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勇者の親友は暗躍する ~クラス転移の裏側で、機甲の主は世界を統べる~  作者: Allen
教会/霊峰オルトスク

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105/116

105:説法






 この部屋に立てこもってから、どの程度時間が経っただろうか。

 蓮杖君と六錠さん、二人の術式によって作られた結界は効果抜群で、これまでこの部屋に立ち入ろうとした人間はいなかった。

 このまま朝まで立てこもることができれば、それはそれで良いのかもしれないけど――流石に、緊張状態をそこまで保ち続けることは難しい。

 勿論、戦わずに済むならそれに越したことは無いし、ここで立て籠もっているだけで状況が解決するならそれがベストだ。

 けれど、俺はそうはならないと直感的に感じていた。



「……」



 背を預けていた壁から離れ、立ち上がる。

 遠くから響いてくる、複数人の足音。

 これまで通りであれば、素通りしていくであろうその音に、俺は静かに耳を澄ませた。


 蓮杖君たちの結界は実に強力で、かつ高機能だ。

 これの中に隠れられていれば、その存在を知っていたとしても、俺には見つけられる自信はない。

 けれど、それを含めて――この世界には、想像を絶するような手合いが存在するのだ。



『――うむ! この辺り、何だか妙な感覚がするな!』

「……え、マジですか」



 正確に位置を割られたわけではない。けれど、意識を誘導するというその違和感を察知し、何者かが俺たちの潜んでいる場所を言い当てた。

 勘が鋭いのか、あるいは何かの能力なのか。

 どちらにせよ、この場所が危険となってしまったことは間違いない。

 そう判断し、俺は即座に蓮杖君へと声をかけた。



「蓮杖君、手はず通りに」

「わかってる。窓側の部分には穴をあけたから、いつでも出られるよ」



 確信を持たれてしまった時点で、ここから逃げる以外の選択肢はなくなった。

 いつでも逃げられるように準備はしつつ、けれど外にいる相手には気づかれないように無駄な魔力は発さない。

 固唾を呑みながら外の足音に耳を澄ませ――その足音は、まさしく俺たちの立て籠もる部屋の前で立ち止まった。



『ここだな! 何故かここを見てると頭がボーっとする!』

「皆、脱出を!」



 確信を持たれた。そう判断した瞬間に、俺は皆へと脱出の指示を出した。

 異論を挟んでいる余地など無い。現在装備を持っていないメンバーを優先し、全員が魔法で身体強化をしつつ部屋の中から脱出してゆく。

 その気配を感じ取ったのだろう、部屋の外の気配もまた、強力な魔力を一気に昂らせた。

 かなり強力な魔力の発露。その気配に、思わず息を飲む。

 この重圧は、間違いない。今、この部屋へと攻撃を仕掛けようとしているのは、間違いなくかなりの実力者であった。



「よりによってって感じ……逃げるっすよ!」

「はい!」



 他の皆が脱出したのを確認し、俺やフォルトさんたちも窓の外へと飛び出す。

 その次の瞬間――俺たちが立て籠もっていた部屋は、外からの攻撃によって粉砕されてしまった。

 衝撃に煽られながらも体勢を制御して着地し、先程までいた部屋を見上げる。

 煙を上げる部屋の窓――そこから飛び出してきたのは、両手に一対の長剣を携えた、紫色の髪の騎士であった。

 まさか、教会の中で結界を強引に破るほど強力な攻撃を放ってくるとは、流石に予想外だ。



「えー……嘘でしょ、封印はちゃんと効いた筈なんですけど」

「うむ、何だか妙に体が重いな! しかし、その程度でこの俺が止まることなどありえん!」



 堂々と、力強く、その神殿騎士は宣言する。

 彼の姿を目にし、杖を構えるフォルトさんは苦々しい表情で声を上げた。



「……グレゴール・マクス。ローデリヒ大司教配下の神殿騎士っすね」

「いかにも! 俺の名はグレゴール、神官たちに狼藉を働いた者を捕らえに来た!」

「っ、彼らは強引に私たちを連れて行こうとし、顕霊の暴走を招きかけた。神殿内で顕霊が暴走すればどうなるか、わからない筈はないでしょう!」

「そうか! しかし俺は知らんので、とりあえず捕らえてから考える!」



 ダメだ、話が通じない。というか、何も考えていなさそうに思える。

