スパルタクス団
頑固な人には、自ら招いた難儀がいちばんよい教師になるにきまってます。
ウィリアム・シェイクスピア(1564-1616)
「あなたたち!私を連れ去ってどうするつもり!?」
「連れ去る……?」
ケリーはベルリンのひっそりとした所にある建物に連れてこられた。そこには数人の男女がなにかしらの作業に徹している。
ケリーの言葉を聞いて、メガネをかけた男が怪訝な顔をする。そして、ケリーを連れてきた者に問う。
「同志、このお嬢さんは勧誘に乗ってここに来たわけではないのかね?」
「あの……、それが……」
問われた男は申し訳なさそうに事の経緯を説明した。
それを聞いたメガネの男は怒鳴りつける。
「愚か者!!手荒な真似をしてどうする!?」
「す、すみません……」
ケリーはどういうことか検討がつかずにいた。
メガネの男が今度は優しい表情で話しかける。
「お嬢さん、私の同志がとんだご無礼をはたらき申し訳ありません。我々は決して、あなたに危害を加えるつもりではないのです」
ケリーは内心、ほっとした。この物腰の柔らかい男は話が通じそうである。
「だとしたら、私を解放していただけませんか?」
メガネの男は黙ったままである。ケリーは一転、不安になった。
沈黙の後、メガネの男がようやく言葉を発した。
「お嬢さん、あなたは今のドイツをどう見ますか?」
「はい?」
ケリーは予想だにしない返しに目が点になる。だが、男の表情はどこか真っ直ぐだ。
ケリーは仕方なく、自論を述べる。
「我が国はきっと、いや今後必ず敵国を撃破して栄えある勝利を手にすると思っています。そして、世界のドイツとして……」
「違いますね」
男はケリーの主張の途中で遮った。ケリーは思わず大きな声で聞く。
「違うってどういうことよ?!」
男は静かに答える。
「あなたは盲目だ。お嬢さん、あなたは帝国国民としての自分に誇りが持てますか?」
ケリーは苛立ちを覚えた。
「持ってるわよ!誇り高き帝国の、一国民としての誇りなんて誰よりもしっかり持っているわ!!」
「それは偽物だ。帝国など、ブルジョワが創り出した最悪の国家体制。あなたは悪しきブルジョワ共に騙されているのです!」
男は憐れむようにケリーを見る。だが、それは余計にケリーを刺激した。
「あなたに私の誇りのなにがわかるのよ!?人を勝手に騙された可哀想な人間扱いしないでくれる?!!」
ケリーがそう言うのも無理はない。なぜなら、彼女の父は、今まさに帝国軍人として戦っているのだから。
しかし、そんな事情をこの男が知る由もない。男の憐れむ表情は崩れない。
「お嬢さん、あなたには真実を見ていただかなければなりません。我々が目指す国家体制をあなたにも知っていただきたい。そうすれば、今の考え方も変わるはずです」
ケリーは恐怖を感じた。目の前のこの男は、頑とした態度でいる。さっきまでとは違い、何を言っても通じない気がした。
(ラインハルト……、助けてよ……)
ケリーは涙で目が潤んだ。
その時だった。部屋の外が少々騒がしくなった。
「おい!誰だ、お前は!?」 「おい!待て!!」
外で誰かが怒鳴っている。部屋にいた一同は声のする方のドアを凝視する。
バン!!!
ドアが勢いよく開く。
「ああ、ラインハルト……!」
ラインハルトだ。ラインハルトが来たーー。
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