4月21日(日):ダイスケside①
聖女候補と補佐官達が呼び出され、カイル様の執務室に入った時点でヤバさは感じていた。
カイル様とユリ君が二人ともご機嫌ナナメな様子で、部屋の空気がピリピリしている。
アニー様がこっそり耳打ちして教えてくれたが、アニー様と女王陛下が作ったチーズケーキのほとんどをユリ君が持ち去ってしまったせいで、カイル様は一切れも食べられなかった事がこの空気の悪さの原因らしい。
この食の恨みがとんでもないことになろうとはこの時は思わなかった。
前聖女の魂送りの舞踏会が来週末に開かれることになった。
魂送りとは日本で言うところの四十九日みたいなもので、死者のためにパーティーを開いて精霊のもとに魂を送り出す儀式だ。
選抜試験の始めの頃にこの舞踏会があることは知らされていた。
ちなみに異世界召還された聖女候補に参加義務はないので、舞踏会のことを知らされた時点で不参加を表明していた。
普通に話は進むかと思っていたのに、聖女候補であるベルリーナ嬢を誰がエスコートするかという話になった途端、問題は起きた。
ユリ君が「僕はアニー嬢をエスコートする」と言い出したのだ。
ユリ君いわく「最近の『ストラリズ』の記事によると僕とベルリーナ嬢の仲を世間では誤解している人が多いみたいだから、ここは僕がエスコートすべきじゃなきと思う」だ、そうだ。
実際問題、そういう考えになるのは仕方ないけど、ユリ君の問題発言の真相は「ベルリーナ嬢と踊りたくない」と「たかがチーズケーキで怒ってくる兄への嫌がらせ」の二つだと思う。
ユリ君は性格がねじれまくっているので、ベルリーナ嬢よりアニー様を優遇させることで、アニー様は誘いを断わらないと確信しているんだ。
そしてアニー様を誘えばカイル様に大打撃を与えられる事も……。
ユリ君に翻弄されているアニー様はオロオロしっぱなしだし、ユリ君に相手にされないベルリーナ嬢は泣き出すし、カイル様とアライザスは「聖女候補であるベルリーナ嬢の意見を尊重すべきだ!」と怒っている。
なんなんだ、このカオスな空間は。
カイル様が素直に「アニー嬢のことは私がエスコートする」って言えばいいんだよ。
そしたらアニー様だって大喜びだ。
恋愛に疎い僕にだって二人がいい感じなことくらい分かるんだぞ。
なんで舞踏会に不参加の僕がこんな面倒な事に巻き込まれなきゃならないんだ。
そうぼんやり思っていた時、いきなり僕に矛先が向いた。
「それなら僕はダイちゃんをエスコートする!」
「それならば構わん!」
いや、そうはならんだろ。おまえら馬鹿兄弟か。
僕は心のツッコミが表に出ないよう、冷静に「僕は舞踏会は不参加なので無理です」と答えた。
それからしばらく話は平行線を辿った。
アニー様は「もうどうでもいいわ」と言わんばかりに呆れたまま兄弟ゲンカを眺め、ベルリーナ嬢の嘘泣きも限界に近づいてきていた。
……しかたない。最年長の僕がなんとかしなくては。
*****
「それなら僕はダイちゃんをエスコートする!」
「それならば構わん!」
「……僕は舞踏会は不参加なので無理ですね」
「ダイスケ。頼む。ここは君が折れてくれたら全て丸く収まるんだ」
「新聞によると国民は僕の情報を知りたがってるんですよね?
そんな中、ダンスもできない冴えない中年男性が聖女候補としてユーリス様のエスコートをうけて会場入りするですって?
そんなの絶対に嫌です。
聖女候補の意見を尊重するべきっていうなら、僕の意見も尊重してください」
「く、くそ!」
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