↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
48/105

また一人

諦めない奴に誰も勝てっこない。


    ベーブ・ルース(1895-1948)

「中尉殿、アグネス殿はお連れしていないのですか?」


ラインハルトの部隊に属する軍曹は気になって尋ねた。ラインハルトがアグネスを連れていないのは珍しいことであった。


「うん。今回は連れていないんだ。ついこの間に銃で撃たれたばかりだし、置いてきた」


「なるほど、わかりました」


ラインハルトたちの部隊はプシェムィシルを目指して進軍していた。距離的にはそこまで遠い場所ではなく、すぐに到達できる場所ではあった。

ラインハルトたちは臼砲を用いて攻略に乗り出そうとしていた。


「奴ら、我々の大砲で腰を抜かすんじゃないでしょうか?」


余裕ぶっている兵士がそう言う。軍曹はそれを聞いて怒鳴りつけた。


「馬鹿野郎!油断すんじゃねえよ!!」


「す、すみません……」


ラインハルトは特にその様子に反応するわけでもなく静かであった。


「中尉殿、やけに落ち着いておられますが何か心配事でも?」


ラインハルトが黙り込んで考えるときは、何か不吉な事態が起こる節があった。軍曹はそれに勘付いていたのだ。


「いや、大丈夫。大丈夫だと思う……」


「?」


軍曹は少し、不安な気持ちに包まれた。







プシェムィシル要塞群と一定の距離まで近づいたラインハルトたちは、敵に見つからないように都市の周辺の森林に潜伏していた。

要塞を攻略するために準備されていた臼砲がゆっくりと運ばれてくる。


「えっと、ここからだと……」


ラインハルトは自分達の位置と、最初に攻撃する要塞の距離を地図で確認して砲撃の準備を行う。臼砲の威力は凄まじいので、弾が当たれば、要塞のコンクリートなどは容易に破壊することができる。ロシア軍にバレずに先制攻撃を行うことができれば、ドイツ軍の勝機は十分にあった。


「中尉殿、こちら準備完了いたしました!」     「こちらもです!」


「うん、わかった。待って、最終確認が必要だ」


ドイツ軍が攻撃の準備をほとんど終えていたその時だった。


「うわあああ!!!」    「誤爆か!!?!」    「違う!!敵の砲撃だ!!!」


ラインハルトの近くで物凄い轟音と共に味方の叫び声が聞こえてきた。


「まさか……」


ラインハルトたちドイツ軍は、敵に位置がバレていたのだ。砲撃はおそらく要塞から行われていた。


「くっ……!!甘かったか!!!」


ラインハルトたちは不意の攻撃で混乱状態に陥った。


「あ、あ、俺の腕……」      「脚があああ!!!!」    「嫌だぁぁぁぁ!!!」


「お前たち、落ち着け!!!落ち着け!!!」


他の上官が、錯乱状態の兵士たちを宥めようとするが、全く意味がない。攻撃される恐怖というのは如是(かくのごとく)恐ろしいものなのだ。


「中尉殿!!ここは撤退しましょう!」    「じゃあ、大砲はどうするんですか!?すぐには運べませんよ!」


ラインハルトのそばで兵士が口々に言い合う。このままだと敵の砲撃に晒され続けるのは間違いなかった。だからと言ってすぐに撤退をすれば、重い臼砲を置いていかなければならない。

ラインハルトは鉄の雨の中、急の決断を迫られていた。


「あれ、砲撃が止んだぞ……」


誰かがそう言った。確かに、砲撃がピタッと止んだ。


「よし!今が好機だ!!反撃しよう!!」


味方は、はやる気持ちを抑えきれずに対抗砲撃を始めようとする。ラインハルトはそれを焦って止めた。


「ちょっと待って!!まだ、わからない!!状況を整理しなくちゃ!!」


「中隊長殿!!そんな猶予はありません!!どうか、砲撃許可を!!」


ラインハルトと中隊の兵士が押し問答をしている最中、また別の音が聞こえてきた。それは地響きとして、ドイツ兵たちの耳に入ってくる。心拍数が跳ね上がり、不安が襲ってくる。

ーーラインハルトは、それを初(・)陣(・)の(・)時(・)に聞いたことがあった。


「まさか!!!」


ロシア軍騎兵部隊の突撃であった。戦争が塹壕戦に移行しつつある現在の状況において、騎兵突撃は久しぶりのものであった。


「なんだ、あれ!!」   「こっち来るぞ!!」   「大砲!!大砲!!!!」


この騎兵突撃というのはやはり脅威的であった。真正面で捉えてこれほど恐ろしいものはない。ラインハルトは、自分の目の前で死んだミヒャエルの姿が蘇った。


「そりゃあ、怖いよな……」


ラインハルトはそう漏らすと、大きく息を吸い込んで叫んだ。


「みんなぁぁ!!聞けぇぇ!!撤退だ!!大砲は置いていく!!今すぐ撤退しろぉぉ!!」


その指示を皮切りにドイツ軍は一斉に後方に逃げ出した。ラインハルトもとにかく走った。


「中尉殿!!我々は今、非常に情けないですな!!!」


隣を走る軍曹が笑いながら叫ぶ。


「うん!恥ずかしいぐらいに情けない!!でも……!!」


ラインハルトはさらに大きな声で叫ぶ。


「情(・)け(・)な(・)く(・)っ(・)た(・)っ(・)て(・)、僕(・)は(・)必(・)ず(・)こ(・)こ(・)を(・)攻(・)略(・)す(・)る(・)!!!!」


そして、生きて帰らなければならない。それがアグネスとの約束であった。

ラインハルトは息も絶え絶えで走る。軍曹はラインハルトの方をちらっと見て言った。


「中尉殿、安心しました!後は任せます!!」


「え?」


軍曹はそう言うと突然止まり、MG08重機関銃を担いで必死に走る兵士に近寄った。


「おい、俺と一緒に死んでくれるな!?」


「喜んで!!!」


敵兵がすぐそばまで来ている状態で軍曹は、重機関銃を準備しだした。

ラインハルトは必死で叫ぶ。


「軍曹!!何をしているんだ!!早く逃げよう!!!」


軍曹はにっと笑顔を見せて言う。


「中尉殿、あなたはこんなところで死んではならない方だ!あなたがいればドイツは勝てる!!」


そして、重機関銃の狙いを敵に合わせる。


「アグネスちゃんとお幸せに……」


ラインハルトは、今までずっと自分を支えてくれた軍曹を一緒に連れていこうと逆走したが、他の兵士に止められ無理矢理引っ張っていかれた。


「ぐんそおおおおお!!!!」


ラインハルトは重機関銃を連射して敵兵を次々と撃ち抜く軍曹の背中に向かって、ただ叫ぶことしかできなかったーー。

読んでくださりありがとうございます。次の作品が投稿され次第、ぜひ読んでいってください。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。