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ドイツ帝國に生きる  作者: 幽々夢 妖帝歌
クリスマスの贈り物
21/105

予想

チャンスは、あなたに素晴らしい成功を授ける少し前に、逆境であなたの勇気を試すのです。


    ナポレオン・ヒル(1883-1970)

「寒いですなぁ、隊長…」


「そうですねぇ、冬の進軍は厳しいものです…」


ラインハルトたち砲兵中隊はハイデル村へ向かって行軍中であった。防寒具は万全の状態であったが、寒いものは寒いのだ。一行は時折、腕を摩りながら進んでいった。

対してアグネスはさほど寒そうにしてはいなかった。


「アグネス、平気かい?」


「平気よ。前に一人で歩いてきた時に比べればね」


アグネスはけろっとしている。ラインハルトは大したものだと感心した。

数十人での行進はしばらく続いた。冬の平原は真っ白な雪に包まれ、幻想的であった。平野に見惚れながら歩いていると、アグネスがラインハルトの袖を引っ張った。


「あそこの森。あそこを抜ければ、村に出る」


緩んでいた気持ちは一気に引き締まった。あの森の向こうに敵が潜伏している。緊張が襲ってくる。

ラインハルトは一度行進をやめて部隊に伝達した。一同も緊張で顔がこわばる。


「それじゃあ、行くよ!」





森の中はうっすらとしか日光が差さない薄き気味悪いところだった。木の上には雪がたっぷりと積もっている。地面に堆積している雪はラインハルトたちの膝まで飲み込む。実に進みにくい様子だ。


(予想はしていたけど、これだと少し厳しいな…)


ラインハルトは内心、焦った。自然に阻まれては、もはやどうしようもないことであった。


どれくらい歩いただろうか。森は一向に終わりが見えない。自然の迷路に迷い込んだようだった。

薄気味悪さが余計にラインハルトたちの不安を掻き立てる。兵士たちは頼みの綱のGew98をしっかりと握っている。


ボフッ!


「うわあ!!」


「どうした!?」


一同は一斉に銃を構える。驚いた兵士は音が聞こえた方を銃口と共に見る。


「なんだ…。雪が落ちただけか……」


ただの落雪であった。一同は安堵した。

だが、ラインハルトはその時に違和感に気がついた。


「あれ?アグネスは?」


その時だった。四方八方から銃の発射音が聞こえてきた。


「伏せろ!!敵襲だ!!!」


「あっ…!!」    「…!!?」


数人は鮮血と共に雪の中に沈んでいった。

弾をかわした兵士たちはうつ伏せになって応戦する。激しい銃撃戦が展開された。


「敵はどこだ…?」


ラインハルトは敵の姿を必死で探す。暗い森の中から放たれてくる弾はまさに見えない敵からの攻撃であった。


「どこだ!?」


ラインハルトが銃を構えて、見えない敵を必死で探していたとき、突然体の上に今まで感じたことのないような重圧を感じた。


「!!?」


ラインハルトの意識は遠のいていったーー。






「ん、ん〜…」


ラインハルトは目を覚ますとあたりを見回した。


「ここは…?」


見たところ、木造の建物の中にいるようだった。自身の体は椅子の上に縄できつく縛られていた。

目の前には、見知らぬ男たちがいる。そして、アグネスも…。


「…」 「……?」


男たちはドイツ語ではない言語を使っている。間違いなく、ロシア語だ。


(そうか。捕まったのか…)


ラインハルトは自身の置かれている状況を理解した。

すると、目の前にいた指揮官風の男がラインハルトに語りかけてきた。


「まんまと引っかかったようだね」


「!!」


ラインハルトは驚いた。相手はドイツ語で話しかけてきたのだ。


「なぜ、ドイツ語を?!」


「敵の言語を知っていると何かと便利なものでね」


その男はいかにも知識人のような顔つきをしていた。


「僕と一緒にいた兵士たちは?」


「生きて捕らえた者は、村人と同じように人質にさせてもらったよ」


ラインハルトは少し安堵したが、討死した仲間のことを思うと酷く罪悪感にとらわれた。

ラインハルトはここで一番気になることを問うた。


「アグネスを利用したのか?」


そばにいたアグネスはビクッとする。


「人聞きの悪い言い方はやめてくれたまえ。私はドイツという侵略国からこの村を解放するために彼女に協力してもらっただけさ」


ラインハルトは歯を強く噛む。男は気にせず続ける。


「君は勘違いをしているようだが、このお嬢さんは自ら我々に協力してくれたのさ」


ラインハルトは男を睨む。


「ふうむ…。いけすかないねぇ、その顔。君を今すぐ拷問して、これからのドイツ軍の動きを知りたいところだけど、運がいい。これから我々は夕食をとる。君の尋問はその後にしよう。それでは後ほど」


男はそう言って小屋にいた兵士たちを連れて出ていった。中にはラインハルトと銃を持ったアグネスだけが残っている。

ラインハルトはアグネスに言った。


「気にしないで。最初から奴らに利用されていたのはわかっていた」


アグネスは呆気にとられたまま返す。


「気づいていたの?」


「うん」


「いつから?」


「君が僕の露営地にいた時からさ」


アグネスは目を見開いた。


「君がこの地を、戦略的に重要ではないって断言した時点で変だと思った。なぜ、そんなことがわかるのかってね。その後、執拗に僕の作戦を聞き出そうとしてきたことも怪しかった。もう少し、バレないようにしなくちゃね」


ラインハルトはニコッと笑ってみせた。


「どうして?なんで、騙されているって分かりながら私を放っておいたの?国の裏切り者なんだよ?!」


ラインハルトは一瞬、間をおいてから答えた。


「これは僕の憶測に過ぎないんだけど、きっと君が村を救うために奴らの言いなりになったのかなぁ、と思ったんだ。だから、あえて乗った」


アグネスは何も言えなかった。目の前の男の懐の深さに言葉を失った。

ラインハルトは首を一度、ぐるっと回すと言った。


「さあ、アグネス。今がチャンスかもしれない。村を救おう」


アグネスはこの状況のどこにチャンスがあるのか理解できなかったが、意図せず首を大きく縦に振った。

読んでくださりありがとうございます。次の作品が投稿され次第、ぜひ読んでいってください。

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