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勇者の親友は暗躍する ~クラス転移の裏側で、機甲の主は世界を統べる~  作者: Allen
精霊/学術都市エルネンシア

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036:リリエーラの研究






 裕也たちと契約を交わしたリリエーラは、早速人工精霊生成器を己の研究室へと持ち帰った。

 エルフであるリリエーラは、研究者としての経歴もそれなりに長い。

 と言っても、彼女の年齢は百を越えておらず、人間の感覚で言えばまだ二十歳程度であるのだが――それでも、長い期間を学院で過ごしてきたが故に、自分自身の研究室を保有できる程度には成果を上げていたのだ。

 その長い経歴を入れてなお、今回の依頼はリリエーラにとって初めての、驚嘆すべき出来事だった。



「ふぅ……まさか、こんなことになるなんて」



 ケースから取り出した生成器を眺め、リリエーラはそう呟く。

 クライヴ・ハルツマンの人工精霊生成器。その存在は、学院に資料の中にも確かに残されていた。

 曰く、異端の技術。精霊という存在を魔道具の動力として利用する、禁忌の発明であると。

 それは、当時の学院内に於いて、クライヴの台頭を恐れた勢力が流布した内容であったが――定着してしまった今では、それは共通認識として変わることなく続いていた。

 尤も、使えるものは使うべきだというリリエーラの持論からすれば、あまりにもナンセンスな考えであったが。



「……間違いない、本物だわ」



 刻まれている高度な術式の数々を見て、リリエーラはそう確信する。

 術式の内容を読み取ることができずとも、その随所にクライヴ・ハルツマンの癖があることは彼女にも把握できた。

 これは間違いなくクライヴの遺産であり――また、伝えられた通り人工精霊生成器である可能性が高い、と。



「人工精霊生成器、そして封入器……稼働している人工精霊付きの魔道具は見たことがあるけど、封入器の材質は確かに同じ物ね」



 机に置いた二つの道具。それを隅々まで観察しつつ、リリエーラは気づいたことを雑多にメモへとまとめていく。

 クライヴ・ハルツマンの魔道具であるため、起動すること自体は可能だと、彼女はそう考えていた。

 だが、これを持ち込んだ二人組は、起動することができなかったとリリエーラに伝えている。

 果たして、その理由は何なのか――そして、自分ならばこれを起動することができるのか。リリエーラは、それを確かめるために調査を続けた。



(もし起動できたなら、封入器を使っても問題ないと許可は貰った……契約の条件はレポートを共有することだし、本当にありがたいわね)



