来訪者 3
風呂から上がって着替えを済ます。
シエル達が去った方を見るが、影も形も声すら聞こえない。
そんなに遠くに行かなくてもよくないか?
いや、着替えを見せたいとか見られたいとか思ってる訳じゃないけど……
なんか、ちょっと寂しい……
そんなロンリーな気持ちになりながら俺は風呂上がりのフルーツオレを飲む。
風呂上がりの牛乳は日本の文化だと思う。
もちろんコーヒー牛乳も好きだ。
オロポだって麦茶だって俺は好きだ。
だが今日はフルーツオレの気分なのだ。
さっきの2人…この世界に来て初めての人間だ。まあ1人は人間っぽい獣人?鳥人?だったけど。スライムや野生動物よりは言葉も通じそうだし色々聞けそうだ。
この世界の事。
シエルに聞けば正確な答えをくれるけど、それってやっぱりどこかテンプレっぽいんだよね。
こう…生きた感想って言うか、現地人の生の声っていうか、そういうのが聞きたいじゃん?
何から聞こうかな…っていうか俺の事どうやって説明しようかな?
異世界から落ちてきました?
異世界って隠さなくても…いいよな?
なんか不都合有るか?
不都合有るか無いか2人の反応見てみればいいか。
……着替え終わったし、そろそろ戻ってこないかな…?
そうだ!
せっかくのお客様だしお茶とかお菓子とか振る舞おうかな?
テーブルセットとか出しといた方がいいかな?
あ、でも風呂だとちょっとアレかな?動物達が風呂に入りに来るとちょっと邪魔になっちゃうか?
でも湯に浸かってるアイツら見てるだけで和むんだよな〜。
ガサッ
後ろから葉擦れの音がした。
「お、帰ってきたか?俺の着替えは終わった……ぞ…?」
シエル達だと思って話しながら振り返るとそこに居たのは通常よりも大きなイノシシだった。
「シエルじゃないのか……お前、デカイなぁ!風呂入りに来たのか?ゆっくり浸かって……」
俺はそのデカいイノシシに話しかけながら数歩近寄る。するとそのイノシシの雰囲気が何かおかしい事に気付いた。
呼吸が荒い
口からヨダレが垂れている
目が、白い…白目むいてる!?
「お、おいっお前大丈夫かッ!?」
驚いて駆け寄ろうとした時、イノシシの背から黒い何かが鞭の様に俺に向かってきた。
「…ッツ……!!」
肩に衝撃があった。
反射的に右手で左肩を触るとヌルりと温かい液体の感触がした。
「……え…」
右手を見ると真っ赤な血で濡れている。
「ヒールッ!」
反射的に治癒魔法をかける。
痛みを感じる前に傷は治り、残ったのは肩口の破れた上着と手のひらに付いた血液だけだ。
「な、なんなんだ…?」
攻撃された…?
あの気持ち悪い触手に?
こちらを伺うようにゆらゆらと揺れるイノシシの背中から生えた1本の鞭の様な黒い触手は、次の瞬間さらに背中から数十本一気に生えてこちらに向かってきた。
「ッ!!ぎゃぁぁぁぁぁッッッ!!」
あまりの驚きと気持ち悪さに腹の底から叫ぶ。
無意識とはいえ拒絶の意思はしっかりあったおかげで目の前に不可視の壁が現れ、黒い触手はその分厚い壁で全て止められた。
「はぁはぁ…」
咄嗟の障壁に助けられた。
だが、鞭の様なその触手は障壁に阻まれるとすぐに本体に戻っていく。
1本以外はイノシシの中に戻った。
触手は止められたが本体をどうにかしないとっ…
俺は以前やったように魔法で檻を作った。
「これでどうだ!?」
だがやつは器用に檻の隙間からまた触手をこちらに伸ばして来た。
「げぇぇッ……お、檻がダメならッ」
箱詰めだッ!
ビシッと音がして触手がぶつかる音と共にイノシシを囲うガラスケースの様な箱が出来上がった。
その箱を壊そうと収納されていた触手が出てきて内側にぶつけられる。
だが俺のガラスケース(仮)はビクともしない。その様子を見て止めていた息を吐く。
「ふぅぅぅ…何なんだよ一体…。」
「優耶ッ!どうしたのッ!?」
独り言を呟いた時後ろの茂みからシエルの慌てた声が聞こえた。
「あ〜…シエル、コレ一体……」
……何なんだ?と続けるつもりで振り返りながら尋ねようとして…フリーズした。
「えっと……どちら様?」
そこには透明感のある絶世の美女が居た。




