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戦争と大義

殺人には四種類ある。すなわち、重罪のもの、やむを得ないもの、正当化できるもの、そして、称賛に値するもの。


   アンブローズ・ビアス(1842-?)

「撃て!!」


轟音が鳴り響き、大地は揺れる。木々にいた鳥たちは驚いて飛び立っていく。アグネスはその様子を見て、少々申し訳なくなった。


(ごめんなさい、鳥さんたち……)


アグネスはいつもラインハルトの後ろから眺めていた光景を、今は自分が前に立って見ている。ラインハルトと共に体験した砲撃訓練や彼から教わった弾道学、そして直感をもとに指示を出していく。


「装填は焦らなくて大丈夫です!敵との距離はまだ余裕があります!」


普段はラインハルトの口から指示を受ける兵士たちも今回ばかりは耳が心地良かった。アグネスの透き通るような声は戦場に舞い降りた天使のようであった。


「えーと……」


「大丈夫だよ、アグネス。計算に焦りは禁物だ」


「は、はい!」


そして、アグネスにとってはラインハルトの存在が何よりもの安心の源であった。








「アグネス、初めての戦闘はどうだった?」


「はい、最初は緊張しましたが、なんとかやりきれました」


アグネスは自信に満ちた表情で答えた。その屈託のない笑顔は戦闘後とは思えないものだった。

ラインハルトはその表情を見て安心した後、今度は一転、暗い顔をした。


「僕は君に一つ聞き忘れていたことがある……」


「なんでしょうか?」


アグネスは不安になった。


「砲撃は敵から距離の離れたところでやるから実感はないかもしれないが、僕は間違いなく君に『殺人』を依頼してしまった……。ごめん……。やりたくなかったらもうしなくていい」


アグネスはそう言われてはっとした。確かに塹壕で撃ち合うよりかはよっぽど間接的ではあるが、砲撃は敵兵を木っ端微塵にしている。アグネスはそれを想像して、背筋がぞっとした。

しばらく、二人の間で沈黙が起こる。だが、アグネスは一つの結論に辿り着いた。


「考えてみれば、私は恐ろしいことをしました。人を殺してしまいました。でも……」


ラインハルトは暗い表情のままでいる。アグネスは続ける。


「こうも考えました。もし、私や中尉殿、それにドイツ軍のみんなが敵を殺すことを躊躇して、武器を捨てれば、我が国の人々はもっと苦しみます。だとしたら、私一人が敵を殺すことに怖気付くよりも、私はドイツを守るため国の人たちが敵を殺す事になる前に敵を退けたいです」


ラインハルトはアグネスの真っ直ぐな眼差しを見て悟った。

この純真爛漫な少女は、決してこの泥沼の戦争で汚れることはない。決して汚してはならない。


「アグネス、ありがとう。そう、君は国を守るために戦っている。無闇な殺人は犯してはいない」


ラインハルトはアグネスと共に、武(・)器(・)を(・)取(・)っ(・)て(・)戦(・)う(・)覚(・)悟(・)ができた。










「なあ、お前さん。狙撃の腕はどこで学んだんだ?」


「ラインハルト暗殺」の一命を受けたオホートニクは一人静かに夜食を食べている。オホートニクは全身を布で覆っており姿がはっきりしない。顔もフードで隠している。


「けっ、愛想のねえ奴だな」


オホートニクに質問を投げかけた兵士は不機嫌そうに吐いた。

オホートニクの存在は軍の中でも浮いていた。狙撃の腕が将校に気に入られ、主要な敵兵の暗殺を担当したりしている。だが、それはロシア軍の内部では敬遠されることであった。

実際、食事中の今も事情を知って近寄ってくる兵士はいない。

ラインハルトの命を狙う存在は近づいていたーー。

読んでくださりありがとうございます。次の作品が投稿され次第、ぜひ読んでいってください。

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