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ドイツ帝國に生きる  作者: 幽々夢 妖帝歌
帝都・ベルリン
37/105

謎の男

あるのはただ、前進してゆく力だけだ。その力を創造しなければならない。解決なぞ、そのあとで見つかる。


    アントワーヌ・ド・サン=テグジュペリ(1900-1944)


「……」


ラインハルトは床に崩れ落ちて肩を震わせている。彼はただ聞かれたことに対して丁寧に答えていたに過ぎないが、ケリーの誘拐はそれでも自身の責任として強く彼を押し潰した。


「ケリー……」


アグネスは、落ち込んでいるラインハルトをどうすればよいかわからなかった。

ビヤホール内は怪我人の処置で追われていた。重度の怪我を負った者たちはすぐに病院へと搬送されていった。

ラインハルトはしばらく舞台上でうずくまったままの状態でいた。ラインハルトを囃し立てた者たちは罪悪感に包まれた。


「中尉殿……」


アグネスはしゃがんでラインハルトの横につく。

場の空気は最悪だった。


「スパルタクス団だ」


アグネスは唐突に上から声が聞こえて、咄嗟に顔を上げる。

そこには広いでこに口周りの髭が特徴的な男が立っていた。


「あなたは……?」


アグネスは問う。だが、男はこう返した。


「私の名を聞くよりも先にやることがあるのではないか?」


ラインハルトは肩をぴくっと反応させる。そして、ゆっくりと顔を上げると言った。


「ケリーを……、連れ戻さなきゃ……」


男はラインハルトの正面にしゃがみこむと話を持ちかけてきた。


「ラインハルト君と言ったね。君の話、聞かせてもらった。非常に有意義な時間をありがとう」


男はそう言うとラインハルトの両肩に手を置いた。


「君の友人が連れ去られたそうだね。私は彼らの所在を知っている」


ラインハルトは目を見開いた。男はしっかりとラインハルトの目を見つめている。


「奴らはどこに!?ケリーは?!」


男は小声でラインハルトに場所を告げた。ラインハルトは直後に勢いよく立ち上がるとアグネスの方を見て言う。


「アグネス!君はここにいるんだ!いいね?」


「で、ですが……」


「いいから!!」


ラインハルトに怒鳴られてアグネスは萎縮した。こんなラインハルトは見たことがない。相当、切羽詰まっているのだろう。

ラインハルトは勢いよくビヤホールを出ていった。

アグネスは、先ほど男がぼそっと言った言葉を思い出した。


「あの……、スパルタクス団とはなんですか?」


男はアグネスの方を見ると小声で言った。


「お嬢さん、その名はあまり大きな声で言わないでほしい。スパルタクス団というのは……」


男は止まった。アグネスは妙だな、と思う。


「何か危ない団体なんですか?実際、誘拐していった者たちもその団体なのでしょう?」


男はおもむろに口を開ける。


「ふむ、この場で君に教えるのはあまり良くないかもしれない。すまないが忘れてくれ」


男はそう言うとすくっと立ち上がって、ビヤホールを後にした。

アグネスはその男が奇妙で仕方がなかったが、とにかくラインハルトとケリーの無事を祈ったーー。

読んでくださりありがとうございます。次の作品が投稿され次第、ぜひ読んでいってください。

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