014:行動開始
「それじゃあ……行くぞ、剛志!」
「ああ! 来な、晃司!」
裕也からの連絡があった、その翌日。
俺は、すっかり恒例となった兵士たちの訓練に参加していた。
これに参加しているクラスメートは、正直なところそこまで多くはない。
大半は魔法の授業と演習だけに参加していて、その後の戦闘訓練まで積極的なメンバーは少ないと言える。
まあ、魔法の授業だけで魔力を使い切って、その後の活動があまりできないメンバーが多いことも原因なのだけど――やはり、戦うことを恐れているメンバーは多かった。
そんな、戦闘訓練に参加している珍しいメンバーの一人が、目の前にいる大倉剛志だった。
「ふッ!」
互いに、魔法の授業で魔力をかなり消費している。
回復に努めてはいるものの、やはり万全な状態とはいかない。だからこそ、訓練として成り立つのだろう。
深く呼吸するよう意識しながら、俺は剛志へと向けて駆ける。
それとほぼ同時に、剛志の体が魔力を帯びたのを察知した。
「いきなりか……!」
剛志の固有魔法は、金剛術と呼ばれるものだ。
身体強化、および強度の上昇が主な効果。
並の攻撃では剛志にダメージを与えることはできないし、何なら武器で殴っても傷一つ付かない。
だからこそ、剛志は恐れることなく前へと進み出てくるのだ。
「うおおおッ!」
「くっ」
大きな身長から振り下ろされてくる拳は、まるでハンマーのよう。
その攻撃を横に回避しながら脇腹へと掌底を叩き込むが、返ってくるのは石の塊でも殴ったような感触だった。
相変わらず、固有魔法を発動している剛志相手には、まともな攻撃は通用しないようだ。
そんな彼の弱点は魔力の消費量と、遠距離攻撃が存在しないこと。
距離を離して魔法で攻めれば容易に勝てるだろうけれど――
(――それじゃあ、互いに訓練にならないからね!)
横から襲い掛かってくる、コンパクトなフック。
通常ならば普通に防げるけど、魔法を使っている晃司の打撃をそのまま防ぐことはできない。
だからこそ、俺は即座に準備していた魔法を発動した。
「〈フォトンシールド〉!」
肩の辺りに発生させたのは、円形の光の盾。
伝承に伝わっていた、聖騎士の使っていた魔法。
それの再現を目指した魔法は、剛志の放った拳を見事に受け止めて見せた。
(サイズ、消費は最低限――)
拳を中途半端な位置で止められ、剛志の体勢は少し崩れている。
そんな剛志の足へ、俺は己の足をかけるようにして払った。
強化していても、体重そのものが変わるわけじゃない。元々剛志の体重は重いが、それでも体勢が泳いでいる状態なら十分だ。
「うおッ!?」
「〈フラッシュ〉」
体勢が崩れた剛志へ、閃光を浴びせかける。
攻撃性はない、ただ光を放つだけの魔法。けど、剛志の視界を塞ぐには十分すぎる光量だ。
俺はその瞬間に、剛志の腹部へと向けて再び掌底を突き出した。
「――〈フォトンスマイト〉!」
打撃の直撃と共に解放される、光の衝撃波。
それによって数メートル吹き飛んだ剛志は、そのままゴロゴロと地面を転がることとなった。
当たった感触は明らかに金剛術を維持した状態だったし、大したダメージにはなっていないだろうけれども。
案の定、剛志は何事も無かったかのように体を起こし、体に付いた土と草を払い落とした。
「いってて……ああクソ、負けた負けた! また強くなってるじゃねぇか!」
「そういう剛志こそ、魔法の維持が上手くなってるじゃないか。魔力は大丈夫?」
「問題ねぇ……と言いたいところだが、結構使っちまったな。クソ、維持できるうちに勝ちたかったんだが……調子いいじゃねえかよ」
剛志の言葉に、笑みを浮かべて返す。
