旅の常識 俺は非常識!?
そこからは2人の後ろから付いて歩きながら結界魔法の応用に集中していた。
歩きながら結界を維持するのは思った以上に難しく、歩く足元に注意を払うと結界が消えたり、強くし過ぎて結界が固定されてしまい、先頭のリーネが結界にぶつかったりして迷惑をかけてしまった。
「……思うんだけどさ、魔石に結界効果を付与して歩けば良いんじゃね?」
しばらく歩きながら試行錯誤していた俺は休憩で止まった時にそう呟いた。
体は常にヒールをかけていたから疲れとか無いが、脳が、心が疲れていた。
「あら、気付いちゃった?」
ヴェルナが笑顔で言った。
「そんな…もっと早く言ってくれれば……」
「そうしたら訓練にならないじゃない。魔力も減らないし……歩きながらヒールができるなら結界もなんかやれそうだと思うじゃない?」
そう言われると反論できない。
「まぁでも、今のうちに夜営地用の結界石を作っておいてもらえると何時魔力が切れても安心よね。」
ニコッと笑顔で夜用の結界を魔石に付与と頼まれた。
「夜用か……どんな効果が要る?」
俺はスマホを取り出し収納一覧から手頃な魔石を探す。
「動物が入ってこないようにしてくれ。」
リーネが真っ先にそう言った。
「虫も嫌よ。あと急な天候変化は困るわよね。見張りが要らないようにしてくれると嬉しいわ。」
ヴェルナも続ける。
「結界内でぐっすり寝れるならこんなありがたいことは無いな。」
「そうね。疲れは取らないとね。見張りの交代も無くぐっすり寝れると明日の移動も楽だし。」
「暑くても寒くてもぐっすり寝れないんだよな。」
リーネとヴェルナの要求がなんだか夜営に求められるものと違う……とは思うものの、口を挟めない。
っていうかそうか、普通森の中で寝る時は交代で見張りに立ったりしなきゃいけないのか。寝ているところを野生動物に襲われる心配も普通は有るもんな……俺は毎日朝まで熟睡という名の魔力切れ睡眠してたからな……きっとシエルとネフが守ってくれてたんだろうな!
「……つまり、動物(虫込み)の排除、雨風しのげて、回復効果付与して、気温は適温設定……って、家かよッ」
魔石を握ったまま突っ込みを入れた瞬間 、魔石がピカッと光り結界効果が付与された。
「うわっ…」
手のひらで淡く光る魔石を鑑定すると…
『結界ーー家
起動すると希望の範囲で登録者以外の生物を侵入不可とする。登録者は毎回変更可能。結界内は外のあらゆる自然現象の影響を受けない。回復効果(大)リラックス効果(大)快適仕様(大)』と出た。
「……出来たみたいね。」
「……出来ちゃったみたいだよ…」
ははは…と乾いた笑いを浮かべてその魔石をヴェルナに渡す。
クルクルと魔石を回し見たヴェルナがニコッと笑って
「ねぇユウヤ、同じヤツあと二つ作ってくれる?」
と言った。
「良いけど……二つ?」
「私とリーネに一つづつ欲しいの。もちろん相応の対価は払うわ。」
「対価…は別にいいよ。道案内もしてもらってるし、戦闘はきっと任せちゃうだろうし。」
そう、俺はどんなに頑張っても攻撃魔法が未だに発動しない。
火は出せる。
だがその火で何かを害そうとすると途端に消えてしまう。
同じように使う魔法を変えても攻撃しようと思った途端、消えてしまうのだ。
魔法だけじゃない。
落ちてた木の棒を杖代わりに使う事は出来ても、それをチャンバラの様に振りかぶった途端、棒は手から落ちていく。
マジで意味が分からん。
シエルに聞いても
「や〜、やっぱり無理だよね〜うん。優耶、諦めた方が良いよ。」
と、何か悟った顔で諭された。
ツルハシで鉱石は掘れるのに攻撃意志を持った途端収納状態になるのもマジで意味不だ。
その事を目の前で実演して俺には戦えないと、言わなければならなかったあの無力さと恥ずかしさは本当に辛かった。
ただ、それを告白してもヴェルナもリーネもさして驚きもせず普通に受け入れてくれた事に、救われた気がした。
やっぱり男としては前に立って戦う方が自然だと俺は思っているから、こんな情けない事を告白して笑われたり、なじられたら辛いな…とは思っていたのだ。
夜営の結界魔法くらい安いものだ。
結界石を三つ作った辺りでスマホの電池残量ーーつまり俺の魔力残量が20%を割った。
時間も夕方になったし今日はこのままここで夜営する事になった。
作ったばかりの結界家を起動し、俺は収納からテントとエアーベッドを出す。
そして食事のために机と人数分の椅子を用意した。
「ヴェルナとリーネは何食う?」
Muber Eatsの画面を開いて尋ねると、二人はこっちを向いて固まっていた。
「……え?」
「…ユウヤ、何…やってるんだ…?」
ヴェルナとリーネが心底理解できないという顔でこっちを凝視する。
「ん?…夕ご飯、食べるだろ?良いよ。今夜は俺が奢るから。何食べたい?俺は疲れたからカツ丼かな〜。」
ポチッとカツ丼特盛りを押す。
次の瞬間、机の上にカツ丼特盛りが現れる。
「「なッ!?」」
ギョッとする二人。
「ほらほら、俺の冷めちゃうから何食べたいか早く言って!」
二人とも何で固まっているんだ?
