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託された命

無茶な運転はしないように。君が救う命は僕の命かもしれないんだから。


     ジェームズ・ディーン(1931-1955)

「報告いたします!敵は予想通り、西側の森林にて潜伏していたところ、味方の砲撃および騎兵突撃によって撤退しました!」


「おお!」


プシェムィシルを守るロシア人将校たちは歓喜の声を上げた。イロフスキーもまた例外ではなかった。


「やったか!大砲はあったか?」


「はい!撤退したドイツ軍の後には放置された臼砲がいくつかあったので鹵獲いたしました」


「よし!」


イロフスキーはラインハルトがいるという確信を得た。

だが、彼は冷静さを欠かなかった。表情はすぐに引き締まる。


「だが、油断はするな。相手はおそらく『ラインハルト・シュライザー』だ。何をしてくるかわからない」


「わかりました!」


ロシア軍の作戦部は活気付いた。ドイツ砲兵隊を撃退するのは、誇張を抜きにして大戦果と言える程度にはなっていた。彼らの中には希望が見えた。


(シュライザー、来い……。必ずお前を討ち取ってやるぞ……!)











一方のドイツ軍側は沈んでいた。敵に背を向けて逃げたことは彼らの自尊心を傷つけた。

また、怪我人も少なからず出ていた。敵の砲撃で体を欠損したものや精神に異常をきたしたものは後方へと送られていった。


「シュライザー中隊長、この度は残念であります……」    「お気を確かに……」


ラインハルトと共に撤退してきた兵士は黙り込むラインハルトに気を遣った。この作戦を指揮しているのはラインハルトである。したがって、ラインハルトの作戦が崩された今、誰もが絶望していた。


「なあ、プシェムィシル落とせるかな……?」


「わからねえ。でも、ロシア軍の攻撃は正直、怖い……」


ロシア軍の誇る騎兵部隊によってドイツ軍兵士の心は挫かれていた。


ラインハルトは逃げた先の野原で座り込んで休んでいた。もうすっかり暗くなってしまった空を見て、星々を眺める。


ーー軍人には死ぬと知っていても戦わなければならないときがある。まして、自分の死で仲間を勝利に導けるのなら本望だーー


ラインハルトはエドゼルの言葉を思い出した。エドゼルはタンネンベルクの戦いの時、自分の命と引き換えにドイツ軍の勝利に貢献した。


ーーあなたはこんなところで死んではならない方だ!あなたがいればドイツは勝てる!!ーー


ーー絶対に生きて帰ってくることーー


ラインハルトの頭の中には、自身の身代わりとなって死んだ軍曹や自分の帰りを待ってくれているアグネスの姿がよぎった。


「エドゼル大佐……、軍曹、アグネス……」


ラインハルトは大きく息を吸うと、勢いよく立ち上がった。そして、ドイツ騎兵部隊の将校たちのもとへと向かった。





「お願いがあります」


「なんだろうか、シュライザー中尉」


ラインハルトは騎兵部隊の将校たちに会うと早速依頼を願い出た。

砲兵隊所属のラインハルトであったがマッケンゼンから、騎兵部隊のある程度の指示は許されていた。


「私と共にプシェムィシルに攻め込んでほしいのです」


「は?」


騎兵隊の将校たちはどういう意味かわからなかった。


「中尉殿、具体的に教えてくれないか?」


「はい。つまり、騎兵部隊による突撃を敢行します」


「それは、相手の砲撃の格好の的になるのではないか?」


「いえ、懐に飛び込むのです」


ラインハルトはプシェムィシル要塞群の内部に騎兵のみで侵入し、相手の砲撃から身を守る策を考えた。


「ふむ、だが敵騎兵はどうする?奴らは強いぞ……?」


ラインハルトは凛とした目で将校たちを見つめる。将校たちは少し、威圧された。


「お言葉ですが、申し上げます。あなた方は誇(・)り(・)高(・)き(・)ド(・)イ(・)ツ(・)騎(・)兵(・)です。敵が強いからといって引くのですか?」


将校たちは不機嫌な顔をした。騎兵でもないラインハルトに言われて少し腹が立ったのだ。


「中尉、我々を愚弄するのか?我々が言いたいのは、無謀な作戦には……」


「私は死ぬと分かっていても、戦わなければならない時があるのを知っています。まして、自分の死で味方が勝利するなら本望であります」


将校たちは黙った。ラインハルトの圧に押された。


「そして、私が先頭を走ります。馬の乗り方は少しだけ習っています」


「貴官が先頭を!?」


「はい。多くを犠牲にするかもしれないこの作戦で、立案者である私が後方にいるなんておかしな話です」


将校たちは顔を見合わせ、お互いに少し悩んだが一人がふっと笑った。


「ふふっ、分かったよ、シュライザー中尉。やろう。君より我々の方がよっぽど長く軍人なのに、どうして我々の方が死ぬのを恐れて出陣しないでいられようか。なあ、そうだろう、みんな?」


将校たちは笑いながら頷いた。彼らはやる気になったのだ。


「ありがとうございます!」


「いいんだ、シュライザー中尉。それと先頭はさすがにやめてくれよ?君が一番に死んだら困るのはドイツ軍だ」


「あ、はい」


ラインハルトは自分がいかに期待されているかを自覚した。


ラインハルトは他の兵士たちと離れた場所に行き、夜風にあたる。


(エドゼル大佐、軍曹、あなた方のおかげです。アグネス、ごめん。約束を守れるかわからないよ……)


ラインハルトは命懸けの反撃に出るーー。

読んでくださりありがとうございます。次の作品が投稿され次第、ぜひ読んでいってください。

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