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明日世界が終わります。  作者: 成浅 シナ
28/30

28宛がある

背筋にビリリと電気が走ったような感覚がして無意識にピンと背を張った。

同時に感覚が遠くなるような感じがして周囲の音も、状況も頭に入らなくなる。



「『あと一時間』...?」


慌ててポケットからスマホを取り出すも取り落としてしまう。

手から逃れたスマホはそのまま地面へと落下し、音を立てて転がった。


震える指でひび割れてしまったスマホを操作しネットを開く。


探すまでもなくどデカい字で書かれているのはとんへーの言葉通り。

凡その落下時間も書かれている。


どうしていつもスマホを触ってばかりなのに肝心な時にチェックしていなかったんだ、と後悔し、『ああそうだ』と思い直して肩の力が抜けた。


知っていても、知らなくても大した差はない、と。



同じように俺のスマホを覗き込んでいた嘉新が顔を上げる。

目が合った瞬間、嘉新は目を一瞬伏せ、でも直ぐにまた上げていつも通りニコッと笑った。



抱きしめたい衝動に駆られる。


『大丈夫だから』、『俺が守るよ』。そうでも言って安心させたい。本来なら。


でも意味がない。


歯を食いしばって泣きたくなるのを堪えた。



「...大丈夫です?」


声の方向へ顔を向けるととんへーが心配そうに眉を寄せていた。


それに答えようと口を開き


「...まー、大丈夫じゃないっすよね」


何か言う前にとんへーの言葉に遮られる。


「オレもちょー怖いです。不安で不安で発狂しそう。最後に一緒にいたい人がいるお2人がめっちゃ眩しーです。...でも、まあ、オレには死ぬ前にやることあるんでそこら辺はまあ...」


「やること?」


今度は嘉新がそう尋ねた。


「はい」ととんへーは頷き


「オレは世界を最後まで笑いあるものにしたい。人の恐怖も不安も哀しみも、オレは所詮他人だから背負ったり関わってスマートに解決!なんてのは無理です。でも少しでも軽く出来るならって。それはITuber始めたときから決めていたことです。世界が終わるからってそれは変わらない」



とんへーは覚悟を決めた、闘士宿る目で手を強く握る。



そして顔を上げて、にへらと笑った。


「すみません。もしかしたらお2人が直で会話する最後の方になるかもって思ったらつい」


頭を掻きとんへーは自撮り棒を抱え直した。


「んじゃ、長居もなんなんでこの辺で。ほんとにありがとうございました」



そう言い軽快なステップを踏みながら去っていくとんへーを呆然と見送る。



そのどこか軽い歩みとは対照的に俺の心は重かった。



「そっ...かぁ......」


隣を見ると嘉新がもう姿の見えないとんへーの進んだ道をぼんやり見ながらぽつんと言った。


するりと嘉新の手が緩む。


どこか晴れ晴れとした顔で。



そんな全てを諦めて、受け入れてしまったような様子に胸が締め付けられた。


俺は嘉新の手がそのまま抜けてしまわないように強く握る。



「行こう」


手を引いて足を踏み出す。


「行くって、どこに?」


『どこに行ったところで同じでしょう?』と言うような顔で乾いた声を出す嘉新の様子に気づかないようにどんどん引っ張って


「宛がある」


『いつか』の言葉を思い出しながら俺はやけくそ気味にニヤリと笑って見せた。




「ここ...学校...?」


俺は前によじ登ったフェンスを見上げ、今度はウンと視線を下げて『あるもの』を探した。


腰を屈めてひょこひょこ歩いていると案の定疑問の声がした。


「なにしてるの?」


「んー...」


時間がないのと、答えるよりも驚かせたい気持ちが勝って応えをおざなりにしながら探し続け


「あった」


目的のものを見つけた。



俺がしゃがんで手招きすると嘉新も隣に並ぶ。


「わ、なんだこれ。いつから空いてんだろう」


そこにあるのは人がやっと通れるくらいの穴だった。



「この前侵入したときの帰りに見つけた」


驚いた顔をしてくれたのが嬉しくて、でもその自分の顔を見られるのは恥ずかしくて、結局視線を外し頬を掻きながらそう言うと「もう言い方〜」と嘉新がくすくす笑った。



「不法侵入なんだけどなぁ」


そうは言いつつもどこか楽しげな表情で嘉新が校舎を見上げた。



「今更だろ。それに...最後なんだし」


語尾がぽしょんと沈んで、最後はほとんど呟くようになってしまった。


しかし嘉新はそれに関しては何も言わず「よいしょ」とスカートなのもお構い無しに屈んで穴を通り始めた。


ちらっと見えた水色から目を逸らすついでに辺りを見回した。



相変わらず誰もいない静かな住宅街。


この前と何も変わっていなくて、このままずっと、何も起こらないで済むような。

そのくらいこの場所は世界から隔離されているようだった。

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