012:情報を支配するもの
「ふーん……保護されているとは言ってたけど、中々面倒なことになってるね」
晃司と先生、そして王女と宰相。
彼らの姿を映像と音声で取得して、僕は小さくそう呟いた。
ここは変わらず、クライヴのラボ――その工房の一角で、僕とエリちゃんは地上の映像をリアルタイムで確認していた。
「それにしても凄いね、クモ型ロボ。見た目リアル過ぎてキモかったけど」
「リアルにしないとバレちゃうからね、そこは」
どうやって地上の様子を確認していたのかと問われれば、答えは簡単。
小型のゴーレムを作成して、それを地上に放って情報を収集していたのだ。
見た目については普通にクモであり、近くで見れば違和感はあるかもしれないが、遠目ではとてもわからないだろう。
サイズ的に盛り込めた機能は本当にギリギリで、音と映像を取得するのが精一杯だ。
動作に複雑なアルゴリズムを組み込むことはできず、直接操作であらゆるところに配置するしかなかった。
その分、映像については申し分ない出来のようだ。
「これなら、内部の映像は一旦問題ないかな……アイ、鳥型については三機を残して引き上げさせて」
『承知いたしました』
クモ型のゴーレムを運んだのは、個別に操った鳥型のゴーレムである。
しかし、この鳥型については僕の作品ではなく、大昔にクライヴが作成したものをそのまま利用させて貰った。
生憎と、空を飛ぶ生物を模倣するのは、今の僕にはまだ難しい。
クライヴの遺した設計図を用いれば作成することはできるだろうけど、それは構造を理解して作り上げたものではない。
応用ができないのでは意味がないのだ。そちらについては、今しばらく勉強が必要だろう。
「けど、嫌な感じだね。皆もここで保護できたらいいのに」
「生憎と、ここの居住スペースは二人分の部屋しかないからね……詰めてももう一人、二人が限度だよ」
申し訳なくはあるのだが、流石にこのラボで三十人近くが暮らすのは無理がある。
保護してくれている場所があるなら、そちらの方が好都合だろう。
尤も――向こうにもいろいろと思惑はあるようだけど。
「さて、情報の整理が必要だね」
「お、アレ使うんだ。待ってて!」
僕の言葉に、エリちゃんは部屋の隅へパタパタと駆けていき、そこに置かれていたホワイトボードをこちらに寄せてきた。
言わずもがな、僕が作ったものである。ちゃんと落とせるマーカーも作成済みだ。
まあ、インクに付いては元々存在していたものを使っただけのため、それほど苦労は無かったのだけど。
「さて……地上で皆を保護しているファレンジア王国だけど、情報を収集した限りだと四つの勢力がある。仮称として、第一王子派、第二王子派、第一王女派、そして宰相派としよう」
「他に王族の人はいないの?」
「第二王女がいるようだけど、こちらは勢力としてはほぼ存在しないと言っていい。魔法研究に傾倒しているようで、派閥争いにも全く関与していないみたいだよ」
まあ、引き籠っているようで全く情報が無いのだけれども。
とはいえこの第二王女は、異世界人の案件には全く関わっていない。
現状では無視しても問題ないだろう。
「ふーん……とりあえず今は、その四つの勢力だけ気にすればいいってことね」
言いつつ、エリちゃんはホワイトボードに四つの勢力名を書いて丸で囲む。
どうやら、情報のまとめはやってくれるつもりのようだ。
「まず、先生たちからも信頼を得ている第一王女派。ここは言葉の通り、皆に対して何かを要求しようとはしていない、保護を目的としている」
「えー、ホントに?」
「疑うのも無理はないけどね。どうやら、彼女は精霊教会という勢力との繋がりが強いらしく、異世界人の保護もその教会からの要請のようだ。まあ、態度からして彼女自身も保護には積極的なようだけど」
「つまり、普通にいい人なんだ!」
言いつつ、エリちゃんは第一王女派に情報をまとめていく。
王冠を被った女の子の絵は王女様のつもりなのだろうか。
まあ、それはともかくとして――
「第一王女派は、派閥としての規模はそれほど大きくはない。その大部分は精霊教会に頼っている状態だ。つまり、ファレンジア王国内部としての立場は弱いと言ってもいい」
「だから、宰相のお爺さんの話を突っぱねられなかったの?」
