4月2日(火)
カイル様から登城要請があったので午後から城へ行ってきた。
ベルリーナの事件に関しての事ならお父様も呼ばれるはずなのに、今回呼ばれたのは私一人。
馬車に揺られる中、小枝なら挟めそうなくらい深く刻まれたカイル様の眉間の皺を思い出して憂鬱になった。
王城に到着して案内されたのはカイル様の執務室ではなく、色とりどりの花が咲き乱れる庭園だった。
庭園中央の四阿には豪華なティーセットと宝石のように輝くスイーツの数々……。
女の子なら誰もが夢見るキラキラなシチュエーションの場に、いつものダークトーンの服に身を包んだ顰め面のカイル様が立っている。
これは良い夢なの? それとも悪夢?
そこに立つべきなのはキラキラの代名詞のユーリス様じゃなくて?
お堅いカイル様とキラキラのミスマッチにどうにも頭が着いていかず、混乱のあまりに逃げたくなった。
カイル様は眉間の皺はそのままに私をエスコートしてくれた。
てっきり例の事件の進展報告があるのかと思っていたが、今日の呼び出し理由は先日の非礼を詫びるお茶会へのお誘いだったらしい。
それならそうと手紙に書いてくださればよかったのに!
「私から『共にティータイムを』なんて誘ったら警戒して断られるかもしれないと思ってな」とカイル様。
それはまぁ……確かにそうかもしれませんわね……。実際、逃げ出そうとしていましたし。
カイル様が用意してくださったスイーツはお気に入りの店で売られているものばかりで驚いた。
それもそのはず、お父様から私の好みを聞き出したらしい。
先日、お父様が私に「お気に入りの店で好きなだけお菓子を買ってやる」と言っていたのを覚えてくださっていたようだ。
「アニー嬢が喜ぶ物が判らず、お詫びの品がお父上と同じ菓子になってしまい申し訳ない」
そういって申し訳なさそうにしているカイル様は、耳と尻尾を垂れてしょぼくれる犬っぽくて可愛らしい。
ふと、カイル様の婚約者の事を思い出した。
その方は幼い頃から親交があった隣国王家の姫君で、カイル様とは同い年。婚約前からとても仲が良いいお似合いのカップルだったけれど、三年前、結婚式前の帰省中に流行り病でお亡くなりになったと記憶している。
私が喜ぶものは分からなくても、その姫君の喜ぶものなら何でも分かっていたのだろうなと思うと、少し切なくなってしまった。
そんなことを考えていたせいか黙り込んでしまった私を見て、カイル様は「やはりユーリスを呼んでおくべきだったな」と落ち込んでしまった。
慌てて「素敵なお茶会過ぎて呆気にとられていただけですわ!」と否定すると、カイル様はどこかホッとした表情を浮かべた。
本音を言うと、ユーリス様を呼んでおいて欲しかったですけどね!?
お茶会の話題はもっぱらベルリーナの事件の話だった。未だに犯人は捕まっていない。ペンキの購入経路さえ分からないのは不思議だ。
「王立騎士団が調べても犯人が出てこないのなら、ベルリーナの自作自演なのでは?」と冗談まじりに言ってみたら、「そうやって決めつけるのはよくないと君自身が言っていただろう」と怒られてしまった。
でも帰り間際、カイル様はおっしゃった。
「自作自演の件も含めて調べさせてみる」と。
もし本当に自作自演ならば面白い事になるのだけれど。
*****
「ところで明日の試験なのだが」
「ベルリーナ、棄権いたしますの?」
「しない……。ただ、アライザスが会場まで付き添う事になった」
「一人で参加が義務ですのに?」
「会場までだ。馬車からは試験官も付き、アライザスとの会話は認めない。
試験会場にはアライザスも入れない」
「それでは、あまりアライザスが付き添う意味がないように思いますけど」
「信頼できるアライザスが側にいないと部屋から出ないと言うのでね……。
不満であれば君もダイスケに付き添うか?」
「必要ありませんわ。ダイスケなら大丈夫ですもの」
「……意外だな。君ならまた私に食ってかかってくるかと思った」
「わ、わたくし、そこまで話が通じない女じゃありませんことよっ!?」
下にある評価・いいねボタンを押していただけると今後の更新の励みになります。よろしくお願いいたします。