 もし、外部にレポートを提供してしまえば、学院の公式論文としては用いることはできないだろう。

 だが、リリエーラはそれでも構わなかった。

 何故なら、人工精霊について調べ上げることこそが、彼女にとっての目的であったが故に。

 そして――



「これに成功すれば、顕霊の発生についてヒントが得られるかもしれない……!」



 ――その先にある彼女の最終目標へ、一足飛びに近づくことができるかもしれないが故に。

 長いエルフの人生、その全てを用いる覚悟であった研究テーマへと、リリエーラは一気に踏み込むことができるのかもしれないのだ。

 その高揚を、彼女は完全に隠しきることはできなかった。



「さあ、始めましょう。このあたしが、全部解き明かしてみせるわ――見てなさい、クライヴ・ハルツマン!」



 威勢よく告げるその声には、燃え上がるような熱が込められていた。






 * * * * *






「……今、顕霊って言った?」

「うん、言ってたねぇ」



 忍び込ませたゴーレム越しに聞いたリリエーラさんの声に、僕は思わず目頭を押さえて頭上を仰いでいた。

 いや、まさか彼女の本当の研究テーマが顕霊だったとは。

 確かに、精霊を調べること自体が困難であるという実情からして、人工精霊を調べることが顕霊の研究にも繋がることは事実だろうけれども。

 まさかここまで、調べている内容の方向性が似通っているとは思ってもみなかったのだ。



「本当に仕込みとかないよね?」

「にひひっ、疑り深いなぁユウ君ってば!」



 エリちゃんはそう言って笑っているが、流石に疑ってしまうのは勘弁してほしい。

 それぐらい、彼女は僕にとって都合のいい存在だったのだから。

 課題としている内容と同じ研究テーマ、そして実績と才能のある研究者であること。

 あまりにも得難い、貴重な人材だった。



「……アイ、彼女の背後関係は問題なかったんだよね?」

『肯定します。リリエーラ・リオネラ・リーエインはエルネンシア魔法学院内に於いては孤立気味であり、彼女に対して利害関係のある存在は確認できませんでした』



 つまり、他の利害関係からこちらを裏切ってくる可能性も低い、と。

 今のところ、どうして彼女が顕霊について研究を行っているのかまではわからなかったが、何にしても都合のいい人材であることは事実だ。

 その上で、もしも彼女が期待通りの成果を挙げてくれるのであれば――僕は、彼女をこのラボへ招き入れることも視野に入れている。

 それほどまでに、リリエーラさんは優秀な存在だった。



「実際のところ、リシーちゃんは成功すると思う?」

「かなりの確率で、成功はすると思うよ。その後、こちらの要望に応じてくれるかどうかは彼女次第だけど」



 あの性格からして、敵対さえしなければ僕らの存在を無意味に流布するような真似はしないだろう。

 だからこそ、どちらに転ぶにしても、彼女とは良好な関係を築いておきたいところである。

 問題があるとすれば、それは彼女を妨害しかねないような周囲関係だろう。

 最初に出会った時からして、何やら険悪な関係の相手と口論していた。

 ああいった連中に妨害されないかどうかは不安だけど――まあ、リリエーラさんは自室で研究を行っているようだし、とりあえずは問題ないだろう。



「そっかー……あの生成器、あんなゴロゴロ転がってたのに、凄い貴重品なんだね」

「外部に放出されたものはほぼ存在しないだろうからねぇ……」



 クライヴの遺産自体が、かなり貴重な品なのだ。

 そんな中で、人工精霊の生成器は代表的な作品ながらも、その実態はほぼ伝えられていない。

 恐らくだけど、ほぼ全てがこの施設内にあるものだけだろう。

 クライヴの遺産に人工精霊が用いられていることは良く知られているようだけど、その生成の仕組みは一切伝わっていなかった。



(クライヴが学院内から排除されたっていう点もあるだろうけど……クライヴは意図して、この情報を周囲に伝えなかったのか?)



 彼の研究に協力していたのは、友人ただ一人だけ。

 それ以外の誰も、人工精霊の生成プロセスを把握はしていなかった筈だ。

 或いは、大賢者エステラは既に知っていることだったのかもしれないが――ともあれあの生成器は、今は使われていないプロトタイプであろうと、貴重極まりない存在なのだ。



「リリエーラさんは、百年以上かける覚悟があったかもしれない研究を、一気に加速させられたわけだ。しばらくは、研究に没頭してくれると思うよ」

「それを横から眺めてるの、ずるいよねぇ。にひひ!」

「言い訳はできないけど、監視は必要だからねぇ」



 リリエーラさんには悪いけど、しばらくは監視を続けさせて貰うとしよう。

 まあ流石に、映像で監視をするのは研究を行っている時だけにするつもりだけれども。

 それ以外の時は――まあ、アイに見張っておいてもらうこととしよう。



「それじゃあ、しばらくは彼女の成果待ちだ。こっちの研究も進めつつ、見守っていくことにしようか」

「はーい。にひひ、楽しみだね」



 上機嫌に笑うエリちゃんを横目に眺めつつ、僕は研究に没頭するリリエーラさんの研究観察を続けたのだった。






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― 新着の感想 ―
クライヴの遺産は『稼働させることは誰にでも出来る』ってのが定着しているのかな? 理解できるかどうかは別として…… リリエーラさんなら稼働できなかった理由に関しても突き止められたりするのかな? しかし…
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