4月18日(木):選抜試験四回目/別視点(イラスト有)
【注】一番最後にイラストがあります。登場人物のイメージを壊したくない方は本文を読み終わった後スクロールを止めてください。
大輔は正直、そのカメラのレンズの正体に気付いて欲しくなかった。でもめざといユーリスは見つけてしまったのだ。
主な用途:自撮り
というレンズに。
「これはインカメラって呼ばれてるんだけど……主に自分や、友達と撮影する用のレンズだね」
「ってことは、写真嫌いなうえに、いんきゃで四十五年間友達がいないダイちゃんは一度も使ったことがないわけだ」
二十歳以上年若い『友達』は悪気なく明るい声で、尖ったナイフのような言葉を大輔に投げつけてくる。
どのアイコンでインカメラが起動するのかを聞かれ、大輔は知らないと嘘を付いたが、そんな抵抗もすぐに打ち崩された。
ガジェット好きというのは説明など無くとも、勘でなんとかしてしまうものなのだ。
「ねえ、見て! 僕の顔が画面に映った!」
そう言って顔面偏差値一億の美形顔を画面に映し出してシャッターボタンを押す。
写真嫌いな大輔はうっかり起動させてしまったインカメラで自分の顔が画面に映るだけで嫌悪感を抱くので、ユーリスの行動にはついていけそうにない。
『あちらの世界』でもそうだった。
街で自撮りをする人達を見かけるたびに、何がそんなに楽しいんだろうと疑問に思っていた。
皆、自分の顔に自信があるんだろうか。容姿が悪い自分が言うのもなんだが、自撮りをしている人の大半は美形とは思えない、と。
その点ユーリスは違う。黙っているだけで国宝級のイケメンだ。
彼の自撮りはさぞかし素晴らしい絵画のようなのだろう。
そんなことをぼんやり考えながら撮影の様子を見ていると、大輔の視線に気が付いたのかユーリスがスマホを持ったまま近寄って来て隣に腰を下ろした。
ユーリスは不敵な笑みを浮かべている。
彼がこういう顔をするときは決まって王子ハラスメントをしてくることをよく知っているので、大輔はすかさず立ち上がろうとしたが、肩を抑えされて無理矢理座り直されてしまった。
「さっきこのレンズは『友達と撮影する用』だって言ってたよねぇ?」
「……嫌だぞ」
「まだ何も言ってないじゃん」
「僕と写真を撮りたいっていうんだろ」
「あたり」
「そういうのはアニー様とかベルリーナ嬢とか……女の子と撮りなさい」
大輔は諦めずソファから立ち上がろうとするが、再度肩を掴まれて座らされる。
王子らしく訓練はしているようで、その力強い筋力に非力な大輔は全く歯がたたない。
「僕の友達はダイちゃんだけなんだぞ。
ねぇ、撮ろうよー! ねぇー!」
「ただでさえ写真を撮られるのが苦手なのに、君みたいなイケメンとなんて写れないよ!」
「ん? 『いけめん』って何?」
「……かっこいい男のことだよっ」
どうせロクな反応は返ってこないだろうと思っていたが、案の定ユーリスは「僕のことかっこいいって思ってくれてるんだー!」と大輔に絡んできた
「まぁ、確かにダイちゃん、見た目は地味だけど……僕にとっちゃダイちゃんも『いけめん』だよ」
「は!? おじさんをからかうのもいい加減にしなさいよ」
「だって、男なのにユニコーンになつかれたり、池の水を聖水にかえちゃったりさ?
ワイヤレス充電器の事を一緒に考えてくれたり、僕と友達になってくれたじゃん。
ダイちゃんは聖女候補っていうより、僕にとっては異世界から来たヒーローだよ」
そういってユーリスは大輔の肩に手を回す。
「ダイちゃんは、かっこいいヒーローで僕の自慢の友達だよ」
暗くてジメジメした人生を送ってきた大輔にとって初めて言われる褒め言葉に思わず顔が熱くなり、感動のあまりじんわりと目が潤んでくる。
「スキあり!」
そう言ってユーリスは大輔の肩を勢いよく引き寄せて撮影ボタンを押した。
しかし、勢いで写した写真がまともであるはずもなく、画像フォルダーに収まったのは顔の判別がつかないレベルの手ブレ写真だった。
よほどショックだったのかブツブツと文句を言いながらいじけ続ける王子を見かねて大輔が折れた。
「あー……いいよ、一緒に写っても」
「……へ?」
「一枚だけだよ。気が変わらない内に早く」
ユーリスは慌ててスマホを構えたが、今度は一呼吸置いてゆっくりと撮影ボタンを押す。
「撮らせてくれてありがと」
「……まぁまぁ良い写真なんじゃないか?」
「僕らの友達記念写真だから良い写真なのは当たり前さ」
満面の笑みを浮かべる絶世の美男と、ぎこちない笑顔の冴えない中年のツーショット写真は、その後宮廷画家によって大きいサイズに模写されて王子の部屋に飾られるのだが、それはまた別の話。
【小話】
大輔は普段ちゃんと髭を剃ってますが、夜更かししてるので無精髭が生えてます。
ユーリスにも生えてますが薄い色の金髪なので写ってないだけです。
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