確かに、調子がいいことは否定できない。裕也の無事が知れたことで、メンタル的にも安定したからだ。
とはいえ、そのことは他の皆には伝えていない――鏡花ちゃんを除いて。
(流石に、朝一の挨拶で気付かれるとは思わなかったな)
俺としては、普通に朝の挨拶をしたつもりだったのだけど、それだけで何かあったのだと気づかれてしまった。
とりあえず、裕也と武村さんの無事だけは伝えておいたけど、あれはいつか合流した時に怖そうだ。
自分たちだけで行動していることを、大層ご立腹だったから。
「ここのところ調子悪そうだったけど、復活って感じか?」
「そうだな。ゴメン、心配をかけた」
「はっ、心配なんかしてねぇよ」
憎まれ口を叩くが、厳つい見た目に反して剛志はかなり仲間思いな人物だ。
まあ、それを指摘するとへそを曲げるから口にはしないけれども。
剛志も裕也の本性を知っている側であるため、できれば説明をしておきたいけれど――知っているメンバーは可能な限り減らさないといけないのが今回の作戦だ。
申し訳ないけれど、今しばらくは黙っておくこととしよう。
そんなことを考えていたちょうどその時、離れた場所に控えていた鏡花ちゃんがこっちへと声をかけてきた。
「ほら二人とも! 終わったんなら、傷の手当てをするからこっちに来て!」
「大丈夫だって、今のはどっちも怪我してねぇよ!」
「試合が終わったらチェックの約束でしょ! 早く来る!」
そんな鏡花ちゃんの声に対し、剛志は大仰に肩を竦める。
そんな様子に苦笑しながら、俺は彼を伴って鏡花ちゃんの方へと戻った。
彼女の有する固有魔法は天治術という名前だ。
強力な回復術をメインとする魔法で、貴重なヒーラーとして一目置かれていた。
まあ、戦闘自体にはあまり参加できないので、体力づくりの訓練だけ参加するようにしていたけれども。
「調子良さそうだね、晃司君」
「うん、何とかね。そこそこ、慣れてきたみたいだ」
固有魔法を使うというのは、奇妙な感覚だった。
使えば使うほど馴染んでいくというか、地に足がついていくと言うべきか。
日々、どんどんと力を増していっているようにも感じられる。
この世界の人たちからすれば、それは驚くべきことなんだろうけれども。
(だからこそ……)
第二王子派のことについては、常に注意を払わなくてはならない。
俺たちもそうだが、彼らからすれば鏡花ちゃんも貴重すぎる人材だろう。
そんなことを、認めるわけにはいかない。そのためにも、もっと俺が目立って彼らの注目を集めなければ。
そうすればするほど、裕也や先生も動きやすくなることだろう。
「……無理もないけど、無茶は禁物だからね」
「勿論、わかってるよ、鏡花ちゃん」
「全く、返事だけはいつもいいんだから」
呆れた表情で、けれど口元には笑みを浮かべながら、鏡花ちゃんはそう口にする。
裕也が無事だったこと、公言はしないものの、本当に喜んでくれていたのだ。
勿論、武村さんのことも――まあ、彼女はあまり他のクラスメートと関わってこなかったから、武村さんに対してどうこうコメントすることは無かったけれども。
と――そんなとき、ふと視界の端に映った姿に、俺は小さく息を飲んだ。
「っ……!」
「晃司君? どうしたの?」
「ああ……いや、何でもないよ」
訓練場の端、目立たない場所。
そこで、箱崎先生が一人の騎士と話をしている姿が目に入った。
あれこそが、裕也が見つけ出した、第一王子派の人間ということなのだろう。
(ここからどうなるかは……相手の出方次第、だったか)
疑り深い鏡花ちゃんの視線を躱しながら、考察を続ける。
俺たちがこの先、この世界でどう生きていくのか――そのための戦いを、始めるとしよう。




