4月19日(金)
屋敷に男が侵入する事件があった。
正しくは『屋敷の庭』だったけど、立派な不法侵入だ。
王家のご厚意で騎士の方々が見張りをしてくださっていたお陰で屋敷内に侵入されることがなかった点は救いだった。
不法侵入者はすぐに王城へと移送され、カイル様の取り調べに私も同行することになった。
男が語る不法侵入の理由は呆れたものだった。
大衆向けで人気の新聞『ストラリズ』が今いちばん力を入れている記事が『聖女選抜試験特集』で、ユーリス様とベルリーナのデート試験以降、試験に対する熱い内容の記事が載っている。
特にデートの詳細が書かれた記事は圧巻で、いくつもの挿し絵がついて、まるで恋愛オペラをそのまま小説にして読んでいるようだった。
昨日の記事に書かれていたのはベルリーナの略歴や、彼女がいかに聖女にふさわしいかという内容だっだが、合わせて書かれていたのが『異世界召還された聖女候補についての情報提供者には報償金を支払う』という知らせだった。
異世界召還の聖女候補は基本的に聖女にならない限り公の場に姿を見せない。
異世界からの候補者より自国の候補者を聖女にという国民の声が強いので、無駄な争いを避けるためらしい。
前なら自国の聖女だけにすればいいと思っていたが、自国の候補者がベルリーナのように性格ブスな女だったり、ダイスケのように召還した候補者が絶大な能力を持っていたりするのを目の当たりにすると、やはり自国の候補者だけでは駄目なんだなと分かった。
異世界から聖女候補を召還するのは神官長の役目であり、世話をするのも神官長の仕事だということは周知の事だ。
報償金目当てや、ただの野次馬根性で屋敷に侵入しようと考える者はこの男以外にも現れそうだった。
現在、お父様もお兄様も神殿に籠っている状況で、親族を頼って身を隠そうにも最善の方法が思い付かない。
執事に助けを求めるにしても最終決定をするのは私なのだ。
今後の対策を考えるため、侵入者の処遇はカイル様にお任せして帰ろうとすると、話を聞き付けたらしいユーリス様がやってきて、のんびりした口調でこう言った。
「試験が終わるまでダイちゃんとここに住めばいいよー」
過去の選抜試験でも似たような事があり、聖女候補を城で保護した記録を図書館から見つけてきてくださったのだ。
過去の実例があるならばとカイル様も同意してくださり、私とダイスケは王城に保護してもらえることに。
今回は不法侵入という実害が出たため、新聞社に対して王家からクレームを入れたので、今夜にでも報償金の取り下げ記事が新聞に載るだろう。
ということで、今この日記は王城の客間で書いている。
先ほど、国王陛下と女王陛下へのご挨拶を済ませてきたけれど、女王陛下がこっそり私にウィンクをしてくださったのが可愛いらしかった。
それにしても、あの新聞は許せないわね。
もしか情報を流しているのはベルリーナなんじゃないかしら。
あの女ならばやりかねないわ。
*****
「四回目の選抜試験の時にダイちゃんに見せようと思って、蔵書から過去の試験の記述書をピックアップしといてよかったよ」
「今回ばかりはユーリスに助けられたな」
「でも、カイル様?
自作自演の可能性は高いですが、ベルリーナも嫌がらせを受けてますわ。
わたくし達だけ保護していただいて大丈夫ですの?
アライザスから不公平だと言われませんでしょうか」
「その時はベルリーナ嬢も城で保護すべきだろうな……」
「えぇっ!? そんなのやだよ!」
「ユーリス、我が儘を言うな」
「では、もしアライザスが文句をいってきた際はわたくしを悪者にしてくださいまし」
「ど、どういう意味だ」
「ダイスケ保護という名目の他に、ベルリーナへの嫌がらせの主犯がわたくしである可能性が高いので監視下に置いていると言えば良いのです」
「確かにそれならば文句は言われまいが、それではアニー嬢にあらぬ汚名がかかるではないか!」
「構いませんわ。
犯人ではないことは王家の皆様が信じて下さってますもの」
「ありがとう、アニー嬢……」
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