4月25日(木):ダイスケside①
聖女候補者と王族が試験中に二人きりで会うのは禁止ということで、僕とユリ君に付き合わなきゃいけないはめになった可哀想な人に会ってきた。
キリアン・ギガルという名のその人はユリ君の専属執事だ。
専属執事歴は二十三年。
つまりユリ君が産まれた時から彼に仕えているという訳だ。
背が高く痩せていて鉛筆のようなフォルム。
口にはカイゼル髭を貯えているので『THE執事』といった感じ。
どちらかというと冷たい性格っぽくて、第一印象は苦手なタイプだ。
髭のせいで年齢が高めに見えたけど、実年齢は僕と同い年で驚いた。
向こうもむこうで、老けている僕の年齢を聞いて驚いてたけどね……。
魂送り当日は、舞踏会が始る頃に屋敷を出ればいいと言われた。
ユリ君と合流したらまずは夕飯だと。
舞踏会では食事は出ないのかと思ってたけど、ファーストダンスをベルリーナ嬢と踊ったらすぐに会場を出るから、という理由らしい。
豪華な食事が出るんだろうから会場で食ってくればいいのに。
魂送りで夕飯は食べてこないと言われて、ふと考えた。
魂送りは盛大なパーティーを開いて死者を精霊の元に送り出す行事だ。
亡くなったのは前聖女、つまりユリ君のおばあちゃん。
ユリ君だって本当ならちゃんと参加して、おばあちゃんを送り出したいんじゃないかなと。
前聖女ってことは僕にも関わりがない訳じゃないので、本来なら僕も魂送りに参加すべきだ。
……まぁ、とはいえ舞踏会に出る気はないんだけど。
魂送りの本質は『生者が死者を想ってパーティーを楽しむ』。
つまりパーティーを楽しむ気持ちがあればいいわけだ。
僕ができる『楽しい事』といえば……料理だ。
ということで、キリアンさんに当日の夕飯の一部を自分に担当させて貰えないか聞いてみた。
王族専属の料理人の腕には敵わないが、僕もそこそこ料理はできる。
酒を飲むのが好きだから、つまみになるようなものなら得意だ。
キリアンさんはまさか僕が料理を作らせろなんて言うとは思っていなかったようで、不審者を見るような目付きで僕を見てくる。
理由を説明したけどあまり納得がいってないようだった。
先日ユリ君の工房で飲んだお酒を例えに出して、「あの酒なら、燻製鴨肉にイチジクジャムを乗せたやつとか、キノコのアヒージョとかが絶体に合うと思って」というと、キリアンさんの様子が少し変わった。
「アヒージョ、というのは?」
僕がユリ君に得体の知れないものを食べさせることに警戒しているのかと思って「いろんなキノコに塩やスパイスを混ぜ込んでから、オリーブオイルで弱火でじっくり煮るんです。豆や鶏肉なんかを入れても美味しいですよ。具材の旨味が凝縮したオイルをバゲットにつけると、これまたワインにピッタリで……」と、ここまで説明した途端、キリアンさんが音をたてて立ち上がった。
怒られると思って身構えた途端、キリアンさんが僕の手を力強く握ってきた。
「素晴らしい、実に素晴らしい!
当日は私の秘蔵ワインを持ち込ませていただこう!」
*****
「えーっと。ギガル様は」
「キリアンとお呼び下さい」
「キリアン……さん、はおいくつなんですか?」
「今年四十五になります」
「え!? 同い年!?」
「ダイスケ様も、ですか」
「落ち着いて見えたから勝手に年上かと思ってました」
「この髭のせいか、大抵は年上に見られる事が多うございますね」
「僕もなんですよねー。純粋に老けてるから。
ちなみにいくつ位に見えてました?」
「大変失礼ながら五十代かと」
「で、ですよねぇ」
スーパーで売ってる鴨肉のハムにイチジクジャムを乗せるだけでワイン泥棒なおつまみになるのでおすすめです。
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