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ドイツ帝國に生きる  作者: 幽々夢 妖帝歌
タンネンベルク
15/105

ラインハルトの勝負

よく準備してから戦いに臨めば、半ば勝ったも同然だ。


     ミゲル・デ・セルバンテス(1547-1616)

「有刺鉄線?」


「はい。有刺鉄線を使えば、木材を組み立てて柵を作るよりも簡単ですし、砲撃にもある程度は耐えうります」


ラインハルトはロシア軍が攻めてくる可能性のある場所を視察していた。そこには有刺鉄線の防壁が出来上がっていた。


「なるほど。有刺鉄線か…。便利なものだ」


作戦立案の当の本人は有刺鉄線の存在を知らなかった。だが、木材よりも有効であるから採用はすぐに決められた。


ホフマンはロシア軍の攻勢の最中も継続して盗聴を続けた。ルーデンドルフら作戦部は最初は、盗聴内容を信用しきれずにいたが、それも数日のうちだけであった。ラインハルトの作戦は実行に移され、ドイツ第八軍の大半が列車によって、東プロイセン南部へと向かった。


   8月26日 早朝


「今日の気候、この地形…。砲撃態勢はこれで…」


ラインハルトは毎日、大砲の確認を怠らなかった。その数は一人で確認するには多すぎるとも言えたが、高確率で敵に命中させられるのは、今や彼ぐらいであったから、砲兵たちも彼の指示を頼りにしていた。


「シュライザー少尉、師団長殿がお呼びです。緊急とのことです」


(来たか…)


ラインハルトは、第一軍が動き出したと直感的に感じた。

実は第八軍がこの作戦を成功させるには、もう一つ重要な条件があった。それは、第一軍が迂回をせずに西進してくるというものだった。万が一、第一軍が南寄りの迂回進軍をしてきた場合、ドイツ軍の南部移動部隊にぶつかり、さらに騎兵第一師団が南から攻め込まれる可能性があったからだ。


作戦室に着くとラインハルトの席が準備されていた。ラインハルトが着席すると、師団長は告げた。


「本日、ロシア第一軍が動き出したとの情報があった」


一同は固唾を呑んだ。西進か迂回かーー。


「第一軍は、第二軍とは連携を取らず、西進。つまり我々の方へと向かってきた」


「おお!!」


一同は声を上げた。最初の賭けに勝ったのだ。師団長は告げる。


「これより我々は、味方が第二軍を撃破するまでの間、遅滞戦術を断行する!!」


一同は緊張に満ちた表情で頷くと、すぐに持ち場へと向かった。

大佐が退出しようとするラインハルトの近くに寄ってきて言った。


「取りこぼした敵騎兵は我々が討ち取る。肩に力を入れすぎるな」


ラインハルトは驚いた。先日まで険悪な関係にあった相手から励まされるとは思っていなかった。ラインハルトは軍人が私(・)怨(・)で動く人間ではないのだと感じた。

彼は大きく頷き、戦場へと向かう。




手汗が止まらなかった。初陣とは違い、今度の戦いはほとんど自分の判断によるところが大きかったからだ。

少尉が担当できるのはせいぜい小隊ぐらいであった。だが、今回は特例として砲兵たちに指示を出す権利を得ていた。

もちろん、全ての砲台を自分で管理するのは不可能であったから、ラインハルトのノートをもとに指示書も配られていた。ラインハルトよりも階級の高い人間はその緻密な指示に舌を巻いた。


ラインハルトは有刺鉄線の張り巡らされた平野を双眼鏡で監視する。味方の騎兵は少なめの兵数で配置されていた。これは鉄線の間に逃げ込む時に渋滞しないため、また兵力温存のためであった。


(来た…)


遠くより多くの影が見えた。第一軍の騎兵部隊の進撃で間違いはなかった。グンビンネンの戦いよりもはるかに多い数であった。


「砲撃の準備を開始。私の指示があるまで決して撃たないように!!」


砲兵部隊はすぐに砲撃準備に取り掛かる。


ワアアアア!!!!!