分からないのだが……。
…まさか、奢られることに抵抗があるのか……?
さっきも魔石の代金払うって言ってたし…
ヴェルナは小さいのにしっかりしてるな〜俺があれぐらいの年齢の時なんて、奢ってもらうのに躊躇いはなかったもんな。
「バーガー?汁物?麺?フルコースとかは頼んだ事無いけど…フルコース料理って有るのか?」
何が食べたいのか分からなかったから大雑把に色んなジャンルを挙げてみる。
俺の言葉にハッと正気に戻った二人は口を揃えて叫んだ。
「「何、これっ!?」」
「…えっ?」
「テントは分かる。だがこの四角い…箱?は、なんだ?こんなの見た事ないぞ!?」
「貴方この森の真っ只中でテーブルに椅子ですって!?しかもこの食事、見た事ない物よ!?一体、何をしたの?」
二人がこちらに詰め寄りながら同時に怒涛の勢いで違うことを言い出した。
「待った待ったッ!いっぺんには聞き取れないよッ」
「このふわふわの台はなんだ?」
「それはエアーベッド。寝台だよ。」
リーネの質問にまず答える。
「これは何!?」
「カツ丼だよ。」
ヴェルナの質問に答える。
「森の中の夜営だぞ?これじゃまるで部屋じゃないか!?」
「こんな食べ物…入れ物も見たことないわよっ!?」
ちゃんと答えたのに余計問い詰められてしまう。何故だ!?
「二人とも落ち着きなよ。ゆっくり聞くから。……でも先ずは食事しないか?」
どうどう…と両手で落ち着かせる。
俺の言葉に何か言いたげにしながらもとりあえず椅子に座ってくれた。
「……それで何食べる?」
俺の催促に二人は机の上のカツ丼を見た。
「私はユウヤと同じのでいい。」
「私も同じので……少な目にできる?」
「了解。」
ポチッとするとカツ丼特盛りとカツ丼普通盛りがテーブルに現れた。
「はい、どうぞ。」
箸とスプーンを手渡す。
「いただこう。」
「ええ。」
「いただきます。」
先ずは一口。
うん。美味い。
誰が作っているのかカツはサクフワだし、出汁の味も俺好みで、半熟より少し長く火の入った玉子は絶品だ。
二人も最初の一口目は怖々だったが、二口目からは静かに素早く口に運んでいる。
半分食べた時お茶を出してないことに気付いた。2リットルペットボトルのお茶とコップを買う。
「お茶は冷たくていいか?」
緑茶をコップに注ぎながら尋ねると、
「ありがたい。」
とリーネが言った。
「私はどちらでもいいわ。……っていうか、普通は火を起こして沸かすから熱いお茶一択なのよ?何よその緑の液体は!……え、お茶?お茶って言った!?」
ヴェルナがお茶に疑問を投げてきた。
「え、ああ…うん。緑茶だよ。飲んだことない?」
「……無いわ。」
「そうなんだ…じゃあちょっと苦いかも。」
ヴェルナの言葉に、初めて緑茶を飲んだ外人の感想を思い出した。
テレビ番組で初めて緑茶を飲んだ外国人観光客に感想を聞くという場面があった。
苦いけど飲めないこともないみたいな事を言ってたハズだ。
……ダメだったら違うお茶を買おう。
「……苦い…でもスッキリする味ね。」
「ヴェルナは熱いお茶が好きなのか?」
「そうね。こだわれるなら熱いお茶が好きよ。コレも…熱くして飲んでみたいわ。」
「じゃあ熱いお茶も後で入れるよ。」
「ありがとう。」
「ご馳走様でした。」
食べ終わったので早速陶器の湯呑みとティーパックの緑茶を買ってお湯を魔法で出す。
「紅茶は98コーヒーは70緑茶は60…だったよな。」
俺が呪文のように呟きながら湯呑みに魔法で出した湯を入れる。
「何言ってるの?」
「ん?美味しく飲む温度だよ。」
「ふぅん………もういいかしら。」
ヴェルナは湯呑みの中から緑茶のティーパックを取り出して、一口啜る。
「あら、さっきよりも飲みやすいわ。それに熱いけど飲みやすい温度ね。」
「お口に合って何より。」
「……それで。この飲み物もさっきのカツ丼?も、何処から手に入れたの?」
湯呑みをクルクルと回し見ながらヴェルナが尋ねた。
「何処って……MuberとMamazonだけど…」
なんでそんな事聞かれるのか理解できないが?
