25布団
「聞いて」
頭から布団を被ったまま嘉新が俺の袖を掴んだ。
「私...」
『何か』を言おうとしてしばらく口を開けたり閉じたりを繰り返し、キッと覚悟を決めたように勢いよく顔を上げた。勢いをつけすぎたのか至近距離で目と目が合う。
「〜〜〜ッ!?」
驚いた嘉新が距離を取ろうとして、でも2人して毛布にくるまってるから大した距離を取ることは出来ずに顔を布団に埋めた。
それを見て俺も嘉新とは少し違う意味で顔に熱が集中するのを感じて顔を背ける。
「......」
「......」
カチ、コチと時計の秒針が動く音が響く。
「...私もね、怖いんだよ。...すごく、怖いの」
しばらくして嘉新の珍しく弱々しい声が静寂を破る。
「もう...8年...ううん。10年逃げてきたことだから」
遠回しな物言いに俺はテンパる頭をフルに使って考え、嘉新の指すのが中学のときの話であることに気づいた。
心臓が大きく早く鳴る。
もしかしたら...いや、もしかして。
期待に胸を膨らませると同時にそれが勘違いだったらどうしようという恐怖が入り交じる。
「あの...あのね......」
空気に当てられ自身の想いが溢れだしそうになるのをグッと唇を噛んで堪える。
ここで嘉新の決意を不意にするのはどうしても躊躇われた。
嘉新は俺の服の裾を布団の中でキュッと握る。
「ずっと、ずっと......」
嘉新は目を潤ませ、紅潮させた顔を勢いよく上げる。
「す...『好きなのっ』...!!」
一際大きく心臓が跳ねた。
全身が熱を出したときみたいに熱くなって四肢から感覚が抜ける。
多分、今顔真っ赤だし目泳いでるし、みっともない顔してるのに、こんなの見られたくないのに。
なのに、顔を逸らせない。
嘉新は顔を俯かせて服を掴む手の力を強めた。
それ以上何も言わないことから俺が何を求められているのかはすぐ分かる。
喉はとっくにカラカラで息も詰まる。
緊張で唇も震える。
そんな状態で俺はいつもより慎重に口を開いた。
「...お......れも......好きだよ...嘉新のこと...」
嘉新は勢いよく顔を上げた。その目には驚きに染まっている。
「うそ...」
次第にその目が潤む。
「嘘じゃない」
真っ直ぐ視線と視線がぶつかった。
「え...えぇ......?」
告白したのは嘉新の方からなのに状況を受け入れられていないのか明らかに戸惑った様子だ。
「いつ...から...?」
んぐっ...
好きだと伝えるだけでもかなりの精神攻撃だったのに深堀されていくことでさらにダメージを内心食らい
「...ハッキリと、自覚したのはつい最近だよ。嘉新こそ、どうなんだ?」
やられっぱなしというのも癪に障るので意趣返しでそう聞き返す。
「んえっ!?えーっと...えーっと......」
嘉新は思いっきり取り乱し顔を上げたり俯かせたりしながら
「...ちゅ、中学のときから...なんとなく、いいなーって思ってて...でも、ずっと好きだった訳じゃなくて...、諦めたつもりになってて。...再会してから、そのぉー...また......」
段々と声は小さくなっていき言葉の続きは消える。
しかし、言葉にはならなくても理解するには十分すぎた。
「...あ、赤くならないでよ...」
嘉新に言われ慌てて布団の端を引き寄せて顔を隠す。
「いや...自分の意思じゃ、ないし......嘉新、こそ...」
「わ、私は......」
横目で見ると嘉新も同じように布団で顔を覆い隠した。
「だって...嬉しくて...恥ずかしくて......どうしようも...ないん...だもん...」
一瞬呼吸の仕方を忘れたかのように息が吸えなくなった。
心臓はバクバクを通り越してドコドコ太鼓を叩くようにうるさくて視線が泳ぐ。
上手い言葉が出てこなくて結局俺は布団に顔の下半分を隠して身体の熱が引くのを待つしか出来なくなる。
落ち着け、落ち着け、と心の中で繰り返し唱えるのにさっきから肩は触れ合っているし嘉新の体温も匂いもこれまでにないくらい近くで感じられるということもあって全く効果はなかった。
「えっと......」
どのくらいそうしていただろうか。
数秒かもしれないしかなりの時間が経っているかもしれない。
時間の感覚すら狂った俺の耳に嘉新の細い声が通った。
「これからも...よろしく、ね」
「...これまでとは違う意味で...だよな?」
不安で念押しのためそう聞くとビクンッと嘉新の肩が震えた。
「も、もうっ!分かってるくせにっ。恥ずかしいから、聞かないでよ...」
そう言って嘉新はぷいっと明後日の方を向いてしまう。
「あ、ごめん...」と謝りつつ心の中では爆発的な喜びが込み上げてきた。
誰かが俺と一緒にいてくれる。
今この瞬間だけじゃない。
これから先も、と約束までしてくれて。
瞬間、これまでのことが全て報われたかのような気がした。
嫌なことも、我慢してきたことも...死のうと思ったことさえも。
全てこの時のために必要な過程だったんだって...そういうと大袈裟だけど、本当にそう思うくらい。
心の底から嬉しさが込み上げた。
それなのに。




