いい日旅立ち
ーー私が呼んだのだもの。
そう言ったシエルに俺と美少女のヴェルナと鳥人のリーネの返事がハモる。
「「「は?」」」
「だって、優耶のチュートリアルが終わったらここから旅に出るのに誰か案内がいるでしょ?」
チュートリアル……そういえばそんな事言ってたな……すっかり忘れてた。
俺がココに来たばかりの時に言われた言葉を思い出していると、シエルとヴェルナが何か小声で言い合っている。
声が小さくて聞き取れなかったが、シエルが何か言ってニコッと笑ったらヴェルナが納得していた。一体何を言い合っていたんだろう?
「……はぁ…まぁいいわ。……じゃあユウヤ、そういうことだからすぐ出発するわよ。」
「エッ…すぐ!?……すぐって今?Just now!?」
「そうよ。少しでも早くここを離れないと今みたいに精霊食いのせいで森の動物が変異させられるわよ。」
「な、なんで…」
「なんでって…それはあな…」
「んんッ!」
ヴェルナの言葉をシエルの咳払いが遮る。
「?」
「あ…あ〜…アナタの後ろのその変わったスライムを狙っているからよっ!」
「ッ!?」
「ネフを!?」
俺の後ろでワタワタと慌てるネフをポンポンして落ち着かせる。
「…そうか、こんな綺麗なスライム。普通じゃないと思っていたんだ。ネフ、実は精霊だったんだな。大丈夫だ。俺が守ってやるからな!」
何やら抗議したそうに腕を振り回していたネフだが、俺の言葉に安心したのか後ろから首に巻きついて大人しくなった。
「……腑に落ちないけど。納得してくれたのね。じゃあ出発するわよ。荷物とか何処に置いてあるの?それを回収しがてら行くわよ。」
複雑な顔でヴェルナがそう言った。
「いや、荷物は何処にも置いてない。」
「「はっ?」」
俺の言葉にヴェルナもリーネも意味不明と言わんばかりの反応をする。
「俺の荷物は基本的に収納魔法の中に入ってるんだ。だから俺は基本的にこの身体一つで何処にでも行けるし問題は無い。有るとすればやっと出来上がったこの野天風呂に入れない事くらいだ。」
そう。
かなり頑張って作ったお気に入りの野天風呂にもふもふ達とまったり出来ないことが唯一の心残りだ。
「でも向こう数年は今のこの状態で維持出来るハズだから……問題が解決すればまた戻って来れるんだろ?」
まさか二度とここには帰れないなんて事無いよな?
「……数百年は保つわよ……」
ボソッとシエルがつぶやく。
「え?」
「いいえ、そうね。解決してまたお風呂に入りに来ましょ!」
聞き返したのにはぐらかされた。
旅立つ前に破れた上着を着替え、森を歩くのに適した衣装に全身カスタマイズする。
靴や靴下、長袖長ズボンの下着に上着。
なんか、アウトドアコーナーでこんなコーデのマネキンを見た気がする…
異世界でこのポリエステル素材の肌着って大丈夫かな?
「俺もフード付きのマントとかした方が良いかな?」
「慣れてない人間がこんな森の中でマントなんて着たら、あちこちに引っかかって進めないわよ?」
「それもそうか。」
異世界モノの旅の定番のマントやカバン、ちょっと憧れてたんだけどな……
「優耶がどうしても欲しければ歩き慣れた頃に買えばいいんじゃない?」
それもそうか。
「そもそも収納魔法があるのにカバンを持つ意味が分からないんだけど?」
「……ごもっとも。」
「それじゃ行きましょうか。」
ヴェルナがそう言って先頭で歩き出す。
俺はじっと野天風呂を見て絶対また来ると心に誓って踵を返し歩き出した。