同じネット通販使ってるならカツ丼とか見た事ないみたいなあの反応は……おかしいよな?
「「は?」」
俺の答えに二人とも首を傾げる。
「だから…こっちの世界の通販サイトだろ?」
俺が言うと胡乱な目をしてヴェルナが答えた。
「スマディの通販サイトにそんな名前は無いわ。」
その言葉に驚く。
「えっ!?…そんなハズ無いだろ?だってこっちに来てからこのアプリがインストールされたんだぞ?そうだよな?シエル。」
俺はシエルを見る。
確かこの世界に来て最初にシエルが教えてくれたんだ。このアプリで買い物と食事が出来るって。
「…ええ、そんなアプリはこの世界には無いわ。……一般にはね。」
俺の問いかけにシエルが答える。
俺の思ってもいない答えを。
「……え?」
「だってそのアプリは優耶専用でチュートリアル期間限定だもの。」
ふふっと笑いながらシエルが教えてくれる。
…っていうかチュートリアル限定って…
「優耶はまだチュートリアル中で、急に旅立つ事になっちゃったからまだそのアプリが使えるのよ。この世界の普通の人はそのアプリ使えないから。」
「えええええええッ!」
アプリが俺専用ってことも驚きだけど、チュートリアルがまだ終わってなかった事もびっくりだ。
「……つまりこの通販で買ってる物も……」
「そりゃ、この世界の人から見たらちょっとよく分かんないかもね。」
「え、でも…」
確か、向こうの世界のネットによく繋がるって言ってなかったっけ……?
「まさかあのよく分からん謎サイトがユウヤの世界だったのか!?」
リーネが気づいて驚いた。
「よく分からんって…写真や動画見れば分かるだろ?」
「何言ってるんだ?文字は見た事ないものだから読めるわけないし、絵は勝手に動くしチカチカするし、音楽は分かるが言葉はさっぱり何言ってるか聞き取れないじゃないか。」
リーネの言葉にハッとする。
「あ〜…そっ…かぁ〜そういう問題が……」
…………
………………ん?
じゃあどうして俺は言葉が通じてるんだ!?
「…俺の言葉。分かるよな?」
「「?」」
唐突に気付いた疑問を投げかけると二人は言ってる意味が分からないと言うように首を傾げる。
「俺は元の世界とこちらとで言葉を分けている訳じゃない。むしろ同じ言葉だと思ったのに……リーネの言葉通りなら聞き取り不可の異世界語って事だよな?どうなってるんだ?」
教えてくれよシエルさん。
俺はシエルを見つめて質問した。
「……ん〜…まだ秘密で!」
テヘッと可愛く笑って答えを避けられた。
俺はガクッと脱力する昭和なリアクションをリアルでしてしまった。
「言葉が通じるんだから問題ないじゃない?」
「まぁ……そうだけど。」
「うんうん。気にしない気にしない!」
しょうがない。
きっとそのうち教えてくれるだろう。
「……なるほどね。……ユウヤ、これから人里に出るにあたって極力目立つことはしない様に注意して。」
ヴェルナが真剣な顔で忠告してくれた。
「わ、分かった……目立つ事って…どれが目立つんだ……?」
ヴェルナの気迫に気圧されながらうなづいたものの、何が目立つ事なのかイマイチ分からない。
「……そうね。森を抜けるまでに追々教えてあげるわ。」




