4月27日(土):魂送り②
両陛下に続き、カイル様にエスコートしていただいてホールに入る。
ストラリズの記事のせいか最初は嘲笑のようなものが聞こえてきたけれど、それはすぐに収まった。
揃いの生地で作られたコーディネート、私の耳にはカイル様の瞳の色と同じイヤリング、いつも顰めっ面のカイル様の表情は穏やかだ。
記事に載ったらしい『アニー嬢を渋々エスコートすることになった』とは真逆の状況だ。
嘲笑は徐々に暖かい拍手へと変わっていったが、それが急にピタリと止んだ。
ユーリス様とベルリーナが登場したのだ。
場違いなベルリーナのドレスに会場がざわつく。
そのざわつきが自分への称賛だと勘違いしたのか、ベルリーナは周りに笑顔を振り撒き、軽く手を振る。
信じられない。
『楽しむことが死者への手向け』とはいえ、これでは主役である前聖女様の事を全く考えていない行為だ。
場の空気が悪くなったのを察したのか、司会役が楽団に音楽を始めるよう指示を出した。
いよいよファーストダンスだ。
ダンスはわりと得意な方とはいえ、今回のお相手は王族だ。
急に緊張が昂ってきて手が震えてしまったけれど、カイル様の優しい手に包み込まれた瞬間に嘘のように震えが治まった。
カイル様のリードはとても紳士的で、まるで何度も踊った事があるかのようにリズムに乗れる。
いつもは自分のステップや、人にどう見られているかと気にすることが多く、踊ること自体を楽しんでいなかった事に気付く。
あんなに楽しいダンスは生まれて初めてだった。
ファーストダンスが終わってから簡単な式典が始まった。
両陛下、カイル様が順番に参列者に向けて語りかける。
前聖女への手向けの言葉や参列者へのお礼など当たり障りない挨拶が続くなか、問題は起きた。
最後に壇上に上がったユーリス様のご挨拶だ。
「お祖母さまは生前よく言ってました。
『根拠のない噂話に惑わされてはいけませんよ』と。
最近、そんな根拠のない噂話がさも真実のように新聞に載っているそうですねぇ。
お祖母さまはさぞ天界で悲しんでおられることでしょう……」
わざとらしく落ち込んだ表情を浮かべるユーリス様の言葉に会場中がざわつきだした。
「今日のあちらの二人を見て、一部の噂が真っ赤な嘘だったということは、賢い皆様ならお気付きですね?」
そう言ってユーリス様は私とカイル様の方を向いた。
参列者の方から割れんばかりの拍手の音が聞こえてくる。
思わず隣にいるカイル様を見上げると「ほら、心配いらなかったろ?」と微笑んでくださった。
拍手がまばらになったのを見計らってユーリス様は言葉を続けた。
「僕や聖女選抜試験にまつわる噂もいくつかあるようですね。
最近は異世界からの聖女候補を貶めるような噂もあるとか」
『噂』=『ストラリズ』だとしたら、私とカイル様の事より、その話題の方がメインだ。
会場の空気が一気に張りつめた。
「異世界からの聖女候補は基本的に皆様の前に出ることはありませんから、どんな方なのかわからず、あのような悲しい噂が流れてしまうのでしょう」
どこからかペンを走らせる音が聞こえてくる。
一ヶ所二ヶ所どころではない。
何人もの新聞記者が会場に紛れていて、ユーリス様の言葉を聞き漏らすまいと書き留めているのだ。
おそらくその中にはストラリズの記者もいただろう。
「ちなみに異世界からの聖女候補はとても心優しい方なんですよ。
我々がこうしている今、その方はお祖母さまのために魂送りをしたいと、使用人たちと共に料理を作っています。
ということで……」
そこまで言うと、ユーリス様は「僕はそっちの魂送りに参加してくるので、皆さんはどーぞ舞踏会を楽しんでいってくださいねー」と言ってベルリーナを会場に置いて出口に消えて行ってしまった。
まさかの展開に会場は静まり返ったままになった。
こうなることを知っていたであろう国王陛下が前に出て、何事もなかったかのように「それでは宴を始めよう」と言うと、それを合図に楽団が音楽を奏で始めた。
カイル様が「もう一曲いいかな?」と声をかけてくださったので、そのお言葉に甘えることにした。
呆気にとられていた参列者も徐々に料理やダンスを楽しみだす。
カイル様が踊りながら「おそらくこれから一騒動ありそうだぞ」と耳打ちをしてきた。
カイル様の視線の先には、こちらを恨みがましい目付きで睨むベルリーナとアライザスの姿があった。
……さて、どうしたものかしら。
*****
「それにしても君はダンスが上手いんだな」
「カイル様のリードがお上手なんですよ」
「そうか? 私はあまり踊り慣れていないから、君が上手いのとばかり」
「では、わたくしたちのダンスの相性がよかったと言うことですわね」
「そのようだ。いつまでも踊っていたい気分だよ。……『アレ』さえなければ」
「……わたくしもそれを考えると頭が痛いです」
「私がなんとかあの二人に説明するが、君にも迷惑をかけるかもしれない」
「お一人で解決なさろうとしないでくださいまし。
わたくし、これでも『頼りがいのある女』といわれてますのよ」
「ははは! では、おおいに頼らせていただこう」
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