初めての戦い
かけがえのない人間になりたいのなら、人と同じことをしてちゃだめよ。
ココ・シャネル(1883-1971)
「アグネス、ちょっと」
ラインハルトは事務処理を行っていたアグネスを呼んだ。
「はい、なんでしょうか?」
「君に一つ提案がある」
「?」
アグネスは首を傾げた。かしこまった雰囲気がして、アグネスはすぐに姿勢を正した。
「君に砲撃の指示をしてもらおうと思うんだ」
「はい?」
アグネスは耳を疑った。自分が砲撃の指令など、到底想像もできなかった。
「言っている意味がよくわかりませんが……」
「うん、まあそうだろうね」
ラインハルトは予想通りという風に反応した。
「君は君自身が思っているより実力がある。僕のもとでしっかり働いているからだと思う。本当なら後方支援だけをやらせるつもりだったんだけど、君なら僕の砲兵隊を任せてもいいかな、と思ったんだ」
「あの、えっと……」
アグネスは嬉しかったが、責任の重大さを考えると素直に喜ぶことはできなかった。
そして、最も問題視されるであろう事について言及した。
「私は女です…。いいんですか?」
アグネスは女性指揮官という立場に不安を抱いた。男ばかりが戦うこの戦場で、女である自分に居場所はあるのだろうか、という不安が彼女を包んだ。
だが、ラインハルトはきょとんとした。
「僕は君の意見を聞いているんだよ、アグネス?他の兵士が君をどう思おうが、君の力は君自身が発揮すればいいじゃないか」
アグネスはその言葉を聞いて、決断した。
「わかりました、やります!」
「はっはっはっ!面白い!やってみよ!」
ヒンデンブルクはラインハルトからの電報を受けて大きな笑い声を上げた。電報の中には、「アグネス・フォーゲル」という女性を砲兵指揮官として実戦に向かわせる旨が書いてあった。
ヒンデンブルクはルーデンドルフの方を見て、聞く。
「ルーデンドルフ君、ラインハルト・シュライザーという男は面白い人間なのだな!」
「ええ、それはもう」
ルーデンドルフは相変わらず、様々な書類や地図を見ている。
「君も異論はないな?」
「ええ。ですが、あの『犯罪者』はどう思うでしょうか?」
「奴か……。気にする必要はない。私が許可する」
ーーこの二人とファルケンハインは険悪であった。
「えっと……。皆さん、本日はよろしくお願いします!」
アグネスは緊張で震えていた。周りの男たちは屈強な男たちばかりである。
「へー、あの話本当だったんですね。中尉殿」
軍曹が驚いた表情で言う。
「うん。でも、アグネスは力がある。大丈夫」
アグネスは俯いて、手をもじもじさせている。その様子は男たちの頬をぽっとさせた。
「もし、何かあっても僕が補佐にまわるし、みんなも補佐してほしい!」
「はい!」
アグネスの初めての戦いが始まろうとしていた。
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