「そういうことだね。評価としては、取り入りやすいけど頼りづらい、といったところか。ついでに言うと精霊教会の思惑が分からない点がネックだね」
王女自身は、純粋に善意で皆のことを助けようとしているだろう。
しかし残念ながら、そのバックを信用することができないし、ファレンジア王国内での発言力は低い。
晃司たちが頼る相手としては少し弱い、としか言えないだろう。
「次は先ほど話していた宰相派かな。これは実質国王派と言ってもいい。彼は国王からの指示を受けて活動している」
「じゃあ、実質的にそこがトップなの?」
「そうだね。ただ、そこまで積極的な活動はしていないみたいだけど」
国王派なのだから、国内では最大派閥と言ってもいい。
ただ、その体制は安定しているため、活動自体はあまり大きくはない状態だ。
「宰相派は、僕たち異世界人を利用しようとしている」
「やっぱり、悪い人なの? 国のトップが?」
「いや、そうとも言い切れない。彼らが欲しているのは、あくまでも僕たち異世界人のブランドだ」
「どういうこと?」
「つまり、これだけの数の異世界人を抱えているぞ――固有魔法使いを擁しているぞという事実を欲しているだけなんだ」
宰相派が見据えているのは他国との関係だ。
固有魔法を使える魔法使いというのは、優秀で貴重な存在。それを、一気に三十人近く抱えることができたのだ。
ただそれだけで、ファレンジア王国としては大きなメリットであるともいえる。
「だから、異世界人たちが魔法を習熟し、力を高めることについては積極的なんだ。しかし逆に、異世界人を損なうような真似だけはしたくない」
「あー、ブランドが欲しいってそういう意味なんだ……」
「だから、ある程度までは協力は可能だと思うよ。その先がどうなるかまでは、微妙なところだけどね」
もし、召喚された異世界人が少数だったらそうも言っていられなかっただろう。
異世界人たちの能力を可能な限り高め、ブランド力を上げようとしていた筈だ。
けれど、僕らは三十人もの数で召喚された。それだけの数がいるならば、無理に関係性を悪化させてまで力を高めさせる必要もないのだろう。
エリちゃんが宰相派の文字の上に王冠マークを付けるのを見つつ、僕は続ける。
「さて、ここからが問題だ。第一王子派と第二王子派――この二つの派閥は勢力争いを行っている。王太子、即ち次の国王の座をかけてね」
「権力争いの真っ最中なんだ。どっちが優勢なの?」
「今のところは第一王子派のようだね。だからこそ、問題とも言える」
既に王太子としてどちらかが選ばれていたなら、何の問題も無かっただろう。
だが生憎と、まだまだ第二王子派にも勝ち目がある状態なのだ。
故にこそ、第二王子派は必死に追い縋ろうとしているのである。
「まず第一王子派だけど、こちらは異世界人に興味がない。というか、関わりたくないと思っているみたいだね」
「それはそれで何かちょっと微妙な気分!」
「自分たちの派閥に不要な影響を与えたくない、といったところかな。まあ、異世界人の得体が知れないというのもわからなくはないけど」
まあ、無干渉でいてくれる分には、こちらとしても都合はいい。
問題となるのはもう一つ、第二王子派の方だろう。
「そして第二王子派は、第一王子派に勝るために異世界人を利用しようとしている。僕たちの力を使って大きな戦果を挙げ、逆転しようと狙っているのさ」
「つまり、四つの中で最悪ってこと?」
「そういうことだね。特に、無理やり戦場に出そうとしているところがいただけない」
僕たちは、あくまでも全員無事な状態での帰還を求めている。
第二王子の派閥に組み込まれてしまった場合、とてもではないけどその目的を果たすことはできなくなるだろう。
絶対に、この勢力に利用されることだけは避けなければならないのだ。
「……さて、エリちゃん。この四つの派閥の内、与するとすればどこが理想的だと思う?」
「えー、どれも微妙なんだけど……でも、第二王子派だけは無いね。無理無理!」
「あはは、その通りだね」
第二王子派の文字に大きくバツ印を付け、腕でもバツを作ったエリちゃんは、苦い表情でそう宣言する。
その言葉に、僕は笑いながら同意した。
「さて、そのためにも……そろそろ、現地と接触するとしようか」
最低限の情報は集まった。
ここから先は、積極的に動き始めることとしよう。




