4月11日(木)
カイル様からお声がかかったので城へ。
いつもの四阿に案内されたのだけれど、どうにも様子がおかしい。
いつも用意されているはずのキラキラスイーツ達がテーブルの上に一切ないのだ。
カイル様はいつも以上に眉間の皺を深く刻んでいる。子鼠くらいなら挟めそうな程だ。
どうやら、頼んでいた菓子の到着が遅れているらしい。
お茶会の形式は取っているけれど、あくまで主題は試験の不正に関しての議論だ。
「お茶を頂きながら嫌な話を先に片付けたほうが、お菓子も美味しく食べられそうだから良かったですわ」と言うと、カイル様はそう言ってくれて助かると笑って下さった。
ダイスケがピーターから聞いた話を伝えると、やはり彼の目撃情報だけでは不正を問うことはできないが、目撃されていることをアライザスに言って、反応を見ることは有益なのではないかというのがカイル様のお考えだった。
幸いダイスケはピーターからは目撃者が自分だということをアライザスに伝えていいと許可を得ているらしいので、彼の好意に甘えることにする。
腹心の部下からの密告を知った時、彼はどういう反応を示すのだろう。
そんな話をしながらお茶を飲んでいたら、カイル様が突然お茶を吹き出した。
私にかからないよう下を向いたせいかお召し物が紅茶でびしょ濡れになってしまう。
慌ててハンカチを取り出してカイル様にお渡ししようとした時、背後から女性の声がした。
「とびきりのスイーツをご用意いたしましたぁ~」
シュークリームにエクレア、ジャムクッキー、ベイクドチーズケーキが乗ったカート……を押してきたのは、どこからどう見ても女王陛下だ。……メイド服姿の。
見間違いかと思ったが、カイル様が「母上っ! 一体何を!?」と叫んで駆け寄っていったので、やはり陛下で間違いないらしい。
「よく似てると言われますけど、私、メイド長のエリーですわ。
カイル様ったら幼い頃から私の事を女王陛下とお間違えになるんですよね、おほほ」
なるほど。陛下はあくまでメイド長として突き通したいらしい。とあらば、国民としてはその遊びに乗って差し上げなくては。
「ところで、その美味しそうなスイーツはもしかしてエリーさんの手作りですの?」と声をかけると、陛下は花のような笑顔をほころばせた。
「私、お菓子作りが得意ですのよ。
カイル様とユーリス様が幼い頃にはよく作って差し上げてたんですけど、最近はそういう機会もなくなって……。
久しぶりに腕をふるわせていただきましたわ!」
そう自信満々にいう陛下は普段式典で拝見する威厳ある姿とは違って、少女のように可愛らしい。
式典でお見かけしただけだと分からなかったが、どうやらユーリス様のユーモラスなところは女王陛下譲りのようだ。
「カイル様、ぜひアニー様から感想を伺っておいてくださいね」と、おっしゃって陛下はメイド服を翻して去っていった。
有名店のスイーツと比べると見た目に豪華さはなく素朴な印象のお菓子だったが、食べてみると有名店に引けを取らない美味しさで驚いた。
特にチーズケーキとジャムクッキーは絶品で、食べきれない分はお土産として頂いてきてしまった程だ。
こんなに美味しいお菓子を少年時代に食べられていただなんて、カイル様とユーリス様が羨ましい。
ただただ絶賛してしまったので嘘くさく思われないか心配だが、カイル様には是非とも忠実に感想を伝えてほしい。
そうしたらまたあのチーズケーキが食べられちゃったりして…………なーんてね。
*****
「こう見えてわたくしもお菓子作りをするんですのよ。
ごく簡単なものばかりですけれど」
「そうだったのか」
「こちらのジャムクッキーは、以前作って失敗したことがありますの。
生地をちゃんと焼こうとしたらジャム部分が盛大に焦げてしまいましたわ」
「ははは。アニー嬢はスイーツに関しては拘りが強いから悔しかったのでは?」
「その通りです! 今思い返しても腹立たしい!
是非ともエリーさんにレシピを教わりたいですわ」
「後で母上に聞いておこう」
「『エリーさん』でしてよ」
「そ、そうだったな」
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