来訪者 2
シエルの後ろをガサガサと茂みをかき分け少女と女性がついて行く。
「ここまで来れば声は聞こえないわよね。」
宙に浮いた小さいサイズのシエルがつぶやく。
「それで?何故アナタは私達の名前を知っているの?それに…そもそもアナタはなになの?」
それまで大人しく後ろについてきてた少女ーーヴェルナが尋ねてくる。
「あら、何となくは見当がついてきてるんでしょ?」
そう言ってシエルは普通サイズに戻る。その容姿は優耶が設定したものとは違い綺麗な大人のものだ。その姿を見たヴェルナとリーネから少しだけ警戒が抜ける。
「やっぱり…貴女、カリグレシエルなのね。」
「ふふっ久しぶりね、ヴェルエルナ。それにイグナリーネ。」
カリグレシエルと呼ばれたシエルが嬉しそうに2人の名を呼ぶ。ここに来るまでにある程度予想がついていたのかヴェルエルナーーヴェルナが完全に警戒を解く。と同時に足元のスライムを見てハッとする。
「待って、じゃあこのスライムは……まさか?」
「そう、まさかのネフィリアよ。」
「ネフィリアだって!?なんでネフィリアがスライムに…」
シエルの説明にイグナリーネと呼ばれた女性が動揺する。
「リーネだって鳥獣人じゃない。」
「私はそもそも不死鳥だ。そうではなくて、ネフィリアはスライムとは関係無かっただろ!?」
ヴェルナの言葉に言葉を返すリーネ。
その様子を見てシエルは何かに思い当たった。
「そっか、イグナリーネは…ネフが何故こうなったのか知らなかったのね。」
「リーネはあの頃はまだ雛だったからね。」
目を細めてヴェルナがさもありなんと頷く。
「…ん?ということは…まさかさっきの?」
何かに気付いたヴェルナが恐る恐るといった感じでシエルに問いかけると、幸せそうな嬉しげな笑顔でシエルは頷き、スライムのネフもぴょんぴょん跳ねる。
「うわぁ…気のせいじゃなかったのね……」
何か信じたくない事実を知らされたような顔でヴェルナがつぶやく。
「まあね、おかしいとは思ったのよ。最近高品質の薬草や山菜が流れてきてるから、試しに買ってよく調べたら箱庭産って出るのだもの。誰も入れないはずの箱庭の薬草が出回っているから私達はわざわざ調べに来たのよ。」
「あら?産地は偽装して流したハズだけど?」
ヴェルナの言葉にシエルが首を傾げる。
「表面上はね。ちゃんと偽装されてたわ。でも私の目は誤魔化せないわ。」
「あ〜そうよね。」
「さらにあの水よ!」
「水?」
シエルの顔に疑問符が浮かぶ。
「何なの?崖から落ちてくるエリクサーって!」
「…エリクサー?……崖!?」
ヴェルナの語気強めな言葉を口の中で繰り返す。
「…ここに来て誤魔化すの?」
ヴェルナが胡乱な目でシエルを見る。
「誤魔化しては無いわよ。優耶の野天風呂の排水を崖から落としてるだ……け?エリクサー?」
「風呂の排水!?」
シエルもヴェルナもお互いの言葉に言葉を失う。
「え?ヒールのかかった水がエリクサーなんてならないでしょ?」
「アレが風呂の排水ですっって!?」
「「……」」
話し合うヴェルナとシエルを静かに見ていたリーネがふぅ…と溜めた息を吐いた。
「彼に聞けば良いのでは?」
「それもそうね。」
「ダメよッ」
リーネの言葉に頷くヴェルナにシエルが強めの静止をかける。
「「?」」
「優耶に…オリューヤスに情報を与えるのは禁止されているのよ。」
「なぜ?……そういえばユウヤって…どうゆう事?」
俯きながらシエルが言った言葉にヴェルナが質問する。
「オリューヤス…今は優耶って名前なんだけど。彼は……オリューヤスの記憶が無いわ。」
「は?」
「自分は地球の人間で事故に巻き込まれて気づいたらここに来たって思ってる。」
「記憶が無い…?」
ヴェルナがつぶやく。
「そうなの。オリューヤスは本当ならまだ人間として向こうで生きて死ぬはずだったの。彼がこちらに帰還する予定はもっと後だったのよ。」
「それがなんでこちらの世界に?」
「分からないわ。ただ私が女神様から言われたのは彼をサポートする事とオリューヤスとしての記憶は本人が思い出すまで外部から情報を与えることを禁止するという事だけよ。」
「女神様が禁止と?」
「ええ。」
腑に落ちないが、最高神である女神の言葉である。眷属の末席に連なる自分達が逆らうなど有り得ない。
「……わかったわ。じゃあそちらの状況を…」
「うわぁぁぁッッッ!」
ヴェルナが納得して詳しい話を聞こうとした時、優耶の叫び声が聞こえた。
「ッ!?優耶っ!」
すぐにシエルとネフが走り出した。
「ヴェルナッ」
「私達も行きましょ!」
頷きあってリーネとヴェルナも走り出した。
シエルーーカリグレシエル
ネフーーネフィリア
ヴェルナーーヴェルエルナ
リーネーーイグナリーネ
優耶ーーオリューヤス
……っていうのが本名です。




