4月6日(土)
お父様の元にカイル様からお茶会のお誘いが来たので、私とダイスケも一緒に城へ行ってきた。
ベルリーナの花壇が踏み荒らされた件をお父様から聞いていたので、その話をしたいんだとは思うのだけれど、表向きはお茶会となっていたのがちょっと嬉しかった。
それだけで、私を事件の首謀者として糾弾したいのではないんだなというのが伝わるもの。
前回と同じ四阿に案内されたけれど、そこにいたのはカイル様だけではなかった。
ユーリス様が!! キラキラオーラのユーリス様もいらっしゃるじゃないの!!
ユーリス様にエスコートされ椅子に座らせていただくだけで天にも昇る心地。
ほんのり香るシトラス系の香水が私の心をくすぐってくる。
そこにいるだけで国宝。それがユーリス・フォン・ジュリティア王子…!!
ユーリス様の存在にふわふわと舞い上がる私を見て「ユーリスを呼んでおいてよかった」とカイル様は苦笑していた。
カイル様だけのお茶会でも光栄ですわと慌てて返事をしたけれど、その直後「今日の菓子はユーリスが選んだ」と言われ、感動のあまり五分ほどユーリス様への賛美を語りまくってしまった。
お父様が止めてくれなかったら三時間はユーリス様について語っていたかもしれない。危なかった。
お茶会のメインの話題はやはりベルリーナの花壇の件だった。
カイル様も立て続けに起こる『アニーの犯行を匂わせるベルリーナ被害者事件』に違和感を感じ始めたらしい。
それもこれも、泣きながら私に会いたくないというベルリーナの様子が嘘くさく、自作自演の匂いを察知したからなんだとか。
ベルリーナは策略家に見えてただの芋女優なのかもね。
今はまだ私に嫌疑を向けるには証拠が足りない状況だけれど、今後は証拠を捏造してくる可能性があるので注意しろというお話だった。
ユーリス様から王立騎士団から数名を我が家の守衛と偽って見張りに潜入させるのはどうかというありがたいお申し出があった。
カイル様も同意してくださったのでその好意をお受けすることにした。
私がベルリーナに対して怪しい動きをしていない証拠にもなるし、一石二鳥だものね。
ベルリーナの件がひと段落したところで、ダイスケがユーリス様に薄い板のようなものを手渡した。
ダイスケに何かを言われたユーリス様がその板の一部を押すと、板から聞いたこともない音が鳴り、板の表面がぼんやり光りを放った。
その途端ユーリス様は奇声をあげて椅子から飛び上がり、庭をスキップで駆け回りだしたのだ。
な、なにがあったというの!?
呆気にとられる私とお父様とカイル様。
なんでも、その板はダイスケが自分の世界から持ち込んでいた唯一の魔道具で、金属とも木製ともとれない材質の『スマホ』なる薄い板はこちらの世界ではあまり使い物にならないものなうえに、動くかどうかも微妙な代物だったらしい。
でもユーリス様が大はしゃぎしているところをみると、どうやら動くことが分かったのかしら。
ダイスケの魔道具の解説に夢中なユーリス様。
お父様も魔道具に関心があるらしく、三人で私がわからない話で盛り上がっていたけれど、カイル様だけが私に会話を振ってくださった。
「ユーリスがあんな状態でアニー嬢には申し訳ないが、私としてはアニー嬢とゆっくり話ができて嬉しいよ」
そう、柔らかな笑顔でいうカイル様の眉間には、いつも深く刻まれている皺は存在しなかった。
あんな風に笑う事もできる人だったのね。
結局、ユーリス様とはちっともお話できなかったけれど、カイル様の意外な一面を知れただけで満足だった。
*****
「起動できたのはいいけど、こちらの世界でできる事はあまりないんですよね……。
僕がいた世界の『力』のようなものに繋がればすごく便利なものなんですけど。
あ……。音楽だけは聴けるかも」
「これ、音楽も聴けるのかい?」
「ちょっと待っててくださいね。
ううううん……。昔の曲しかないなぁ。若い子が好きそうなのは……。
あ、これならいいかも」
「う、うわ! す、すごい! こんな薄い板なのにオーケストラがそこにいるみたいな音が聞こえる!」
「喜んでもらえてよかった。僕がいた日本で流行ってた歌なんです」
「軽快で元気が出そうなリズムだねぇ。どんな歌なの?」
「えーと……女性に振られた男性が、その女の人は自分の運命の人じゃなかったって歌っていて…」
「え。こんなに明るい曲調なのに悲恋の曲なの!?」
「……まあ、僕が聞く恋愛の曲はほとんど悲恋なので……」
「か、かなしい……」
「すいません……。
あ。そのスマホ、僕がこちらの世界で持っていても意味がないのでユーリス様に差し上げますよ」
「え!? いいの!? ほんとに!?」
「魔法を試すなり分解するなり、ユーリス様のお好きにしちゃってください」
「わああああ! ダイちゃん、ありがとう~~~!!」
「「「(………『ダイちゃん』???)」」」
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