 とりあえず目的を果たせればそれでいいと、それしか考えていない様子であった。

 相手は二人の結界を突破し、尚且つ封印によるデバフがかかっていても問題なく行動している人物。

 こちらにこれだけの人数がいるとはいえ、果たして正面から戦って無事に済むかどうか。

 そんな状況下で――グレゴールへと向けて、一歩前に進み出る人がいた。



「神殿騎士グレゴールへ、一人の信徒エルセナとして問いましょう!」

「む?」

「わたくしの問いに答え主君の名誉を守るか、もしくは無視して主君の名を汚すのか、選びなさい!」



 堂々とその言葉を発したのは、普段細められている目を見開いたエルセナさんだった。

 その瞳の中には確かな怒りの色を滾らせて、神殿騎士グレーゴルへと向けて問いかけている。

 その言葉に――彼は、僅かに剣の切っ先を落とした。



「説法を望むか! そう問われれば応えぬわけにはいかぬ! しかし、言葉のみで我が刃が収められることは無いと思って貰おう!」

「それは貴方の判断です。わたくしはただ、精霊教会に属する者として、貴方の信仰を問うだけ」



 それは時間稼ぎか、あるいは何か考えがあるのか。

 しかし、余計な動きをすればグレゴールはすぐさま戦闘態勢に戻ってしまうだろう。

 エルセナさんに考えがあるのなら、それの邪魔をするべきではない。



「問いましょう、騎士グレゴール。貴方の掲げる信仰とは何か!」

「無論、我が信仰とは主君へと捧げる忠誠である!」

「精霊ではなく、貴方の主君たるローデリヒ大司教への忠心こそが信仰であると、そう宣言するのですね?」

「然り! 逆に問おう、信徒エルセナよ。我が信仰、我が忠誠はこの心の在り様だ! 貴公は、我が信仰を否定する言葉を持つのか!」



 鋭く響く、グレゴールの言葉。

 その声には、腹の底まで響くような確かな重みが存在していた。

 精霊教会としては、確かにどうかとは思う。しかし、彼が抱いている信仰と忠心は、紛れもなく本物だった。

 彼はどこまでも本気で、ローデリヒ大司教へとその心を捧げているのだ。

 対し――エルセナさんは、そのロッドで地を叩きながら返答する。



「答えましょう、騎士グレゴール。わたくしは貴方の信仰を否定はしません。祈りも、想いも、全ては己の心の赴くままにあるべきもの。その向き先を否定することはありません」

「ほう……! 珍しい、が。良き答えだ! 気に入ったぞ!」

「では、改めて問いましょう、騎士グレゴール。貴方の行いは、信仰を捧げる相手のために有るのですね?」

「無論だとも! 我が心の在り様は、我が剣の振る舞いは、全てはローデリヒ様のために有る!」



 どこまでも堂々と、グレゴールはそう宣言する。

 迷いはなく、躊躇いもなく――けれど、それに相対するエルセナさんの視線は鋭く、冷たいものであった。



「ならば問いましょう、騎士グレゴール。貴方の行いは、ローデリヒ大司教の望みであると、そう仰るのですか?」

「――――」



 ――その時、初めてグレゴールの言葉が止まった。

 明朗快活な騎士は、これまでの打てば響くような答えを出すことができず、その言葉を詰まらせてしまったのだ。

 その姿に、エルセナさんは鋭く冷たい言葉を告げる。



「問いましょう、騎士グレゴール――貴方は、信仰を捧げるお方の言葉を、代弁できると仰るのですか?」

「――否、である。俺如きが、ローデリヒ様のお言葉を代弁するなど、許されざることだ」

「ならば、貴方の行いはローデリヒ大司教のためであり……けれど、大司教の望みではないと」

「……否定はせぬ。俺はただ、信じるのみだ」



 再び、グレゴールの持つ刃の切っ先が持ち上がる。

 己の在り様の歪さを突き付けられ、それでも信じるもののために戦うと、そう宣言したのだ。

 対し、エルセナさんは嘆息と共に告げる。



「貴方が主君の言葉を代弁していると宣言したなら、わたくしは心底から貴方を軽蔑していたでしょう。その点だけは安心しました。しかし――貴方の在り様が、ローデリヒ大司教の名を汚していることを否定はできません」

「貴公……ッ!」

「ならば私は一人の信徒として、ローデリヒ大司教の名を守るために戦うと致しましょう」



 その宣言と共に――強大な地属性の魔力が、周囲を埋め尽くしたのだった。







 

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