救出の機会
チャンスは準備のできた者だけに微笑む。
ルイ・パスツール(1822-1895)
「アグネス、外の状況を窓から見てほしい。見えるだろうか?」
アグネスは曇った窓を手で拭いて外の様子を伺う。
「ん〜、ちょっと見えにくいけど、ほとんど兵士はいないみたい。おそらく食事中。あ、でもみんなが囚われている建物の前に見張りの兵士がいる!」
ラインハルトは続けて問う。
「アグネス、ロシア兵の食事時間はどれくらいかわかる?」
「えっと、二日分しか知らないけど、大体30分くらいかしら」
(30分か…。あと、20分弱くらい…)
ラインハルトは即決した。
「よし、賭けだ!アグネス、僕の縄をほどいてくれ。でも、見た目は縛られたままの状態で。その後、見張りの兵士を連れて来てほしい。出来るかい?」
アグネスは頷くとラインハルトの縄を緩めた。そして、外に出る。外は遠くから騒ぐ声が聞こえてくるだけで、あとは静かであった。
アグネスは見張りの兵士に接近する。
「?」
見張りの兵士はアグネスを見て怪訝な顔をした。ドイツ語が通じない相手だからなんと言って連れてくればいいか、アグネスにはわからなかったが、とにかく身振り手振りでラインハルトのいる小屋に来るよう伝えた。
(来た…)
ラインハルトは椅子に座ったままドアを見る。兵士は確かにアグネスと共に入ってきた。
兵士はラインハルトの前で足を止めた。
「…?」
ロシア語で話しかけられたその時。
「!!?」
ロシア兵の首から血が飛び散る。ロシア兵は何が起こったか理解できなかったが、自分の首が掻き切られたのがわかった瞬間、混乱に陥った。
「アグネス、見ないでよ」
そう言って、ラインハルトは続けて首に銃剣を突き刺す。
ドサッ!!
ロシア兵は倒れ伏した。
「さあ、衣服を借りるか。ちょっと血が付いてるけど多分大丈夫かな、アグネスは…」
ラインハルトがアグネスを見ると、様子が変だった。呼吸が整っていない。
「アグネス…、見てはダメだって言ったのに…」
アグネスの表情は暗くてよく見えなかったが、動揺しているのは明らかだった。
ラインハルトは立ち上がると、アグネスに近づいた。そして、ぎゅっと抱きしめた。
「勝手にこんなことされるのが嫌だったらごめん。でも、一番安心するって聞いたから」
「…」
アグネスは黙っていたが、少しずつ呼吸が整っているのがわかった。
「……ありがとう」
「うん」
ラインハルトは死人から服を剥ぎ取り、変装をした。
「これならいけるかな。アグネスはここでじっとしていて」
ラインハルトはそっと出て、声のする方を見にいく。そこには数十人規模の兵士たちが食事をしていた。
(なるほど、この人数なら…)
「…?」
ラインハルトは背後からロシア語で声をかけられてビクッとした。まだ、顔は見られていない。
(まずい…!どうする!?)
絶体絶命だった。だが、ロシア兵はそれ以上何も言ってはこなかった。そして、食事をしている者たちの輪に混ざりにいった。
(あ、危なかった…)
ラインハルトは安堵した。そして、次にすべきことのために行動する。バレるまでもう10分ほどしかない。
ギィ…。
ラインハルトは人質のいる建物のドアを開ける。中には拘束された老若男女の村人と軍服を着た兵士たちがいる。
「なんだ!?」
軍服を着た兵士が叫ぶ。村人たちは怯えている。
「しーっ!僕だよ!僕!ラインハルトだ!」
「中尉殿!?」
兵士たちは喜びの表情を浮かべる。
「ご無事でしたか!」
「時間がないから、今から言うことをよく聞いて!」
ラインハルトは数人の兵士の拘束を解く。そして、手短に救出作戦を説明した。兵士たちはそれをすぐに理解してくれた。
「さあ、奪還するよ!」
ラインハルトは外に出たーー。
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