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勇者の親友は暗躍する ~クラス転移の裏側で、機甲の主は世界を統べる~  作者: Allen
教会/霊峰オルトスク

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106/114

106:光の在り方






「ぬ……地属性、重力魔法か!」

「ふッ!」



 周囲に魔力が広がると共に、グレゴールの足元が陥没する。

 しかし、そんな中であるにもかかわらず、ディークさんは普段と変わらぬ軽快さでグレゴールへと向けて突撃した。

 振り下ろされる大剣を、しかしグレゴールは鋭い一閃で弾き返しながら、驚愕を交えた様子で声を上げる。



「対象を指定した重力魔法――それが貴公の固有魔法《オリジナル》というわけだな!」

「……」



 グレゴールの言葉に、エルセナさんは答えない。その彼の指摘は、間違いであるが故に。

 そもそも裕也から、顕霊人形《アニマ・マタ》たちは固有魔法《オリジナル》を習得できないという話は聞いていた。

 固有魔法《オリジナル》というものは人間だからこそ習得できるものであり、本体が顕霊である彼らには扱えないものであると。

 だからこそ、通常では考えられないような魔法の発現は、即ち彼女の顕霊としての力に他ならなかった。



「無茶するっすね、全く……!」



 それを察したのだろう、フォルトさんは舌打ち交じりに杖で地面を叩く。

 瞬間、出現した鋭い氷の棘がグレゴールへと向けて襲い掛かり――彼は、それを剣によって斬り払った。

 重力に囚われているがために、跳躍しての回避はできない。

 しかし、その状況であっても、それらの攻撃には軽々と対処されてしまっていた。



「蓮杖君! 周囲に被害が出ないように結界を! 剛志、和久井、行こう!」

「あいよ!」

「いきなり、とんでもない奴が相手だね!」



 ディークさんに続くように、俺たちもまたグレゴールへと向けて走り出す。

 六錠さんによる封印、そしてエルセナさんの重力による拘束。

 それを含めてなお、ディークさんの攻撃を易々と受け止められるほどの身体能力。

 相手は本物の怪物であると、そう認識した方がいいだろう。



「援護する。皆、気を付けて!」



 同時、箱崎先生の固有魔法《オリジナル》が発動。

 戦っている味方の状況が共有され、更に全員に対して鏡花ちゃんによる強化術式も付与される。

 それを確認して、俺は一気にグレゴールへと向けて接近した。

 輝きを宿す精霊剣は、光の弧を描きながらグレゴールへと向けて襲い掛かり――彼は、それを右手の剣で受け止めてしまった。



「顕霊を宿す剣――素晴らしい! ローデリヒ様が持つに相応しい剣だ!」

「残念だけど、彼女は俺以外には従わないよ!」



 相手は実力者、無理はしない。

 押し合いにはせず、俺はすぐさま後退し――入れ替わるように、和久井の剣が振るわれる。

 飾り気のないただの長剣は、しかし俺の精霊剣にも劣らない貴重な剣だ。

 和久井の一閃をグレゴールは左の剣で受け止めようとし――その刃は、和久井の剣によって絡め取られるように逸らされた。



「む……ッ!」



 流石に驚いたのか、グレゴールはすぐさま右の一閃によって牽制する。

 それに、和久井は僅かに後退して攻撃を回避して見せた。

 それを横目に見つつ、俺と剛志はグレゴールへと肉薄し――発生した凄まじい風によって、後方へと押し返された。



「凄絶なる剣の冴え、驚愕したぞ! だが惜しいな、迷いが見える。貴公、人を斬ったことは無いな!?」

「ッ……ある方がどうかしてるからね、そんなの」



 ――それは、確かに和久井の弱点だろう。

 『未完の剣聖(レーヴ・エスメラルダ)』という凄まじい魔道具、それを十全に扱えるエスメラルダとしての変身体。

 しかし、それらを込みにしたとしても、和久井には確かに『人を傷つける』という覚悟が足りていなかった。

 それでも戦うことができているのは、『未完の剣聖(レーヴ・エスメラルダ)』というという魔道具の圧倒的な性能があるが故だ。

 いざ、それを含めても届かないような相手が出てきた今、その覚悟の不足が和久井の足を引っ張っていた。