敵騎兵の勇ましい声が大地に響き渡る。距離を置いて眺めると、それは壮大な光景であった。だが、見惚れている場合ではなかった。ラインハルトは、絶好の機会をうかがって、じっと待っていた。

味方騎兵が敵兵を煽るように動き回ると見事に敵兵は食いついた。味方騎兵は、急いで有刺鉄線の合間へと走り込む。

ラインハルトは味方に絶対に当たらないように見定める。


「A部隊、砲撃開始!!」


物凄い轟音が鳴り響く。砲煙が立ち込める。

ラインハルトは着弾までの数秒間、拳を強く握りしめていた。


ズドオオオオン!!!


地面が抉られ、土煙が上がる。

ラインハルトは双眼鏡で着弾地点をしっかりと確認する。


(第一地点、命中。第二地点、失敗。第三地点…)


「B部隊、砲撃用意!!A部隊、装填用意!」


ラインハルトは命中具合を見ながら、砲撃の機会をうかがう。

ロシア軍は次々に雪崩れ込んでくる。ラインハルトは土煙が消える前にすぐに次弾を発射させた。

A,B,C部隊に分けられた砲兵部隊は連続して砲撃を繰り返した。

有刺鉄線を無理矢理突破しようとする騎兵もいたが、Gew98の餌食となっていた。

連携は今の所完璧とも言えた。


「あそこの有刺鉄線、破損しそう…。突破されるか…」


ラインハルトは砲撃のずれによる防壁の破損を気にしたが、敵兵がそこから攻めてくる様子は見当たらない。

ラインハルトは一度砲撃を停止して、敵の動きを確認する。


敵兵が去っていくのが見える。


「撤退した…?」


ラインハルトは敵の攻撃の第一波を防ぎきった。戦場には敵兵の遺体が散乱している。

ラインハルトは気持ちを切り替えてすぐに指示を出す。


「みなさん!大砲の手入れをお願いします!敵は間髪入れず、再度攻撃してくる可能性があります。また、有刺鉄線の再配置もお願いします!一部、破損しています!」


騎兵第一師団の準備は迅速であった。攻撃前の態勢がすぐに仕上がっていく。

途中、敵の砲撃があったが有刺鉄線に当たるものもあれば外れるものもあり、さほど被害はなかった。


「さあ、来るならこい…。仲間達の仇、取ってやる……」


ラインハルトは己の闘争心が激しく燃え上がっていることに気づいていなかった。今までの人生でこれほどの熱い感情に包まれたことはなかった。

すると、後ろから手をかけられた。大佐であった。


「熱くなりすぎるな。己を鼓舞するのは直接、敵とぶつかる我々だけでいい。お前は冷静に砲撃を行え」


「……」


ラインハルトは言葉を失った。またしてもこの大佐に助言をもらってしまったからだ。大佐は砲兵たちをざっと見ると、また前線へと戻った。


(わざわざ、僕を見に?)


ラインハルトはそう思ったが、深く考えずに作業にもどる。



午前中、騎兵第一師団は見事に敵の進撃を防ぎきった。ロシア軍は幾度か大軍による実力突破を図ったが、ラインハルトの砲撃にさらされ、運よく突破できても後方待機のドイツ騎兵が討ち取った。




「乾杯!!」


夜になって、砲兵たちは哨戒をしながらも宴を催した。


「いやぁ、新人少尉殿は恐ろしい方ですなぁ。百発百中!」


軍曹が茶化す。ラインハルトは焚き火を見つめながらずっと動かずにいた。その様子を見て、さらに周りの兵士が冗談を言う。


「少尉殿は今度は、焚き火に弾を撃ち込むおつもりで?」


周りはどっと笑った。

ラインハルトはピクリともしない。


(……)


「少尉殿?」


ラインハルトの側にいた兵士が心配して声をかけた。ちょうどその時、ラインハルトは、はっとして声を出した。


「しまった!夜襲か!!」


「へ?」


兵士たちは腑抜けた声を出したが、ラインハルトはすぐに作戦室へと向かった。



その数分後ーー、平野の奥から騎兵突撃の音が聞こえてきたーーー。

読んでくださりありがとうございます。この戦いは実際の資料をもとにした訳ではなく、作者の創作によるものが殆どです。どうか、そこは把握願います。

次の作品が投稿され次第、ぜひ読んでいってください。

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