26終わりの合図
町にーーいや、全世界に警報が鳴り響いたのはその日の夜だった。
嘉新と想いを通じ合えて、満たされて。
2人で手を繋いで寝た。
いつ死んでも別に構わないと思っていたのに今は叶うことならこの先も生きていたいと、そう願っていた。
その矢先に。
けたたましいサイレンに叩き起されて飛び起きると嘉新も「えっ!?なに!?」と辺りを見回していた。
その視線が俺を捉え、2人で顔を見合わせる。
そしてなんの示し合わせもしていないのに2人で窓に駆け寄った。
真っ暗だった町にぽつりぽつりと明かりが灯っていく。
みんな同じように状況も分からないまま飛び起きたのだろう。
「才原くん...」
不安げな声と共に服の裾が掴まれる。
それと同時に地面が揺れた。
「地震...!?」
慌てて部屋を出てダイニングテーブルの下に潜る。
机の足を掴んで固定しても一緒に動いてしまうくらいの揺れがしばらく続いた。
やがて揺れが収まりひとまず息を吐き出した。
余震もあるだろうし建物にいれば倒壊に巻き込まれる。
だけど外に出ても逃げ道はない。
どうするか。
俺はとにかく情報を集めようとスマホを開いた。
ニュースサイトの上部にはまだ『速報』の2文字はなかった。
処理が追いついていないのか、仕事を放棄したのかはここからだと判断出来ない。
サイトを閉じて今度はTmitterを開く。
『隕石衝突!』
『これやばくね?』
そんな文字が目に入った。
その下にあるURLを開くと誰かが撮っているらしいLIVE映像が流れ始める。
それはまさに地獄絵図だった。
逃げ惑う人々、ある者は怒鳴り、ある者は泣き叫ぶ。
どこかの国の映像らしく映り込むのは日本人ではないがこれからこの光景がここでも起こると、すぐ先の未来を想像して身震いした。
グラッともう一度地面が揺れる。
ギュッと服を掴む手の力が強くなった。
ガシャンと何かが倒れる音がして外からは叫び声がする。
ビクリと嘉新の体が震え、不安げな目でこちらを見上げる嘉新の頭に手を置き俺はベッドから降りた。
このままここにいても仕方がない。
世界の終わりが来る前に建物に押しつぶされてしまう。ただでさえおんぼろアパートなのに。
「外に出よう」
ひとまず、近くの災害時の避難場所に向かえばここよりはマシだろう。
コクリと頷く嘉新の腕を引っ張って立たせ、持っていたところで意味は無いんだろうが手早く貴重品をまとめた。
そして、俺たちは鞄一つという身軽な格好で外に出た。
※
足が悲鳴を上げる。
普段運動なんてしないからなと苦笑した。
冬だというのに汗は伝って服に染みを作っていく。
それでも足を止めるタイミングが分からず足を動かし続けているとガクンっと一瞬後ろに引っ張られた。
足を止め勢いよく振り向くと嘉新が膝に手を着いている。
「はぁ...はぁ...ごめ......」
視界の端で嘉新が足を浮かせる。
そっか...
「ごめん、ヒールなのに全然気を使ってなかった」
高さのないローヒールだがそれでも走るのには不向きだし、そもそもこうして全力疾走するのにヒールはキツいだろう。
普通の人に比べたら歩いているのと大差ないレベルのスピードではあったがそれでももう少し確認するべきだった。
嘉新は「ううん」と首を横に振り
「大丈夫...。...ッ」
嘉新が顔を顰める。
ちらりと下を向いていたことから察すると...
「悪い」
俺はそう断り、嘉新の体を抱え込もうと腰を下げてーー
姿勢を変えた。
よく考えたらお姫様抱っこなんて俺のもやし並みにヒョロい腕がもつわけ無かった。
カッコつけようと思ったのに途中で落としでもすれば一大事だ。
嘉新の前にしゃがみこみ両腕を後ろに伸ばして「ん」とうながす。
「いや、でも...ただの靴擦れだし...」
後ろからする遠慮の言葉に
「いいから」
「ん」と前を向いたまま腕をもう一度ピンと後ろに伸ばす。
しつこく言うのは苦手だが置いていく訳にはいかないしこの際仕方ない。
しばらくそのままの体勢で待機する。
しばらく嘉新は迷っているようだったが腕が痺れてきたかなくらいの時間が経ったとき、遠慮がちに首に腕が回された。
その重みが背中に預けられるのを確認して踏ん張って持ち上げる。
「ひゃっ...!?」
耳元で小さく悲鳴がした。
不意のその可愛らしい声もだが腕や背中にさっきから密着してる感触にドキドキして
「さっさと行くぞ」
動揺を悟られないようにしたつもりだがやけにぶっきらぼうな感じになってしまった。
雑念を払うべく視線を地面に集中させているとふと視線をさらに下げた先に黒いヒールが目に入った。
嘉新の手からプラプラ揺れるそれはあと少しこちらに傾けば顔に当たるくらい近い。
これ余計なこと言ったら絶対クリーンヒットされるな。
そんなことを考えながら先を急いだ。




