんだよ! 危険が及ぶようであれば、俺が必ず守ってみせるから!」
「っ、天堂君……」
しっかりと正面から目を見て、それから頭を下げる。
無茶なお願いをしていることは承知の上なのだ。彼のことは、しっかりと守らなければなるまい。
そんな正面からのお願いに、江崎は躊躇いがちではあるものの、確かに首を縦に振ってくれた。
「わ、わかった……僕も、付いていくよ。でも、その代わり――」
「ああ、護衛は任せてくれ。君のことは必ず守ってみせる」
「よ、よろしく……」
おずおずと、けれど淡い笑みで頷いてくれた江崎に、こちらも頷いて返す。
こうして無茶を通した以上、こちらもきちんと責任を果たさなくては。
比較的安全な仕事であるとはいえ、危険があることは事実なのだ。
俺も、しっかりと目を光らせておくべきだろう。
「成程……晃×智。そういうのもあるのね」
「アンタいい加減にしといたほうがいいわよ」
何かよくわからない声が聞こえたが、今の声は……六錠さんだっただろうか?
何となく、あまり追及しない方が良いだろうと直感的に考え、今の声に関してはスルーしておくことにする。
ともあれ――
「これで、メンバーは六人……他に、意見のある人はいるかな?」
先生の呼びかけに、クラスメートからの反応は特にない。
まあ、いきなり遠征、しかも少ないとはいえ危険があると言われて、積極的に参加したいメンバーの方が少ないだろう。
人数的にもちょうどいいし、これで確定と見ていい筈だ。
「わかった。それじゃあ、この件については私から先方に伝えておく。詳細が決まったら伝えるから、六人は後日また集まるようにね」
「了解です、先生」
「……遠征、ですか」
俺が先生の言葉に頷いた、その直後。
ぽつりと響いたのは、クラスメートたちの後ろにいた栗原先生の声だった。
暗い表情をしている彼女は、思いのほか声が響いてしまったことに気付き、驚いたように口を押えている。
「栗原さん? ……すまない、君に生徒たちのことを任せてしまうことになるね」
「い、いえ……わたしも、教育実習とはいえ先生役ですから。皆さんのことは、任せてくださいね」
気丈に振る舞う栗原先生ではあるが、それでも若干の不安は声の中に残っているように思えた。
ただ彼女の表情の中にあるのは、自分だけで生徒の面倒を見なければならないという不安よりも、どちらかというと箱崎先生に対する心配のような――
「……栗原先生、箱崎先生のこと、凄く気にしてるもんなぁ」
ぽつりと呟いた、その言葉。
それに対し、何故か鏡花ちゃんが形容しがたい表情でこちらを見ていたのが、とても印象的だった。