「否定はせぬ。だが、戦場に立つには覚悟が足りん!」

「足りないなら、それは俺たちが補うってなぁ!」



 後先を考えないような、全力の強化。

 文字通り鋼の肉体を得た剛志は、正面からグレゴールへと立ち向かう。

 剛志の拳は易々と捌かれてしまうが、反撃に振るわれる剣も剛志の体を傷つけられない。

 けど、相手がいつまでも悠長な攻撃をしているとは考えられないため、俺もまた横合いから攻撃を叩き込んだ。



「〈フォトンスライサー〉ッ!」

「殺意はないが、鋭い覚悟! 迷いがないな、貴公!」

「誰かのために戦う時に、迷っている暇なんてあるものか!」



 鋭く翻る光の刃を、風を纏う剣が迎撃する。攻撃を弾き返されて、それでも俺は迷いなく前へと踏み込んだ。

 人に剣を向けることに対する躊躇いは、間違いなくある。

 けれど、ここで迷っていれば皆に迷惑をかけることになってしまうだろう。

 傷つくのも、迷うのも、後回しにすればいい。今はただ、仲間を助けることだけに集中するべきだ。



「栗原先生を、貴方たちの道具になんてさせはしない!」

「ローデリヒ様に協力していただく、ただそれだけだ!」

「その話はお断りさせて頂いた。彼女がそれを望まない以上、私たちがそれを認めることは絶対にありえません」



 後方から、箱崎先生の声が響く。

 もし、自分だけが犠牲になって状況が改善するなら、箱崎先生はそれを選択していたかもしれない。

 或いは、栗原先生が受け入れる決断をしていたなら、協力するという選択肢もあっただろう。

 けれど、栗原先生はそれを望まなかった。一度、彼女自身の意思でそう決めた以上――その決断を曲げようとするものを、認めるわけにはいかない。



「ローデリヒ様こそが、貴公らをよりよい方向へと導ける光なのだ! 双方にとって素晴らしい選択である筈だ!」

「どちらに向かうかは、俺たち自身が決めることだ! 勝手に光を振りかざして目を奪うことを――」



 精霊剣が脈動する。体の奥底から――いや、魂の内側から、力強い魔力が励起される。

 光と表現した、その言葉。

 それを認めることはできないと、俺自身の魂が叫んでいた。



「――導きの光などと、口にするなッ!!」



 刹那――鋭い光が、駆け抜けた。

 それは攻撃のためではない、移動のための光。

 俺が見出した、光というものの一つの答え。



「転移術式――!?」

「〈星光《ステラ》:トゥインクル〉!」



 俺の固有魔法《オリジナル》の名前は、天光術。

 天の光とは何なのか、俺はずっと考えていた。光というものをどう解釈すればいいのかを、ずっと。

 だが、そうだ。ようやくわかった――そんなもの、たった一つに定めなくても良いのだと。


 グレゴールの振るう刃を、新たなる術式で回避する。

 そして、それと共に振るった一閃は、剣の柄を打ち据えて彼の剣を弾き飛ばしていた。

 その衝撃と共に後方へと転がったグレゴールは、風を操って吹き飛んだ剣を回収しようとする。

 けれど、風に運ばれようとしたその剣は、輝く鎖によって拘束されることとなった。

 どうやら、栗原先生と鏡花ちゃんが拘束したらしい。



「ッ……術式の解釈を変えたか! しかし、転移術式とは思い切った変化だな!」

「星は人を導くもの。空にあり、方角を指し示すもの。けれど……道を選ぶのは、自分自身の選択だ」



 選択肢を示すのはいい、向かうべき道を提示するのも悪くはないだろう。

 けれど、選択そのものを強制されることだけは認めない。認められない。

 人を導く光というのは、そういったものではない筈だ。



「ローデリヒ大司教が素晴らしい人であったとしても、従うことを強制される謂われはない!」

「ならば、そのか細い光だけで歩いて行くとでもいうのか!」

「そうだ、それでも先を信じて歩むことこそ選択だ! それに――天の光が一種類しかないなんて、誰が決めた?」



 俺が信じると決めた光は、既に存在している。

 俺が進もうと決めた道を照らしてくれる輝きこそが、俺のイメージする光の解釈。

 その光を一つと決めて、勝手に押し付けようとしたその狂信へ――俺自身の光を、示してやるとしよう。






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