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4月9日(火):ダイスケside

 三回目の試験が終わって疲れが出ているだろうに、マーティン様は今日から数日間は神殿に泊まり込みだそうだ。


 今は聖女がいない状態なので、神官達が二十四時間交代制で精霊に祈りを捧げ続けているらしい。

 聖女であれは十五分程で終わる仕事なのに、だ。

 神官さん達の事を考えると、デスマーチから早く解放してあげて欲しいところだけど、選抜試験はまだ残り二回もある。

 ……頑張ってください、神官さん達。


 マーティン様は大変そうだけど、僕は試験終わりの解放感を堪能させてもらった。

 本音を言うなら一日中寝ていたかったけれど、居候の身なのでそれはさすがに気が引ける。

 ふと、昨日作った聖水池の畔で昼寝でもしようと思い立ち、午後からふらりと出掛けてきた。


 しかし聖水池は昼寝なんてできるような場所じゃなくなっていた。

 動物が水浴びに使ったり、悪意ある人間に汚されたりしないよう、周りに管理施設を建てる事になったらしい。


 僕が余計なものを作ったりしなければ……といつものネガティブモードに突入しかけた時、池の側に立つアライザスの部下の人が目に入った。

 弟さんのために僕が作った聖水を使わせてくれと話しかけてきたあの人だ。

 彼がそう言ってくれたおかげで、自分が作ったもので救われる人がいるんだと分かって自信が持てたんだ。

 彼に話しかけてもらわなければ、アライザスの目の前で木の魔法石を即席で作って見せるなんてパフォーマンスはしなかったと思う。


 僕に気付いたらしく、彼がこちらに駆け寄って来た。

 改めて名前を聞いてみた。

 彼の名前はピーター。カイル様と同い年ということだから19歳年下だ。


 あの試験の後、すぐにカイル様に聖水の汲み取りと聖業部に休職の許可を申請したらしい。

 聖水を汲み終えたら今日にでも弟さんのところに旅立つと言っていた。


 「こちらに戻る頃にはもう選抜試験は終わっていると思いますが、毎日貴方の即位を願って精霊に祈りを捧げます」と、くすぐったくなるような事を言われた。

 こういうの、馴れてないんだよなぁ……。


 別れ際、ピーターさんが声のトーンを落として耳打ちをしてきた。

 なんでも、一回目の選抜試験の頃から真夜中に『小柄な人なら入りそうな程の大きな鞄』を背負ったアライザスが御神木の森に入って行くのを何度か見かけたらしい。

 彼が言うには、試験内容は秘密だとはいえ、聖女に浄化の魔法石は欠かせないものだから、魔法石に関連した試験が出されることはこちらの世界の人間であれば予測は容易な事らしい。

 だから、魔法石の試験が出ることを見越して何日もかけてあの大きな魔法石を作ったのでは、というのがピーターの予測だった。


 真夜中に大きな鞄を背負い御神木の森に入るアライザスを見たというだけで、不正の証拠は何もなくて申し訳ないとピーターは謝っていたけど、きっとアニー様であればこの情報も有効活用してくれるだろう。


*****

「そんな事があったのね……」

「そうなんですよ。だから念のためカイル様にもお伝えしておいた方がいいんじゃないかなって」

「そうね。後でカイル様に手紙を出すわ」

「……ってことは明後日あたり、アニー様はカイル様とお茶会ですかねぇ」

「な、なによ。ニヤニヤして」

「いやぁ、カイル様ってアニー様とのお茶会を楽しみにしてる感じがだだ漏れなんですもん。

 アニー様から手紙がきたら、大急ぎで国中のスイーツ店からお菓子を取り寄せそうだなぁって」

「そ、そんなことはないでしょっ。

 だってわたくしがユーリス様ひとすじな事はカイル様はご存知のはずだもの」

「その人が誰を好きであろうと、好きになっちゃうものは仕方ないかと」

「……じゃあ貴方もそういう経験があるってことね?」

「……。

 …………。

 あ。僕、読み途中の本があるんだった」

「逃げるなっ!」

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